9-15 みんなで話し合おう
―1―
「ラン王、お呼び立てして申し訳ありません」
こちらに気付いたユエが頭を下げる。何故か、玉座の間にいつものメンバーが集合していた。
玉座の間に円卓が作られ、皆が集まっているのだ。
ユエとファットの夫婦、今日もテカテカ頭のポンちゃん、フルール、スカイの犬頭、最近影の薄いクニエさん、ほっほっほと楽しそうに笑っている少年姿のフミコン老、腕を組んで瞑想しているキョウのおっちゃん、武人ソード・アハトさん、グレイシアの刃ミカンちゃん、そして玉座の横に優雅に立っている14型……。
ファリンは迷宮都市で頑張っているから居ないのはしょうがないか。
「マスターはこちらへ」
14型が俺を玉座へと案内する。腕の怪我はもう修復した感じだな。
俺は、14型に誘導されるまま、この姿でも座り易いように魔改造された玉座に腰掛けた。
それに合わせて皆が一斉に立ち上がり、こちらへと頭を下げる。お、おう。
『ユエ、この集まりは?』
玉座は俺用に改造されているし、円卓は置かれているし、どういう状況だ?
皆が座り、ユエだけが立ったままになる。
「このグレイシアという国は人も増え、規模が大きくなろうとしています。元々の――前身であったノアルジー商会の時と同じように、国を運営する上で重要な位置に居る者達で定期的に集まり、情報の共有化を図ろうと思いました」
そう言うとユエは着席した。な、なるほど。よく言われるホウレンソウだな。報告、連絡、相談、うむ、それは確かに重要だな。
『なるほど』
俺の天啓を受け、ユエが頷き、言葉を続ける。
「現在、このグレイシアの人口は、意思疎通の出来るオークなどの魔獣を含めてですが、1,000人規模まで増えています」
へ? そんなに多いんだ。そんなに増えるとさ、いくら城が広いと言っても結構キツいんじゃないか?
あー、でもさ、1,000人って聞くと多い! って思うけどさ、国としてみたら少ないのか? 国って言えない人数かもしれないな。
「帝国からの亡命者を受け入れている為、これからも人は増えていくと思われます」
なるほど。帝国もさ、八常侍からフロウにトップが変わって清浄化するかと思われたのになぁ。確かに腐敗はなくなったかもしれないけどさ、今度は規則規則で厳しくなりすぎているからな。息が詰まるような国になってるもん。そりゃあ、逃げ出す人も出てくるか。
「冒険者や旅人、観光に来る方も増えているようです。これは迷宮都市や神国でのノアルジー商会による活動が大きいと思います」
ふむふむ。余所から来た人たちがお金を落として、それでこのグレイシアの経済がまわるって感じなのかな。
「次は自分が」
クニエさんが口を開く。
「現在、周辺の開拓度は3割程度です。帝国が見捨てていた土地だけあって、いくらでも開墾が出来ます。ただ、雪と寒さの影響で若干の遅れが出ています」
ここ、雪国だからなぁ。俺も微力ながら魔素を操作して気候を変化させているけどさ、焼け石に水だよな。
「ラン王の用意された魔石のお陰で居住区を広げるのは問題無いのですが、ただ、それ以外に問題が……」
クニエさんが少しだけ言い淀む。
「これから人が増えることを考えると、女神の休息日を乗り切ることが出来ません」
うん? 何でだ?
「ほっほっほ、ラン王、この城の中は休息日でも安全とはいえ、広さに限りがありますからのう」
「フミコン老の言われるとおりです」
あー、そういう問題があったか。だから、この世界の国――人の住む場所の近くには必ず迷宮があるんだったよな。
あ、そうだ。
『八大迷宮『世界の壁』を使うのはどうだ?』
そうだよ。
「なるほどなんだぜ」
「しかし、道が……」
「ジジジ、そこは作るしかなかろう」
確かにな。意外と距離があるから、それが問題か。手早く行き来が出来るよう道の整備が求められるな。
「分かりました。神国からの依頼もあります。クニエさん、棟梁たちと相談して優先的にお願いします」
「はい、ユエさん、了解です」
ユエとクニエさんが頷き合う。
「俺様からも話しがあるぜ」
今度はファットが口を開く。
「……さすがに俺様も一人では限界だぜ」
あー、ファット船長の負担が大きいもんなぁ。
「その問題は。もうすぐ海路は……」
ユエが口を開こうとしたのをファットが止める。
「お前の話は知ってるぜ。もうすぐ船も完成するだろうよ、海路は大丈夫だ。しかしよー、空はどうだ?」
そうなんだよなぁ。空路はファット船長のネウシス号に任せているから、代わりが……って、そうだよ!
『ファット船長、今、自分がルフを育てている。今のペースなら早い段階で投入できるはずだ。それと、エミリオにも協力させよう。この後、すぐは魔族領との往復で動かせぬが、その後ならば……』
「わーった。頼んだぜ」
ファット船長がこちらを見てニヤリと笑う。一人で頑張っててさ、疲れ切っているだろうに、それを感じさせないな。
「あ、そーっす」
次は犬頭が唐突にしゃべり出した。
「最近では、あの斧の冒険者以外の冒険者も来るようになったんで、冒険者ギルドが大きく出来そう。俺の活躍が認められてる!」
「フルールの作った武具が優れているから冒険者が集まっているのですわぁ」
犬頭二人が自分のお陰だと言い合っている。醜いなぁ。
『ポンの料理がよいのだろう。美味しい食べ物は何よりも人を集める』
ポンちゃんは俺の天啓を受けて、はげ頭を照れくさそうにポリポリと掻いていた。ノアルジ商会が大きくなったのも水と食を制したからだしな!
「ラン王、よろしいかのう」
フミコンが口を開く。
「見れば14型は回復したようじゃのう。行動派のラン王じゃ、すぐにでもパンデモニウムへと向かわれるのかのう?」
ふむ。その予定だな。
『ああ』
「ちょっと待って欲しいんだぜ」
そこにキョウのおっちゃんが待ったをかける。
『キョウ殿、どうしたのだ?』
「俺も連れて行って欲しいんだぜ」
へ?
「ランの旦那、いやラン王、あそこの城の下の方は俺たちが攻略していたんだぜ。案内するんだぜ」
あー、そういえば俺とジョアンたちは天守閣から一気に乗り込んだもんな。道を知っている人が居た方が安心か。
『わかった。道案内を頼む』
俺の天啓を受け、キョウのおっちゃんが頷く。
さあて、これで定例会議は終わりかな。まぁ、問題点とか共有すべきだしさ、こういう会議はこまめにやるべきかもなぁ。
2018年3月31日修正
ユエ、ファット夫婦 → ユエとファットの夫婦