9-23 見習い魔法使いたち
―1―
「あの、あの、私の護衛をお願いします」
中級クラスの女生徒の一人がジョアンの前に出て手を伸ばす。しかし、ジョアンはその手を取らない。
「すみません。すでに友人と約束しているんです」
ジョアンのその言葉に女生徒は哀しそうに一歩後ろへと下がる。演技か? 演技だな。
「お嬢さん、こんなお子ちゃまよりも俺を選びなよ! 剣の腕なら俺の方が上なんだぜ」
ジョアンの隣にいた軽そうな騎士候補生が前に出てくる。
「ルーカス先輩! 困ってるじゃないですか!」
へぇ、ジョアン君より剣の腕は上なのか。意外と騎士学校の方は優秀な生徒が多いのかもしれないな。魔法学院はレベルが低かったからなぁ。でも、まぁ、ジョアン、盾だけだもんな、参考にならんか。
「はい、では次へ。ルビィさんの護衛はこちらで選別します」
アルテミシア先生が女生徒の列を捌いていく。
なんだろうな、このお見合いとでも言うようなシステムは……。
まず、魔法学院の生徒が、これは、と思う騎士に護衛を頼む。で、オッケーが貰えたら、この学院裏の小迷宮に二人で挑むって感じらしいな。基本、騎士側が断ることはないらしいが、ジョアン君、ガンガン断っているな。まぁ、貴族のお嬢様が多い魔法学院の方が立場的には上だろうからなぁ、まず断れないよな。で、もし断られたら、その魔法学院の生徒は教師の見繕った騎士と頑張るって感じか。今年はジョアン君効果で教師が選ぶ生徒が多くなりそうだな。
ジョアンの言っている友人ってステラの事だろうからさ、先にステラを行かせろよ。なんだか見てていたたまれないじゃんかよ……。
その後もジョアンに頼み玉砕する女生徒が後を絶たなかった。もしかしたら、って感じか、いや、あの断られているのに、こちらへ振り返った時は嬉しそうな感じ、話が出来て嬉しいってミーハー気分なだけかもしれんな。そりゃあさ、ジョアンって、生きた救国の英雄って感じだもんな。
「順番を変えます。上級クラスのノアルジーさんからお願いします」
余りにも断られる生徒が多すぎたからか、アルテミシアは順番を変えるようだ。多分、実力のある上級クラスを先にすると優秀な騎士が中級クラスにまわらないって事で俺たちを後にしていたんだろうけどさ、それが裏目に出たな。
って、逆順だから俺の番か。
どうしようかなぁ。俺がジョアンに行って断られるのはしゃくだしなぁ。いや、ジョアン君が空気を読まず、ランだったらいいかー的な感じで受けたら、それはそれでステラに申し訳ないし、困ったなぁ。
とりあえず俺が前に出ると、槍を持った騎士候補生が、その手に持った槍を振り回し猛烈なアピールを繰り返していた。ジョアン君以外にさ、騎士学校に知り合いなんていないし、ホント困ったなぁ。
槍を持った子のアピールは留まるところを知らない。そうだ、俺は、このテイムした魔獣がいるので騎士の護衛はいりませんって感じで断るか。うん、そうだよ、それがいい。ないすあいでぃあじゃん。
「ノアルジーお姉様! こちらです!」
槍を持った子は我慢出来なくなったのか、ついに叫びだした。あー、もう、無茶苦茶だよ。というかだね、この、何処に、お姉様がいるのだね。いないよな? いないよな!
「ノアルジーお姉様、私が成長した姿を見て気付きませんでしたか? シリアです! お姉様のシリアです!」
うるせぇよ。気付いていたよ、気付いていた。だから、誰がお姉様だよ! なんで、お前、空気を読まずに一人だけ槍を持っているんだよ。槍って騎士しか持ったらダメなんだろ? 候補生のお前が持ったらダメだろうが。
「ら、ラン! ランじゃないか!」
ジョアンはジョアンで俺の名前を呼びながら、こちらへと駆け寄ってくる。
「人違いですわ。お……私はノアルジです」
ジョアンは分身体の言葉を無視して俺本体を覗き込む。
「僕はランを見間違えない! ラン! 魔法学院にいるって聞いていたけど……」
もきゅもきゅ。
とりあえず鳴いて誤魔化してみる。
「ノアルジーお姉様とは私が話しているのです! 例え魔王討伐の貢献者でも、そこは譲れません!」
そこにシリアまで割り込んでくる。ジョアンは相変わらず空気が読めないし、シリアはシリアで空気を読むって言葉を知らないし――何、この混沌とした空間。
「ノアルジーさん、とりあえず、あなたの護衛はシリア様ということで、よろしいですね」
混沌とした空間に恐る恐るアルテミシア先生が割って入ってきた。よろしくありません。断固拒否します。
「当然です」
シリアは嬉しそうだ。いや、俺は、お前の嫌いな気持ち悪い魔獣だろう? なんで、そんな懐いているんだよ。ホント、勘弁してくれよ。別にさ、《変身》した姿が本当の姿とか、そういうわけじゃないんだぞ。
……。
シリアに纏わり付かれたまま、出発待ちの列に並ばされる。はぁ、俺、何か悪いことをしたかなぁ。
「もう! ノアルジーさんのおかげで段取りが狂いましたわ! でも、次は私の番ですわ」
次はエミリアか。エミリアが、このシリアを引き取ってくれたら良かったのにな。
にしても、エミリアは誰を選ぶんだろうか。エミリア、大貴族のお嬢様だしさ、騎士候補生にも知り合いが多かったりするんだろうか。
エミリアは何故か騎士候補生の方ではなく、教師側の方へと歩いて行く。
「私は、あなたに護衛を依頼しますわ!」
何故か引率の竜騎士に頼んでいた。
……。
じ、自由だなぁ。俺、さすがにその発想はなかったよ。
「さすがはゼーレ卿のご令嬢です。私で良ければ喜んで」
竜騎士の人、受けちゃったよ。何が、さすが、だよ。もう無茶苦茶だよ!
次のステラは普通にジョアンを選んでいた。ま、まぁ、それが順当だよな。これで断られる不幸な生徒はいなくなるな。「くぅ、私も会話したかったです」とか、そんな言葉は聞こえない、聞こえないからな。