9-22 騎士学校の候補生達
―1―
試験は続いていく。あー、中級クラスが中心だけあって、魔法のレベルが低いなぁ。
「見るだけ無駄」
隣の紫炎の魔女なんてこんな感じもんな。
「お、ステラの出番みたいだぞ」
「なんだと」
分身体の言葉に、ソフィアは身を乗り出し、並んでいる生徒たちを掻き分け、前に出ようとする。いや、お前、それはどうなんだ。
「そ、ソフィアちゃん先生!?」
学院の生徒たちも驚いているじゃねえかよ。ここからでも見えるのにさ、前に出ようとする意味なんてないじゃないか。
ステラは黒い蛇のような雲を作り出し、腕に巻き付かせている。なんだろう、それを放つのか?
ステラはそのままお辞儀をして列に戻っていった。そうか、放たないのか。
「まだまだ」
紫炎の魔女はそんなことをいいながら戻ってきた。そうか、まだまだなのか。
「先程の魔法は?」
とりあえずシロネに聞いてみる。
「むふー。闇属性、サモンクラウドの魔法ですねー」
雲を作る魔法なのか。そういえば、木属性にはサモントレントみたいな魔法があったな。向こうは木だけど、こっちは雲なのか。
「ちなみに効果は?」
あー、《変身》スキルを使っている時なら効果が読み取れたんだけどなぁ。今は分身体だからなぁ。
「むふー、相変わらずの聞きたがりですねー」
いやいや、分からなかったら聞く、当然なんだぜー。
「雲を作る」
何故か紫炎の魔女が教えてくれた。雲を作るのかー、そっかー。いや、だから、それは見れば分かるじゃん。そうじゃなくてだな。
「むふー。熟練すれば雲を好きな形に作ることも、その密度を上げて上に乗ることも出来るようになる魔法ですねー」
何それ、便利そう。闇魔法なら俺も使えるよな? 今度、《変身》スキルを使ってノアルジ状態になった時にでもステラに見せて貰うかな。
流れるように魔法の披露が終わっていく。エミリアはファイアーボールの魔法で小さな紫の火の玉を作り、お手玉をしていた。そういうことも出来るのか、と感心したんだぜ。
―2―
というわけで翌日。分身体を上に乗せ、学院前に集合する。おー、ちゃんと全員集まっているな。昨日の魔法披露で失格になった生徒はいないみたいだ。いや、まさか、昨日の魔法の披露は試験と関係がないのか? そんな、まさか……。
「ノアルジーさんも来たようですね」
えーっと、引率はアルテミシア先生ですか。余計な事をしそうな紫炎の魔女あたりが出しゃばってくるかと睨んでいたんだがな。
「もう、遅いですわ!」
ちゃんとエミリアとステラの姿も見える。いや、俺ものんびりしていたワケじゃないんだって、こう、準備というものがだなぁ。というかだね、試験を翌日に回したのが良くないと思うんだ。魔法を披露して、そのまま実技に入ればいいのにさ。
皆で集まって学院裏へと歩いて行く。
「もう騎士学校の方達は集まっているはずです。準備はいいですね」
ふーん。にしても、だ。
「何故、わざわざ2日に分ける必要があるんだろうな? 魔法の披露は、あの人数でも午前中で終わったじゃないか」
俺は隣を歩いているエミリアに分身体で話しかける。それを聞いたエミリアは今日も飛び抜けてご機嫌な髪型を揺らしながら大きなため息を吐いた。
「誰も彼もがノアルジーさんほどMPを持っていませんわ。特に今回は中級クラスが中心ですのよ」
あ、そうか。MPを回復させる為に翌日なのか。この世界の人々って、基本最大MPが増えないと思い込んでいるんだよな。だから、魔法を効率良く扱える方向で技術が発展したって事だし、あー、そうか。中級クラスなら魔法を1、2発撃ったらMPが殆ど残らないかもしれないもんな。
学院裏の集合先には、すでに騎士学校の候補生たちが整列して待っていた。そして鎧姿の騎士候補生たちが一斉に剣を胸元に構え敬礼をする。って、アレ? 一人、剣ではなく槍を持った候補生がいるな。教師でもないのに、槍……か。なんだか、凄い偉そうな態度をとっているぞ。うーむ、その姿から嫌な予感しかしないんだが……。
敬礼している騎士候補生たちの前に立っていた一人の騎士が歩み寄ってくる。
「今回の監督を務めさせて貰います、竜騎士のテオフィルスです。よろしくお願いします」
その言葉を聞いたアルテミシアが驚く。
「竜騎士の方がいらっしゃるとは……」
「ははは。そうですね、ここだけの話、今回は特殊ですから」
アルテミシアと竜騎士のテオフィルスが引率者同士で話し込んでいる。何が特殊なんだか。
「まぁ、あの姿、魔王を討伐した勇者ジョアン様ですわ」
「ホント!」
「ああ、私の護衛をしてくれないでしょうか」
お嬢様方が何やら騒がしい。あー、あの盾、あの姿、ジョアン君だな。はぁ、ジョアン君もてるなぁ。まぁ、外見だけなら大人びてきて整った顔が一段と映えるようになっているし、実力は折り紙付きだし、女王の覚えはよろしいし、そりゃあ、もてるか……。
「ジョアン、お嬢様方はお前狙いみたいだぞ」
「羨ましいぜ、魔王殺しは違うな」
ジョアンが隣の騎士候補生に肘で突かれていた。
「や、やめろよ」
ジョアンは照れている。うーむ、ジョアン君、ちゃんと騎士学校で仲良くやっているみたいだな。もっと浮いているかと思ってたよ。