9-21 巻き込まれたのだよ
―1―
グラウンドにはすでに多くの人々が集まっていた。
教師や生徒だけではなく、お偉いさんがいるのは前回と一緒だな。教師側にはシロネやソフィアの姿も見える。お、中央の列にステラの姿もあるな。ステラも今回の卒業試験に参加するんだ。前回、不合格だったからなぁ。あれ? でも他は余り見たことがない顔ぶればかりだな。個室持ちの生徒たちがいないじゃん。
「エミリアさん、遅いですよ」
教師陣の中から教師の一人、アルテミシアがこちらへと歩いてくる。遅れてすいませんっすー。
「今回の卒業試験、上級クラスからの参加はノアルジーさんとエミリアさん、それにステラさんの三人だけなのですよ。そのお二人が……、上級クラスの名に恥じない行動をお願いします」
「申し訳ありません」
エミリアはすぐに謝る。なんというか、エミリアもさ、最初の頃のツンツンした感じがなくなって随分と大人になったよなぁ。まぁ、最初の頃から根は素直ではあったんだけどさ。
「すまない。お……私が遅れたせいだ」
そうそう、悪いのはノアルジなんだよ。ギリギリまで経験値稼ぎをやっていたノアルジが悪いんだよな、うん。
「分かりました。エミリアさん、すぐに列へ並んでください」
アルテミシアはグラウンド中央に並んでいる生徒たちを指差す。あれ? さっきの話しぶりから、今回の参加者って俺とエミリア、それにステラの三人だけだと思ったんだが、違うのか? 20人くらい並んでいる、あの生徒たちも参加者なのか?
「卒業試験を受けるのは俺と……私とエミリア、それにステラだけじゃないのか?」
分身体の言葉を聞いたアルテミシアは頭に手を当て、難しい顔を作る。
「ノアルジーさん、お忙しいのは分かりますが、少しは学院の行事に参加してください。今回は中級クラスからの参加者が殆どだから、ですよ」
あ、そうなんだ。
「それと、ノアルジーさん、あなたは魔法の披露に参加する必要はありません。どうか、そのライドしている魔獣と共に隅っこの方で大人しくしててください」
あ、はい。そっかー、俺は参加しなくてもいいのか。前回の卒業試験で披露したから免除になったのかな。
俺はエミリアの方へと向き直る。
「エミリア、頑張れ」
分身体の言葉にエミリアが横を向く。
「ふん、この程度のこと、私にとっては問題ではありませんわ。ノアルジーさんは、そこでゆっくりと私が成長した姿を見ていればいいのですわ」
はいはい。
じゃ、まぁ、俺は隅っこの方で大人しく観戦してようかな。
しゅたたたっとな。
『虫』
俺が端っこに避けようとしたところで念話が飛んできた。この《念話》スキルは……ソフィアだろうなぁ。紫炎の魔女さん、どうしたんですか?
俺は紫炎の魔女へと向き直り、そちらに歩いて行く。前回の試験で要らないことをしてくれた紫炎の魔女さんじゃないですかー。
『何の用だ?』
俺は紫炎の魔女に限定して天啓を授ける。
『虫、お前が国を作ったと聞いている』
お、珍しく念話で喋るんだな。にしても『聞いている』とか、知っていた話だろうに回りくどい言い方をするな。
『ああ。名はグレイシア。場所は帝都の遙か南側だ』
「知ってる」
ソフィアがこくんと頷く。そりゃあ、知っているだろうな。
で?
「養え」
……。
お前、急に何を言い出すの? まさか、俺にたかろうとしているのか?
「むふー、あのー、ソフィアちゃん先生、急にどうしたんですか?」
ほら、隣のシロネも驚いているじゃないか。
「やあ、シロネ先生、お久しぶり」
とりあえず教師陣側に着いたので、分身体を使って挨拶をしておく。
「へ? ああ、むふー、ノアルジーさん……ですか」
シロネが俺とソフィアの顔を見比べる。そして、大きなため息を吐いた。
「むふー、お二人で内緒話なのですねー」
内緒話……なのかなぁ。
『養えとはどういう意味だ?』
『そのままの意味だ』
今度は念話で返事が返ってきた。こいつ、真面目に俺にたかろうとしている……。
よし、そんな紫炎の魔女さんに俺の国に伝わる言葉を贈ろう。
『働かざる者食うべからずという言葉を知っているか?』
「む」
紫炎の魔女は大きく目を見開き、意外と言わんばかりに驚いていた。いや、養うのが当然だと思っていたのか。
「わかった」
そして紫炎の魔女は絞り出すようにそう言った。いやいや、何が分かったんだよ。
『私の力を貸そう。それで私とステラ、シロネを受け入れてくれ』
ステラとシロネもかよ。
『今は魔族の受け入れをしている。魔族と一緒に暮らすことになるが、大丈夫か?』
紫炎の魔女に限定して天啓を飛ばすと、彼女は渋々という感じだが、ゆっくりと頷いた。魔族絶対殺す種族の天竜族なのに大丈夫なのか? 不安だなぁ。
「むふー、ソフィアちゃん先生とノアルジーさん、何をしているんですか?」
「ソフィア、ステラ、シロネの三人が俺の国で働くって話だよ」
「ふぇ!?」
分身体の言葉を聞いたシロネは変な声を上げていた。