9-24 騎士を目指す者たち
―1―
護衛騎士との組み合わせが終わり、やっと卒業試験がスタートする。内容はパートナーの騎士と協力して、この学院裏の小迷宮から初心の護符を取ってくるって内容だ。期限は3日間。1日で終わりじゃないんだなぁ。俺、野宿の用意とかしていないぞ。他の学院の生徒なんて、お嬢様だろうから野宿の経験なんて無いだろうし、この試験、大丈夫なのかな?
「ノアルジーお姉様、出発しないのですか?」
シリアが不思議そうに聞いてくる。こいつが俺の護衛騎士なんだよなぁ。こいつもお嬢様だしさ、大丈夫なんだろうか。
「3日ということだけどさ、野宿の用意は大丈夫なのか?」
ほら、他の組のさ、護衛騎士はさ、食料とか野営用の大きな荷物を持っているじゃないか。お前、手ぶらだよな? まぁ、槍は持ってるけどさ。
「ぬかりはありません」
シリアはじゃらじゃらと騎士鎧を揺らし、その下からウェストポーチを覗かせる。あー、魔法の袋。そうか、この世界、そんな便利な物があったな。
「まずは途中にある宿泊用の小屋を目指しましょう」
ちゃんと、そういうのもあるのか。
うーむ、もしかして、俺が、この試験の内容を知らなさすぎるのか? まぁ、俺は忙しく世界各地を飛び回っていたからなぁ。
とりあえずシリアの後をついて行くことにする。
「他の騎士達は、もう随分と先に進んだようです」
まぁ、俺がもたもたしていたからな、仕方ない、仕方ない。
「俺たちにとってはお遊びのようなものだ。ゆっくりと遠足を楽しもう」
「もちろんです。露払いは私が行います。ノアルジーお姉様はゆっくりと後をついてきてください」
はいはい、任せるよ。
シリアの槍が飛びかかってきた角の生えたネズミを打ち砕く。ホント、何処にでもいるくっそ雑魚ですなぁ。
有能な騎士がいるから、ホント、後をついて行くだけだな。これ、楽すぎないか。
「何もすることがないな」
「当然です。騎士は守るのが役目――攻撃の要である魔法使いの方々がいざという時に動けるように守り続けるのが役目です」
シリアが金属鎧に包まれた胸を張っている。はいはい、頑張ってくれたまへ。
魔法使いは後衛職、騎士は盾職、騎士に守られながら、後方から強力な魔法を放つ、と。後方だから、全体が見えるしさ、魔法使いってパーティの頭脳というか、司令塔みたいな感じだよな。まさに俺向きなクラスかもしれん。
―2―
森の中を進み続ける。森のあちこちから爆発音など戦いの音が聞こえてきた。
「皆、意外と全力なのだな」
「加減の分かる方がおかしいのかもしれません」
「にしては、シリア、お前は随分と余裕に見えるけど?」
「伯父上の教えです。しかし、伯父上の守っている領地のように戦いが日常化しているところばかりではありません。お姉様が規格外なんです」
あ、はい。みんな駆け出しだもんなぁ。
しばらく歩き続けると森の中に小さな小屋を見つけた。まぁ、小屋だから小さいよな、小さいから小屋だよな。
小屋の前にはすでに何人かの生徒達がいた。休憩中か。
「お姉様、どうしますか?」
「進もう」
ま、俺たちは余裕だからな。休む必要も無い。MPを使い切ったら、こういう場所で休憩して翌日頑張るって感じになるのかな。
さらに森を進むと小さな小川が見えてきた。小川だから小さいよな、小さいから小川だよな。
「この先です」
「場所を知っているのか?」
分身体の言葉にセリアは頷く。
「はい。さすがに一人で来ることはありませんが、騎士学校の実習で通わされる場所です」
あ、そうなんだ。そういう経験者と一緒なら迷うこともないだろうし、心強いな。
小川の先は小さな滝のようになっており、そこに小屋と小さな祠があった。石造りの祠の中は洞窟のようになっている。
「この祠の中が目的地です」
もう、か。早くないか? こんな1日で到着出来る場所に3日? 余裕過ぎないか?
「随分と早いんだな」
「今回は殆ど魔獣と遭遇しませんでしたから。普段はウルフ系の魔獣も出るんです」
ああ、それは知ってる。一気に20人くらいが進んでいるからな、襲われる確率が減ったのかな。
祠の中に作られた狭い石畳の通路を進んでいく。壁には燭台がぶら下がっており、小さな灯りが薄暗い洞窟を照らしている。
「前方から魔獣が来るぞ」
前方にシルバーウルフという線が伸びていた。噂をすればなんとやら、銀色狼が洞窟に迷い込んだのか?
「シルバーウルフ! 強敵です。何故、こんな場所に!」
あ、へ? アレ、強敵なんだ……。そんな強い魔獣じゃなかった気がするんだけどなぁ。
「任せてください」
シリアが槍を構える。この狭さだと槍は不利じゃないか?
「槍で大丈夫か?」
「一撃で仕留めます」
任せた。
「解説しよう! 狭い洞窟内では槍は振り回すことが出来ない為、突きが中心になる。しかし、そのリーチが仇となり、懐に入られてしまうと対処が難しい。その為、一撃で倒す必要があるのだ!」
「その、通りです!」
シリアが飛びかかってきた銀狼の口目掛けて槍を突き出す。槍は銀狼の口内を貫通し、串刺しにする。シリアは銀狼の刺さった槍をそのまま壁に叩き付ける。そして、銀狼は動きを止めた。ひゅー、あっさりじゃん。
「強敵でした」
シリアが額の汗をぬぐっている。
「随分と余裕に見えたが?」
「いえ、ノアルジーお姉様の言われたように、一撃を回避されてしまえば、そのまま抜かれてしまいます。油断は出来ませんでした」
「まぁ、その時は俺が倒すだけだよ」
今更、銀狼程度じゃあなぁ。魔法でも剣でも槍でも弓でも、それこそ斧でも、何でも余裕だったと思うぞ。
「さすが、お姉様。心強いです」
はいはい。先を急ごう。