9-17 隠し通路の先には?
―1―
「ら、ランの旦那……」
キョウのおっちゃんが驚きの声を上げる。ふぁふぁふぁ、俺の線が見える力にかかればこの通りよ。いや、ホント、この力、便利過ぎるよな。
「いやいや、驚いたんだぜ」
そうだろう、そうだろう。
「マスターの力を理解したようですね。今回の目的に関係がなく、遠回りになることでも、このように見逃さないのです」
いやいや、14型さん、お前の言っていることの意味が分からない。何が言いたいんだよ。
「はは、確かにその通りなんだぜ」
キョウのおっちゃんまで……。俺には何がその通りか分からないんだぜ。
『とにかく、この隠し通路の先を見てみよう』
そうそう、こんな感じで隠してあるんだ、重要な場所かもしれないだろ?
隠されていた石壁の通路を進んでいく。うーん、さっきの通路よりも広いしさ、作りがしっかりしている気がするな。
道はすぐに折れ曲がり、そして開けた。
そこは宝物庫だった。いや、武器庫と言った方が正しいかもしれない。壁に立て掛けられたロングバレルの銃たち。机の上に並べられた銃弾。床には短い銃身を持った銃たちが散らばっている。
他にも鎧や盾、色とりどりの魔石たち……。
「こいつは驚きなんだぜ」
ああ、驚きなんだぜ。
『これは魔族が最後の戦いの為に準備していた物かもしれないな』
結局、こちらから攻め込んだから、これらは使われることがなかったのかな。
……。
って、ちょっと待てよ。
銃弾がある。
武器庫。
魔族が使っていた銃弾の原料はなんだ?
そうだよ、クラスモノリス!
見つからなかったクラスモノリスがここに残っているんじゃないか? 欠片でもあれば――クラスを得ることが出来るサイズが残っていれば……!
『キョウ殿、ここに魔族が奪っていったクラスモノリスの欠片が残っているかもしれない。探すべきだ』
「あり得る話なんだぜ」
俺とキョウのおっちゃん、14型で手分けしてクラスモノリスの欠片を探す。
そして、積み上げられた魔石の下からクラスモノリスの欠片を発見する。あった、あったよ! いやぁ、隠し通路を見つけて進んでみて良かったぜ。
―2―
クラスを取得出来るサイズで残っていた欠片は三つだけだった。
治癒術士のクラス。
剣士のクラス。
農士のクラス。
他にも魔族が砕いたクラスモノリスはあったのかもしれないが、もうそれは分からない。
「ランの旦那、これをどうするんだぜ?」
そうだなぁ。
『治癒術士のクラスは奪還の依頼を受けている。元の場所に返す予定だ。他も同じようにすべきだろう』
「了解なんだぜ」
まぁ、何にせよ、一度、グレイシアに持って帰るべきだな。
で、この散らばっている銃や武具は、どうすべきかなぁ。一応、これ、魔族の財産って扱いだよな? 迷宮とか遺跡じゃないんだからさ、それを持っていくのは問題があるよなぁ。
「ランの旦那、他の物はどうするんだぜ?」
『それらは魔族の物だ。勝手に持っていくべきでは無いだろう。ステラ女王と相談して決めるべきだろうな』
ステラがくれるって言ったら貰うって感じで。まぁ、武具にも困ってないし、お金にも困っていないからな。それに俺が鉄砲とか貰ってもさ、この体型だと上手く扱えないもん。引き金が引けないもんな。鎧にしたって、俺は着られないしさ。欲しい物って言ったら魔石くらいだよなぁ。
「ランの旦那、表向きだけではなく、しっかりと魔族を人として認識しているのは凄いと思うんだぜ」
まぁ、敵対していた相手の物なら奪ってやれってなるのかもしれないけどさ。でも、今は敵対してないわけじゃん。
「マスター、有意義な時間を過ごされているようですが、記憶力が『ある意味』で優れたマスターですから、目的を忘れていないか心配なのです」
いやいや、覚えているからね。ちゃんと覚えているからな! いくら俺でもクラスモノリスに気を取られて目的を忘れないってば。前回はクリスタルドラゴンの討伐を優先して大変なことになったからな、これ以上、フミコンを待たせたら怒られそうだもん。ちゃんとやることはやりますよ。
―3―
元の通路に戻り進む。すると無数の小部屋が並んでいる通路に出た。ますます牢屋みたいだな。
その通路を機械人形たちが往復している。なんだろう、ドラム缶にホースが巻き付いた、まるで機械のゴーレムって感じだな。サイズは一メートルちょいってところか。猫人族と同じくらいだな。まるで駄目なポンコツロボって感じだ。
「ランの旦那、この各部屋に魔族が眠っているんだぜ」
部屋を覗いてみると、そこには異形の存在たちが居た。筋肉が肥大化し動けなくなっている者、筋繊維に覆われ本体が見えなくなっている者、色々な生物の各部分が混ざり合っている者……。
そのどれもが見るに耐えない異形の姿をしている。
『眠っているのか?』
魔族が動き出す気配はない。
魔族の体からは管が伸びており、その先に透明な球体が結びつけられている。機械人形たちは、各部屋、順番に、その球体の取り替え作業を行っている。もしかして、食事か?
この数え切れないほどの自分では動けない魔族たち……。なんだろうな、彼らを見て思い浮かんだ言葉がある。
それは不謹慎で人を人と思わぬ言葉だけど、それが一番ぴったりと来る。
そう『失敗作』だ。
どうやったら人がこんな異形に生まれ変わるのか。元から、この姿だった? いーや、違うはずだ。誰が、なんの為に?
こんなさ、自分では動けない姿に、不自由な姿に生まれ変わりたいって思う人間がいるか? いないよな?
俺は、もう少し、そうだな、4魔将とかみたいに本体でも動けるような姿を想像していたよ。
これは……うーむ。