9-14 ゴールデンアクスだ
―1―
――《トリプルアロー》――
3つの矢を番え、放つ。
――《ダブルアロー》――
さらに間髪を容れず番えた2本の矢を放つ。マシンガンのように次々と放たれた矢によって豚顔のゴリラは崩れ落ちた。楽勝、楽勝、ホント、安全地帯から矢を射るだけだから楽勝過ぎるな。
ただ、問題は、だ。これ、倒した後の矢の回収と魔石を取り出す作業が面倒だって事だよなぁ。こういう時に14型が居てくれたら! って思うなぁ。
永久凍土側の交易路の開通はユエに頼んだし、俺は黙々と経験値稼ぎだな。というわけで、俺は、ここ、八大迷宮『二重螺旋』の豚顔ゴリラ退治を繰り返しているのだった。コイツがさ、一番、安全で経験値が多いからな。経験値という摩訶不思議な力で成長出来る世界だもんな。ガンガン、強くなってやるぜ。
さてと、一度、外に出て豚顔ゴリラ発生装置を復活させるか。すたこらさっさ―だぜ。と、俺が、一度、八大迷宮『二重螺旋』の外に出ようか、と考えていたところで何やら背後から音が聞こえた。
パリ、パキ、ペリ。
音は俺が背負い込んでいたルフの卵から発せられているようだ。お、もしかして、生まれたのか?
俺がカバンを降ろすと、そこから、生まれたばかりにしては大きめの鳥の頭が覗いていた。可愛らしい雛鳥の頭がお腹が空いたと言わんばかりに、ぴぃぴぃ鳴いている。
ふむ。
予想通りだったな。ルフの卵は一向に孵る気配がなかったからさ、もしかしたら、一緒に連れ歩いて経験値を食わせる必要があるんじゃないかと思ったんだよなぁ。経験値という謎の仕組みがある世界ならでは、だな。
ルフの雛鳥はお腹が空いたと言わんばかりにぴぃぴぃと鳴いている。えーっと、食事か。それは考えていなかったなぁ。どうしよう?
この目の前に転がっている豚顔ゴリラの肉を食わせてみるか? た、多分、大丈夫だよな?
豚顔ゴリラの肉をスターダストで斬り裂き、適当なサイズに切り分ける。よし、食べてみろ。ダメなら、すぐに吐き出すんだぞ。
ルフの雛鳥が切り分けられた肉をぺろりと平らげる。雛鳥なのに、スゴイ勢いで食べるな……。
【ベビールフがリトルルフにランクアップします】
へ? 謎のシステムメッセージと共に雛鳥だったルフが一回り大きくなりカバンが弾け飛ぶ。おーのー、俺のカバンが。ま、まぁ、このルフの卵を入れるように作って貰った特に特別な効果もない、ただのカバンなんだけどさ!
大型犬くらいのサイズまで大きくなったルフが元気に俺の周りを走り回っている。えーっと、肉を食べさせただけで、こんなにも一気に成長するのか。ホント、この世界はよくわからない世界だな。
……。
そろそろ3日か。もうちょっと稼ごうかと思っていたけどさ、このルフの事もあるし、一度、グレイシアに戻るか。
俺は、その場でコンパクトを開けた。ホント、戻るのは一瞬なんだよなぁ。
―2―
「ら、ランの旦那! そ、そいつは新しくテイムした魔獣ですか!?」
犬頭のスカイが驚いている。テイムしたというか、卵から孵ったというか……。
『そうだ』
ゆくゆくは、このグレイシアの空路を担ってくれる予定だからな。頑張って大きくなって人と物を運んでくれよ。
「はぁ、テイムした魔獣が増えると、それだけ冒険者としての成長が遅れるってのに、あのちっこいのに、こいつに、と、ランの旦那は余裕っすねー」
あ、そうなの? それも初耳なんだけど。いや、でもさ、成長が遅れるって、経験値が目減りしている感じはないんだけどな。成長が遅れるって、経験値のことじゃないのか? うーむ。
『いや、それよりも、だ。スカイ、例の物は?』
俺の天啓にスカイ君が首を傾げる。
……。
俺は無言で真紅妃の石突きを床に叩き付けた。
「うそ、うそ、ランの旦那、覚えています。はい、大丈夫です」
スカイ君がカウンターの上に銀のプレートを置く。うん? なんだ、これ?
「Bランクの昇格祝い品です」
は? はぁ……、何これ?
『これは、なんだ?』
「シルバーパスっす」
犬頭は当然と言わんばかりの態度で答えてくれる。いや、効果を、だな。俺に鑑定しろって事か?
『効果は?』
「効果? ……あ、ああ! そうっす。なんと! これがあれば冒険者ギルドでの買い物が二割引になるんですよ! 二割引!」
二割引になるんだ、すごーい――じゃ、ねえよ。
『スカイ、ここの何処に買い物が出来る場所があるのだ?』
無いよな? 何処にもないよな?
俺とスカイの間に沈黙が流れる。
……。
えーっと。
「いやいや、ランの旦那、ランの旦那! これから、この冒険者ギルドも大きくなって、冒険者の活動に役立つ品を売り始めますから!」
そ、そうか。期待せずに待っておくよ。
で、だ。
『スカイ、ゴールデンアクスはどうなっている?』
俺の天啓を受けたスカイが、あっと大きな口を開けて馬鹿面を晒している。
「そ、そろそろ、き、到着していると思うんで、見てきま、す」
スカイ君が慌てて奥へと消えた。スカイ君、絶対に忘れていたよな。
にしても、冒険者ギルドの本部はどうやって送ってきているんだろうな? この場所がバレているのも不思議だけどさ、荷物が届く方法が分からないよなぁ。
しばらくしてスカイ君が金色に輝く華美な装飾の施された片刃の斧を引き摺ってきた。意外と大きいな。
「ぜーはー、重い、これ、重し」
なるほど、サイドアームじゃないと持てない感じか。とりあえず鑑定してみるか。
【ゴールデンアクス】
【金属性を持つ非常に重い斧】
ふむ。属性武器なんだ。インゴットに変えようかと思っていたけどさ、金属性の魔法発動用として持っておくのも有りか。