9-18 魔族を受け入れるぜ
―1―
『キョウ殿の道案内で随分と助かった』
いやぁ、地下の道はなれていなかったからな、キョウのおっちゃんが居て助かったぜ。さて、と。この魔族の方々を転送させるには、パーティを組むか触れていればいいだろうから、14型さんの力を使って、皆に集まって貰わないとな。
と、奥の隠し通路の先にも行かないとダメなんだよなぁ。嫌だなぁ。
……。
って、アレ?
俺、なんで奥に隠し通路があることを知っているんだ? いや、違う、ここ、俺は一度来たことがあるはずだ。あの機械人形だって、何かをトレイに乗せて運んでいるのを見たはずだ。
何処でだ?
既視感か?
う、うーむ。
……。
あ!
思い出した!
魔法学院の卒業試験を受ける為にステラを迎えに行った時だ。その時に何があったんだったか。
えーっと。
なんだろう、思い出したくない嫌なことだから記憶にロックでもかかっていたのかな。
むむむ。
こんなにすっぽりと忘れているなんてさ、14型に馬鹿にされても仕方ないな。
『14型』
「了解です、マスター。フミコンから聞いていたコードを実行します」
あー、そういえば、そんなことをフミコンが言っていたな。その為に14型を待っていたんだった。うーむ、いかん、いかんぞー、ボケがきているぞ。
「コード0を実行します」
お、何やら14型がそれっぽいことをやり始めたぞ。
14型の言葉に従ってなのか、歩いていた機械人形たちが、その動きを止める。腕をだらんと垂らし目の光りも消えている。
まさか停止コードか?
「マスター、彼らの動きは掌握しました。このまま人々を集めます」
う、うむ。
「奥に運搬用の昇降機があるようです。そちらを使い広間に集めます」
うむ、任せた。こちらは14型に任せておけば大丈夫だな。
さて、と。
『キョウ殿』
しゃかしゃかと機械人形たちを連れたって動き始めた14型を横目に、俺はキョウのおっちゃんへと天啓を飛ばす。
「どうしたんだぜ」
『キョウ殿の用事は良いのか?』
俺の天啓に、キョウのおっちゃんは感慨にふけるように――少し寂しそうな顔で笑った。用があったから一緒に行こうって言ったんだよな?
「少し、少しだけ、いや、そうなんだぜ。ランの旦那、ランの旦那が考えているよりも、魔族と俺たち――帝国の戦いは根が深くて長かったんだぜ」
どうしたんだ、急に。にしても、根が深い、か――そうなのか、でもさ。
『今はキョウ殿も帝国の民ではない』
「そうなんだぜ。だから、その敵と和解し、もぬけの殻となるであろう敵だったものの本拠地を最後に見ておきたかったんだぜ」
そっかー。ここに残っている魔族の人たちを移送したら、キョウのおっちゃんは、もうここに来ることはないだろうからなぁ。
敵の本拠地、か。キョウのおっちゃんはキョウのおっちゃんで思うところがあるんだろうなぁ。
俺はさ、その思いの深さも分からないし、勝手なことも、知ったようなことも言えないんだぜ。でもさ、だからこそ、逆にさ、無責任に言うんだぜ。
『キョウ殿、今は魔族もグレイシアの同胞だ』
同じ国の仲間なんだぜ。
「そうなんだぜ」
キョウのおっちゃんが何かを吹っ切ったように笑っている。そうそう、同じ世界に住む仲間だもんな。手を取り合えるってのはいいことだぜ。まぁ、俺の手はちっこいし、魔族には手もない人もいるけどさ。
―2―
「マスター、準備が出来ました」
キョウのおっちゃんと二人でお城探索をしていると14型がやって来た。
「マスター、マスターの行動を否定するわけではありませんが、無責任に、そして無自覚に動かれると時というものが浪費されると思うのです」
あ、はい。探すのが大変だったんですね。
「お前もマスターの頭の上で小さくなって眠ったふりをせず、しっかりと働くのです」
しかし、俺の頭の上のそいつが動く気配はなかった。14型さんから無表情ながらぐぬぬと言わんばかりの雰囲気が漂う。お前らはホント仲がいいんだか、悪いんだか。
『14型、それにキョウ殿、戻るぞ』
魔王城の探索も終わりなんだぜ。キョウのおっちゃんは、あー言っていたけどさ、俺は宝物庫の関係上、ステラとまた来ないとダメなんだよなぁ。あれらは魔族がグレイシアで暮らす上での生活資金になるかもしれないし、重要だよな。まぁ、その辺に関しては、俺も出来る限りフォローするけどさ。
広間に戻ると、そこには静かに佇む機械人形たちと、積み上げられた魔族の人たちがいた。えーっと、結構な人数ですなぁ。これ、冗談じゃなくて千人くらいはいるんじゃないか? この人数でも転送出来るんだろうか。
まぁ、考えても仕方ない。やるだけだな。
俺がコンパクトを開けると、周囲の景色が変わった。
一瞬にしてグレイシアに帰還ーっと。
そしてグレイシアの王城の屋上一杯に魔族の人たちが広がる。うわぁ、溢れそうだよ。
「では、この者たちと協力して、人々を所定の位置まで送ります」
14型が機械人形を引き連れ、魔族の人々を持ち上げ運んでいく。あいつ、軽々と持ち上げやがったよ。
魔族を抱えた14型たちは、俺が見ている前で城の屋上の縁から飛び降りた。あ、飛び降りた。いや、確かに飛び降りた方が早いけどさ、なんというか、魔族の方々がびっくりしないか?
まぁ、後は14型とフミコンに任せれば大丈夫か。
にしても、機械人形を従えた14型は、部下を手に入れたって感じだな。
……。
いやぁ、問題が次々と解決していくな。後は雨期まで待つだけかなぁ。ま、俺は、雨期が何時なのか知らないけどさ。後でスカイ君にでも聞いておくか。スカイ君だと少し不安は残るが、まぁ、多分、大丈夫だろう。