9-12 Aランクに昇格した
―1―
「それじゃあ、俺はこれくらいで帰るよ」
そう帰るのだ。サクッと帰ってサクッとAランクになるのだよ。
「なんじゃ、もう帰るのじゃな。むう。そうじゃ! 晩餐の用意をさせるから、どうじゃ?」
晩餐かぁ。少し心がひかれるけどさ、神国料理だろ?
「いいえ。私は遠慮しておきます」
普通にグレイシアに帰ってポンちゃんの料理を食べた方がいいからな!
「なんじゃ、なんじゃ! あれから神国の料理も進化しておるのじゃぞ」
セシリア女王が悔しそうに地団駄を踏んでいる。いやいや、俺も別に悪意はないからな。
「いや、急ぎ戻る必要があるんだよ。別に悪気は……ない」
「本当じゃな? 本当じゃな?」
セシリア女王は疑うように俺の周りをクルクルと回る。う、疑い深いなぁ。
「女王、ノアルジー様も一国の主、お忙しいのでしょう」
何故か若騎士がフォローしてくれる。そうそう、お忙しいのだよ。
「むう、仕方ないのじゃ。ラン、今度は、もう少し余裕のある時に来るのじゃ!」
あ、うむ。そうするのじゃ。
さあて、と。ここですぐにコンパクトを使うのは不味いよな。
「それでは!」
ばーいばーいなんだぜ。
「ノアルジー様、外までご案内しましょう」
あ、すいません。
若騎士の案内で城の外へ。
「これは独り言なのですが、最近の女王は公務が忙しく余裕のない日々が続いていました。友人であるノアルジー様がいらっしゃって嬉しかったのでしょう。随分と元の元気な姿に戻っていました」
なんだか、妹を見守るお兄さんって感じだな。この若騎士の方がセシリア女王よりも年上なのかな。なんというか、全然、独り言じゃないけどな!
「それは良かった」
まぁ、神国は伝統ある国だもんなぁ。そんな国の女王とかやっていたら気苦労が多いよな。
「ただ、次は……出来れば事前に連絡をお願いします」
若騎士は大きくため息を吐いていた。一国の王様になんて態度だ、なんだぜー。この人、ホント、立場が分からない人だなぁ。実は結構お偉いさんって立場なのか?
……。
まぁ、余所の国のことを考えても仕方ない、帰ろう。
―2―
俺は戻ってきた足で、そのままスカイの待っている冒険者ギルドへと向かう。
「頼もう!」
俺の登場に犬頭のスカイは首を傾げていた。
「あ、あれ? ノアルジー様?」
あ、そうか。まだノアルジに《変身》したままだった。えーっと、この姿でも大丈夫だよな?
「ランの承認試験の短剣だ。これでいいよな?」
俺が取り出した色の変わった短剣を見てスカイ君が驚く。
「ひぇ、もう色が変わっている」
どうだ、スゴイだろう。
「当日中に昇格だぞ? これはAランク最短記録じゃないかね?」
しかし、俺の言葉にスカイは首を傾げていた。スカイ君、さっきから首を傾げてばかりだが、ねじ切って欲しいのかね。
「いや、最速は……。王様を4人集めて、Bランクになったその場でAランクになった人もいるんで」
ま、マジかよ。王様を四人呼びつけるとか、どんな大物だよッ! くそっ、そんなん、どうやっても最短記録を越せないじゃん。詐欺だよ、詐欺。
「し、しかし、それは大昔の話だろ? 今の時代では俺が最速だろ?」
俺の言葉に犬頭のスカイは楽しそうに頬を掻いていた。
「いやー、それが現役なんで。今、ナハン大森林の八大迷宮に挑戦しているって聞いてるんでー」
はぁ!? そんなさ、王様を呼び集めるような伝説級の冒険者が現役? それならさ、噂になってないとおかしいじゃん! 俺、聞いたことないんですけどー。
「いやぁ、でもこれでランの旦那もAランクかぁ。冒険者として最高ランクに到達っすよー。ランの旦那を冒険者として育てた身としては、こんなに嬉しいこともないっすよー」
……。
おい、犬頭、誰が、お前に育てられたよー。ホント、こいつは調子がいいというか、なんというか。
にしても、Aランクが最高ランクなんだな。もっと上があるのかと思ったら、これで終わりか。
「Aランクが冒険者として頂点なんだな」
うーむ、長い道のりだったなぁ。しみじみ。地道にコツコツとやってきてさ、本当に頂点までなるなんてなぁ。王様とかお偉いさんに「うむ、お前の才能は素晴らしい、今日からSランクじゃ」なーんて、ポンと引き上げて貰えないかなぁ、なんて考えていたのにさ、結局、地道に上り詰めたもんな。
「いやぁー、Aランク、頂点じゃないっすよ」
へ? でも、お前、今、最高ランクって?
「おい、まだ上があるのか?」
「いやいや、無いっすよ」
は? どういうことだ? Aランクより上はないのに頂点じゃない? 禅問答か何かか?
「Aランクの昇格と、その祝い品があるんで、ランの旦那にステータスプレートを……」
「いや、それならここにある」
俺はスカイにステータスプレート(螺旋)を渡す。
「おー、手際がいいー。じゃ、早速、預かります」
ステータスプレート(螺旋)を受け取ったスカイ君が冒険者ギルドの奥に消える。うーむ。Aランクの中にも位があるってコトなのかな? A+とかA-みたいな感じでさ。それならバーン君とか、Aの中でも最低ランクぽい。頂点のランクとしての風格がないもんな。格下に絡んできたりさ、チンピラぽいもん。
俺が考え込んでいると、すぐにスカイ君は戻ってきた。
「はい、どうぞ」
これで俺もAランク、か。って、アレ? お祝いの品もあるんじゃなかったのか?
「昇格祝いは?」
俺の言葉にスカイは首を傾げる。スカイよ、その首を傾げるの、馬鹿にされているみたいだから、今すぐやめるのだ。
「ちゃんと入ってますよ。10万GP」
うん? 今、何て言った?
「良く聞き取れなかった。もう一度、頼む」
「いやー、だから、10万GPがAランクの昇格祝いっすよー」
10万GP? 確かに字幕にも10万GPって表示されているな。えーっと、あれれ?
これがAランクの昇格祝いなのか? いやいや、今更、GPを貰ってもさ。もうランクは上がらないんだぜ?
ど、どういうこと!?