9-11 Aランク試験の終了
―1―
――《転移》――
《転移》スキルを使い神国へと飛ぶ。学院裏に降りた後は《隠形》スキルを使って姿を隠しながら《飛翔》スキルを使い地上へと落ちた神国の王城クリスタルパレスへと向かう。誰かに姿を見られると「空を飛んだ何々がー」的なコトを言われそうだが、まぁ、隠れているから、そうそう見つかることはないだろう、うん、多分。
羽猫を連れてきて乗せて貰っても良かったかなぁ。でもさ、あいつ、サイズが大きくなりすぎて、ちょっと気軽に乗るって感じじゃなくなってるんだよな。
クリスタルパレスの中ではなく、その前にある階段へと降りる。まぁ、いきなり城内に降り立ったら怒られそうだもんな。
階段を上がり、城を守っている門番に声をかける。
「セシリア女王はいるかい? 中に入らせてくれ」
俺の姿を見た門番は困ったように首を傾げている。
「いや、その、ですなぁ」
う、うーむ。今の俺なら顔パスで中には入れると思ったんだが、ミスったか。これだと、俺、ただの勘違いした横暴な人間じゃん。
「すまない、誰か話の分かる人にノアルジが来たと伝えて貰えないか?」
「は、はぁ。と、とりあえずこちらでお待ちを」
門番の一人の案内で城の近くに作られた待合室のような場所で待たされる。うーむ、城の中じゃないのか。俺、失敗したかなぁ。
しばらく待合室で待っているとカツカツとわざとらしいくらいにうるさく靴音を立てながら誰かがやって来た。
「その者は確かにノアルジーと名乗ったのだな?」
「はい、一応、待って貰っていますが……」
現れたのは若騎士だった。若騎士は俺の顔を見るなり大きく諦めのため息を吐いた。
「ノアルジー様、あなたは女王と直接お話が出来る魔道具をお持ちと聞いている。それにです、いつもなら騒動を起こしての乱入が今日に限って正面からとは……」
あれー。普通に来た方が怒られる的な感じなのか。
「すまん、すまん。ちょっと思い付きでセシリア女王に会おうかと思って」
俺の言葉に若騎士は疲れたような、そんなため息を吐いた。
「女王にも予定はあります。しかし、大恩あるノアルジー様を待たせるわけにもいきません。どうぞ、こちらに!」
すでに待たされたんだけどなぁってツッコむのは可哀相だな。うーむ、なんだか悪いことをしたなぁ。
若騎士の案内で城内を進む。
「なんだか、無理を言ってすまんな」
とりあえずフォローするよ!
「いえ、これは独り言ですが、王族や貴族は我が儘を言うものだと思っています。その責務を果たされている方なら、無理を言うのも、ある程度は許されるでしょう」
何だろう、諦観を感じる。まぁ、でもさ、独り言とはいえ、それを口に出してしまうのは、しかも他国の人間に言ってしまうのは、まぁ、アレだよな。
「こちらです。すぐに女王がいらっしゃるでしょう」
俺はキラキラと輝くお洒落な調度品が並べられた個室に案内される。あ、はい。狭いけど豪華な部屋だな。
赤い瞳で調度品の質を確かめがら待っていると、すぐにセシリア女王がやって来た。お供に先程の若騎士を連れている。この人もイマイチ立場が分かんない人だよなぁ。
「ラン、どうしたのじゃ。わらわの力が、国の助けが必要なのじゃな!」
「うんにゃ、個人的な用件だよ。これを頼みたい」
俺はセシリア女王の前に赤い短剣を取り出す。
「なるほど、なのじゃ」
取り出された赤い短剣を見てセシリア女王がニヤリと笑う。
「そのような用件で……」
若騎士が何か言いかけたのをセシリア女王が手で止める。
「よい、よいのじゃ」
そして、セシリア女王は赤い短剣を取り、それを握り色を白く変える。
「ラン、承認したのじゃ」
セシリア女王がこちらへと白い短剣を放り投げる。俺はそれを受け取った。えーっと、これで終わり?
「ラン、他の承認者にアテはあるのかのう?」
「いや、セシリーが最後だ」
俺の言葉にセシリア女王は少し不機嫌そうに横を向く。
「何じゃ、わらわが最初では無いのじゃな」
いやいや、俺だってさ、俺を含めて、まさかって言う人たちが承認してくれたからさ。
「まぁ良いのじゃ。これでランもAランクの仲間入りなのじゃ」
あー、うむ。そうだな。何というか、トントン拍子過ぎて実感が全然無いけどな!
「では、ついでなのじゃ。ラン、国と国同士の話をするのじゃ」
セシリア女王はそう言って、こちらへと振り返り片目を閉じてにこりと微笑んだ。えーっと、国と国の話? 俺のグレイシアのこと? 俺、余り権限が無いんだけどなぁ。
「ラン、魔族との講和がなった今なら、そちらのルートを通ることが出来るはずなのじゃ」
あー、そういえば神国側にも『世界の壁』は伸びていて、その先に永久凍土があるんだもんな。
「迷宮都市も帝国も無視出来るルートなのじゃ。わらわはランのグレイシアと協力した、そのルートの構築を申し込みたいのじゃ」
なるほど。確かにそちらのルートなら、今は一触即発な帝国にも関係がないし、刹那の断崖に橋がかかるまで待つ必要も無いな。俺ら側からしてもメリットのある話だ。
ただ、寒さがなぁ。いっそ完全に通路を壁で覆ってしまうか? それとも地中を進むとか、うむ、確かに面白そうだ。
「分かった。国に持って帰って検討しておく」
「頼んだのじゃ」
セシリア女王は腰に手を当て、反り返るほどに胸を反らし笑っている。
「女王……。私は聞かなかったことにします」
若騎士は頭に手を当てて大きなため息を吐いていた。今から、そんなにため息を吐いていると一気に老け込むぜ?
よし、帰ったら考えてみようかな。