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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
9  名を封じられし霊峰攻略
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9-10 燃え尽き症候群の犬

―1―


『ところで、ユエ』

「はい、何でしょう」

 ユエが忙しそうに書簡を持った手を動かしながら、首を傾げる。


『ユエ、これを持って承認すると念じてみて貰えないだろうか?』

 ユエに赤い短剣を渡してみる。

「これを、ですか?」

 ユエが書簡を動かしていた手を止め、赤い短剣を握る。さ、さすがにこれは色が変わらないよな? これで変わったら……うむ、後でセシリア女王に小言を言われそうな気がするぞ。でもさ、でもさ、試してみたくなるじゃないか。


「はい、試してみました」

 ユエが不審がりながら赤い短剣を返してきた。ほっ、さすがにユエは変わらないか。良かった、良かったんだぜー。

『ありがとう、では、自分はこれで。ユエ、困ったことがあった時は気にせず相談してくれ』

 俺の天啓を受け、ユエが深くお辞儀を返す。う、うむ。


 さあて、では、このまま神国に向かいますか。もうね、本日中にAランクにしてやるぜ、そのつもりだぜ! Bランクに上がった日にAランクになるようなのは俺くらいだろう。最短記録樹立だぜ!


 俺は《転移》スキルを使う為、屋上へと向かう。今なら、この城から、ちゃんと《転移》スキルで移動が出来るからな。


 と、そうだ。神国に向かうなら《変身》するか《分身》スキルを使って分身体を作るかした方がいいよな。


 ……。


 あー、そうだ! それに、だよ。どうせなら《変身》して、アンデッドドラゴンから手に入れた盾を鑑定してみよう、そうしよう。うむ、そうだな。というわけで《分身》スキルではなく《変身》スキルを使うべきだな。


 俺がそんなことを考えながら、屋上へ向かって歩いていると声がかけられた。

「主殿!」

 それはミカンだった。これは、ミカンです。って、ミカンも俺に用事か? みんな俺に頼みすぎじゃないか?

「八大迷宮を攻略したと聞きました」

 眼帯をしたミカンが俺へと詰め寄る。

『あ、ああ』

 これはスカイ辺りがミカンにバラしたかな。あいつは個人情報の取り扱いとか考えないだろうからなぁ。

「何故、連れて行ってくれなかったのですか!」

 ミカンが悔しそうに足を踏みならす。あ……。いや、あの、なんとなく? そ、それにさ、八大迷宮『二重螺旋』は頭を使う系の迷宮だったから、脳筋のミカンちゃんだと力業で攻略することになってさ、大変なことになっていたと思うんだ。


「私は主殿の刀なのですから、次は、次こそはお願いします」

 あ、うーむ。次というか、次が最後になるんだけどなぁ。


 えーっと、これは『分かった』って言うべきじゃないよな。

『分かっている。次の八大迷宮『名を封じられし霊峰』ではミカンの力が必要になるだろう』

 そう『ている』だよな。


 俺の天啓を受けたミカンが残った目を大きく見開き、嬉しそうに頷いていた。ミカンちゃん、頭を使うのはダメだけどさ、戦力としては大きいからな。フォローというか、指示を出す人間がいれば頼りになるもんな。

 うん、真面目にさ、八大迷宮『名を封じられし霊峰』では期待しているぜ。




―2―


 ミカンと別れ屋上に向かう。


――《変身》――


 そのままノアルジ形態へと《変身》する。まぁ、神国に向かうなら、この姿だよなぁ。


 さて、と。まずはおんぼろ盾を鑑定するか。


 コーデックスリングからおんぼろの盾を取り出し、赤い瞳で見つめる。


【朽ちた竜の盾】

【ブレスを完全に防ぎ、持ち主に無限の癒やしを与える力を持っていた盾】


 なんだか、すんごいのが来たな。ただ『持っていた』なんだよなぁ。まぁ、俺の《エターナルブレス》に耐え続けていたんだから、現状でも高性能なのは間違いないんだろうけどさ。

 どうしようかなぁ。


 盾と言えばジョアンだけどさ、もうすでにさ、立派な盾を渡しているしなぁ。いつものようにインゴットへと変えるか? いや、でも、これさ、朽ちているから、上手くインゴットに出来るか分からないし、しょぼいインゴットに変わるだけだったらショックが大きいよなぁ。


 よし、フルールに渡して何とかして貰うか。となれば、予定を変更して、まずはフルールの元に行くか。神国行きは、その後だな。フルールに会って盾を渡すだけだもんな、すぐだよ、すぐ。


 俺はとって返し、城内を進み、フルールの元へと急ぐ。


 フルールの鍛冶場に入ると、鍛冶作業は弟子が行っており、フルール自身は緩みきった顔で暇そうに転がっていた。ぐんにゃりしているな。

「フルール、よいか?」

「あら、ノアルジーさまですわぁ」

 フルールが面倒そうに答える。何だ、何だ?


「フルールはどうしたのだ?」

 俺は鍛冶作業を行っている弟子に聞いてみる。

「師匠は、燃え尽きたって……です」

 燃え尽きた?


「はぁ、ランさまが持ってきた素材はどれも素晴らしかったのですわぁ。それと比べると普通の物では、もう心が動かされなくなってしまったのですわぁ」

 フルールが寝転がりながらブツブツと呟いている。俺が原因!? 確かに、俺、変わった素材ばかり持ち込んでいたもんなぁ。というか、変わった素材だから持ち込んだというべきか……。だから、普通の素材から武具や装飾品などを作る気力が湧かなくなってしまった、と。こいつ、なんて贅沢な燃え尽き方をしていやがる。


「フルール、仕事だ。この盾を甦らせろ」

 俺はフルールの目の前に朽ちた竜の盾を置く。

「はぁ」

 最初は面倒そうに盾を見ていたフルールの瞳が輝き出す。

「ラン様! じゃない、ノアルジーさま、これは、これはなんですのぉ!」

「竜の盾が朽ちた物だ。使えるようにしてくれ」

「もちろんですわぁ。こんな、こんな伝説級の一品が、もう!」

 フルールが今にも駆け出しそうな勢いで飛び起きる。


 なんだかなぁ。


 ま、まぁ、フルールに元気が戻って良かったよ。こいつの鍛冶仕事の腕は信頼しているからな。


 まぁ、これで用事は済んだし、神国に行きますか。


 ちなみにフルールにも、弟子の方にも、赤い短剣を握らせてみたが、色は変わらなかった。いや、これから神国に行こうって時に色が変わらなくて良かったよ、うん。

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