2-68 猫侍
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宿に帰ってきた。
女将さんは奥で料理の仕込みをしているようだ。掃除をしていたぽっちゃりな娘さんの方に声をかける。
『掃除中にすまない。よろしいかな?』
ぽっちゃりな娘さんは俺の念話に驚いたのか、掃除道具を取り落とし、慌ててこちらに振り向いていた。
『すまない、驚かせたようだ』
「い、いえ……。それで何のご用でしょうか……?」
ぽっちゃりな娘さんがおどおどとした声で話してくる。うーん、このぽっちゃりな娘さん、ぽっちゃりな割に動作はキビキビしているんだが、性格がおとなしいのか、自分に自信が無いのか、ちょっと暗い感じがする。女将さんは陽気なのになぁ。
『ああ、明日から隊商の護衛で1週間以上はスイロウの里を離れることになる』
「あ……、はい。その間の料金のお支払いですか……?」
『いや、今回は宿を引き払おうかと、な』
「え? そうなんですか?」
何だか、微妙に嬉しそうだ。あれー? もしかして俺ってば嫌われていた?
『あ、ああ』
「ですと……、本日の宿泊代金だけ戴きます……」
き、気のせいだよね?
『あ、ああ。10240円(銀貨2枚)だな』
俺はぽっちゃりな娘さんに今日の宿泊費用を支払う。
「はい、確かに受け取りました」
『食事は後で部屋にお願いしてもよろしいかな?』
ぽっちゃりな娘さんが頷いたのを確認して部屋に戻ることにする。
ああ、この部屋も今日が最後か……。結局20日くらいは使った計算になるのか? そう思うと感慨深いな。転生前にホテルや旅館でそこまで宿泊をしたことなんて一度も無かったしなぁ。
などと考えていると女将さんが食事を持ってきてくれた。
「あいよ。あんた、今日でうちを出るんだって? 長期の宿泊ありがとね」
女将さんが持ってきてくれたのは……いつものようにスープだった。ぷかぷかと芋のような物と肉が浮いている。ああ、いつもの料理だ。最後だから料理を奮発してくれるとか、そんなことは無いよねー。俺は魚醤を垂らして食べる。もしゃもしゃ。うん、魚醤最高。
翌日になり、女将さんと娘さんに最後の挨拶をして(まぁ、最後と言っても戻ってきたらまた宿泊することになると思うんだが)里の外へ。
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里の外には4、5人くらいの商人風の方々と大きな猫馬車が3台ほど見えた。隊商って言っても規模は小さいのな。と、やっぱり猫馬車なんだなぁ。
俺は隊商に近づく。
『すまない、護衛のクエストを受けた者なのだが』
会話をしていた商人達の中から代表らしい人がこちらに来る。
「ああ、聞いています。と、おお、星獣様ですか、珍しい。私はこの隊商のリーダーをしているコーディと申します」
あ、これはこれはご丁寧に。雇い主だから、と偉そうにしないのは好感が持てるなぁ。
『ああ、自分は氷嵐の主と言う。見ての通り星獣をしている』
「ええ、ラン殿ですね。スイロウの里ではかなり有名なようで」
……やはりランって呼ばれちゃうのね。もうね、なんだろう、普通にランで自己紹介した方良いんじゃねって勢いです。次からはただのランです、キリっとか自己紹介しちゃおうか。うーむ。
「そうそう、護衛はもう一人居るので、良ければ挨拶でもして打ち解けて貰えると助かります」
お? 俺だけじゃないんだ。って、まぁ、それは予想していたんだけどね。護衛が俺を含めて二人だけか。小さな規模の隊商とはいえ、少なすぎる気がするなぁ。
「おーい、シラアイさん」
コーディさんに呼ばれて現れたのは、いつか見た猫耳さんだった。というか猫だった。着物を着た猫だった。いやね、容姿がまんま猫なんですよ。背丈は1メートル2、30くらいかな。髪の生えた白い猫が和服姿の二本脚で立っている感じである。子猫がおしゃまに着物を着ているみたいでむちゃくちゃ可愛い。そんな可愛らしい猫さんは白の小袖に雪の模様が描かれた薄い青色の胴服を羽織り、赤の袴を穿いていた。背中には大きなナギナタのような武器が、腰には二振りの刀が差されていた。そして髪型はポニーテールだった。いやまぁ、何で猫に髪が生えているんだって疑問はあるが、和装ならポニーテールが一番だよな。これ、重要だよな。しかし、アレだな、昔にあったつっぱりの格好していた猫の写真を思い出すな。猫耳は大好物だが、ここまで猫だと……ふぅ、ケモナーレベルが高いぜ。
「ミカンだ」
和装の白猫さんが鈴を転がしたような――澄んだ可愛い声で喋る。うん? ミカン? 蜜柑のこと? どういうこと? もしかして……、俺は目の前の白猫さんを鑑定してみる。
【名前:ミカン・シラアイ・フウキョウ】
【種族:猫人族】
名前か! いやいや、名前が蜜柑ってどうよ。えーっとフウキョウの里の『白藍 蜜柑』って名前なのかな。
『ああ、自分は星獣のランという。よろしく頼む』
「うむ、ではこちらに」
ミカンさんの案内についていく。しかしまあ、髪が生えているからか後ろ姿からだと猫耳の和服少女にしか見えないな。揺れているポニーテールが可愛い。
「私は見ての通り、侍のクラスを持っている。ラン殿は?」
『自分は弓士だな』
それを聞いてミカンさんは腕を組み考えているようだ。
「提案なのだが、前衛職である私が隊の先頭を後衛職であるラン殿が殿を守るということで、どうだろうか?」
ふむ、理にかなっているな。護衛は二人しか居ないし、そうなるか。まぁ、俺は槍もあるから中衛、前衛も出来るんだけどね。ホントは隣り合って行動して白猫さんと仲良くなりたかったんだがなぁ、まぁ、仕方ない。
『うむ。異存はない』
俺は彼女の提案を受ける。
ミカンさんの手を見ると、ほとんど人の手と遜色ない感じだけど肉球とかあるのかな、気になるなぁ。握手とかしてくれないかな。
俺たちが配置についてしばらくすると隊商が動き出した。って、俺ら歩きかよッ! ま、まぁ敏捷補正の高い俺は余裕でついて行くけどね!
名前:ラン(氷嵐の主)
所持金:108808円
ギルドランク:E
GP :0/6400
MSP :112
種族:ディアクロウラー 種族レベル:4
種族 EXP 2136/4000
クラス:弓士
クラスEXP 5902/8000
HP: 100/100
SP: 810/810
MP: 66/ 66
筋力補正:4 (1)
体力補正:2 (1)
敏捷補正:18(2)+8
器用補正:7 (4)
精神補正:1 (0)
所持スキル : 中級鑑定(叡智のモノクル) サイドアーム・ナラカ:-
魔法糸:- 念話:熟練度5592
毒耐性:熟練度3200 危険感知:-
クラススキル: 槍技:熟練度2680 スパイラルチャージ:熟練度1632
払い突き:熟練度744
弓技:熟練度720 チャージアロー:熟練度1152
集中1:熟練度80 遠視1:-
早弓2:-
クラス : 弓士
弓技 LV1(0/200)
集中 LV1(0/40)
遠視 LV1(0/40)
早弓 LV2(0/120)
サブスキル1: 浮遊3:熟練度1360 転移1:熟練度140
サブスキル : 飛翔ツリー
浮遊 LV3(0/40)
転移 LV1(0/160)
飛翔 LV0(0/300)浮遊LV4 転移1以上
超知覚LV0(0/100)飛翔LV1以上
所持属性: 水:熟練度588 風:熟練度424
所持魔法: アイスニードル:熟練度100 アイスボール:熟練度748
アクアポンド :熟練度102 ウォーターボール:熟練度54
ウォーターカッター:熟練度8
装備品:風槍レッドアイ+1 鉄の槍 コンポジットボウ 切断のナイフ
魔法の矢筒(32) 鉄の矢28本 爆裂の矢1本 火炎の矢3本
麻のベスト 夜のクローク 夢幻のスカーフ
所持品:ステータスプレート(銀) 叡智のモノクル
魔法のポーチS(魚醤)
魔法のウェストポーチXL(1)
ショルダーバッグ 干し肉8 パン4 皮の水袋
皮の背負い袋




