9-20 試験を受けてみよう
―1―
豚顔のゴリラに刺さった矢を抜き回収していく。
くえー、くえー。
俺の後をちょことちょこと歩いているルフはかなりの大きさになっていた。俺なんか一飲みに出来そうなサイズだよな。
いやぁ、ルフを連れているとさ、豚顔ゴリラの討伐に困る、困る。この子、待機命令を出しておかないと勝手に突撃しようとしちゃうんだよなぁ。困ったもんだぜ。ホント、こんな一撃でも食らったらヤバいヤツを相手にしてるのにさ、安全地帯から飛び出されたら洒落にならないっての。
にしても、ルフもあっという間に成長したよなぁ。普通に成長もするんだろうけどさ、この子ったら、ランクアップで一気に大きくなったからな、ホント、驚くよ。
ウーラさんにさ、魔獣と獣の違いは体内に魔石があるかどうかって聞いていたけどさ、進化というかランクアップするのが魔獣でしないのが獣なんじゃないか? いや、だってさ、俺はキャンセルしちゃったけど、俺自身も進化先が表示されたもんなぁ。
もしかすると人もランクアップするんだろうか? そうなると人も魔獣も違いがなくなってしまうな。うーむ。
と、考え込んでいる場合か。そろそろ帰るかな。余り遅くなると不味いしな。
コンパクトを開け、グレイシアの王城へと戻る。
さあ、ルフよ、お前は皆の言うことをしっかり聞いて頑張って働くんだぞ。もう働けるくらいのサイズに成長したはずだ!
くえー、くえー。
ルフは、ただただ鳴いていた。まぁ、何を言っているか分からないが、理解してくれているだろう。
さてと、行きますか。
――《転移》――
《転移》スキルを使い魔法学院へと飛ぶ。
さてさて、この姿のまま学院の中に入るのは不味いよなぁ。さて、どうしよう。《分身》スキルを使って分身体を呼び出すか? それとも《変身》するか?
うーむ。
ここは無難に《分身》スキルかなぁ。下手に《変身》してしまうと効果時間に縛られてしまうからな。うむ、《変身》スキルは奥の手として取っておこう。
――《分身》――
《分身》スキルを使い分身体を呼び出す。そして、そのまま俺の背中に乗せる。芋虫ライダーの完成だぜ。これなら俺自身も怪しまれずに学院内へと潜入出来るからな。はっはっはっは、なんという天才的な発想なんだぜー。さすが、俺。
―2―
「もう! ノアルジーさんは何処からやって来たんですの!」
俺が学院の入り口へとまわると、そこには何時にもまして、マシマシで豪華な髪型のエミリアがいた。髪型、すんごいね。まるで天を衝く刃だぜ。
「何処からと言っても、普通に飛んできたんだよ」
分身体で話しかけるとエミリアは、その豪華な髪型をぐわんぐわんと揺らした。
「もう! ノアルジーさんは専用の飛竜を持っていなかったでしょう! 飛竜の定期便にも姿が見えませんでしたわ!」
えーっと、いや、あの……。
あ、そうだ!
――《浮遊》――
とりあえず浮かぶ。
「こうやって飛んできたのだ」
浮かんだ俺の姿を見て、エミリアが大口を開けて驚いていた。もう、お嬢様が大口を開けるなんてはしたないですよ。
「芋虫が空に……! もう、なんなんですの! なんなんですの!」
世にも珍しい空飛ぶ芋虫でーす。にしても前回の卒業試験の時も同じように分身体を乗せて、空から飛んで降りてきたんだけどな、驚きすぎじゃないか?
……。
あー、そういえば前回の時、エミリア、その場にいなかったか。
「エミリア、驚いているところすまないが、時間は大丈夫か?」
分身体の言葉を聞いてエミリアが正気に戻る。
「そうでしたわ! 急がないと不合格になってしまいますわ!」
エミリアが慌てて走り出す。あれ?
「エミリア、学院に入らなくてもいいのか?」
分身体の言葉を聞いて、エミリアが走りながら、もうもう言っている。
「もう! まずは魔法の披露ですわ! それは前回行われた特別な卒業試験の時と同じですわ!」
あ、そうなんだ。てことはグラウンドか。
「私たちが最後ですわ。もう皆さん集まって待っているはずですわ」
あ、そうなんだ。
ま、アレだよ。主役は遅れてやってくるって感じだよ。
《飛翔》スキルを使ってばびゅーんとグラウンドまで飛んでもいいし、エミリアを無理矢理運んでもいいけどさ、学院の門の前で一人、遅れるかもしれない俺を待ってくれていたんだ、付き合うか。
尊重しようじゃないかー、なんてね。
俺は芋虫スタイルで足をわしゃわしゃと動かしエミリアの後を追う。
にしても、このタイミングで本当の卒業試験がやってくるとはなぁ。