9-8 Aランクの昇格試験
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さて、早速だが。
『スカイ、Aランクへと上がるにはどうしたら良い?』
俺の天啓を受けたスカイは言葉の意味が分からないと言わんばかりに、その犬頭を傾げている。
「はぁ、Aランクっすかー。確か……」
スカイ君はいつものマニュアルを取り出しぺらぺらと捲り始める。
「ランさん、Aランクですか?」
ウーラさんが驚き、こちらの顔を覗き込んでくる。
『ああ』
確かお偉いさん4人の推薦が必要なんだったよな? ここからは昇格にGPが必要無いみたいだしさ、稼いだGPが完全にアイテム交換用にしかならなくなるなぁ。
ん?
GP、GPだよな?
GPってさ、魔獣を殺したり、クエストを達成したりしたら増えるんだけどさ、これ、ステータスプレートと関わりが深いよな?
この世界のルール、法則と結びついているよな?
……。
もし、もしだが、グランドマスターとやらに会って話すことが出来れば、この世界の秘密というか、創世の話が聞けそうな気がする。うーむ。
「あった、あったよ!」
俺が考え込んでいると犬頭が大声を上げた。ホントさ、ギルドマスターなら、それくらい覚えておけよなー。
「あー、これ、内密にする必要がある内容だ。悪いけど、ランの旦那と二人っきりにさせて」
あ、そうなの? の割にはバーン君、あっさり俺にバラしていたよな? バーン君も意外と迂闊だなぁ。
「分かりました。では、僕たちはこれで。ランさん、また!」
「ランの王様、またな。おう、お前ら行くぞ」
「芋虫王じゃあのー」
斧を持った三人が冒険者ギルドを出ていく。今は、この国にいる冒険者が、身内を除けばアクスフィーバーの三人くらいしかいないけどさ、これから人が増えてきたら――うーむ、スカイ君一人に任せるのは危険な気がするなぁ。
「ランの旦那ー。AランクへはGPは必要無いようすよー」
ようすかー。
「冒険者ギルドが認める権力者4人に推薦して貰えれば、それでーって感じみたいすねー」
そうすねー。
スカイ君がカウンターの上に小さな赤い短剣のようなモノを4つ並べる。
「ランの旦那。これを王様とか皇帝とか、そういうお偉いさんに渡して承認すると念じて貰えれば色が変わるって載って……」
スカイ君はマニュアルをぺらぺらと捲りながら説明する。大丈夫かよ? 不安だなぁ。
「これ、資格がない人だと色が変わらないって。へー。以前の時より分かりやすくなってるらしいすよー」
ん? 以前とはやり方が違うのか?
ま、まぁ、以前がどうあれ、俺は今のやり方でやるしかないわけだけどさ。
えーっと、この赤い短剣を握って承認するって思えばいいんだよな? そうしたら、冒険者ギルドが権力者と認める人なら色が変わる、と。ホント、冒険者ギルドって謎の組織だな。これだと、冒険者ギルドの方が王様たちよりも偉いみたいじゃん。
まぁ、モノは試しだ。1個、俺自身で試してみるか。資格がなければ何も起こらないんだよな?
俺の小さな手で赤い短剣モドキを取り、念じてみる。
俺は俺自身をAランクの資格有りと承認する!
すると、手に持った短剣が青色に変わった。へ? い、色、変わったんだけど……。
「ら、ランの旦那! ああー、もう、何やってるの! 色変わっちゃったじゃん!」
スカイ君が慌てている。
「これ、ランの旦那の試験で使う物じゃないすかー。あー、もう」
『スカイ、これで色が変わったということは、一つ資格を得たということではないか?』
俺の天啓にスカイ君が大きく手を叩く。
「あ、そっすねー。そういえばそうですよ! 後、3つじゃないすかー」
あ、いいんだ。スカイ君、適当だなぁ。
でも、これで残り3つってコトは。後三人か。候補としては色々思い浮かぶけど、うーむ。これさ、もしかしてステラとかでも色が変わるんじゃないか? あー、でも魔族の女王だと適用外かな?
候補としては、まずは俺の友人、セシリア女王だな。一応、レイナード辺境伯でもいいらしいけど、これはセシリーにやって貰うべきだよなぁ。
次は、ホーシアの女王リーンか。悪い大臣から国を取り戻した功績があるからな。快く受けてくれるだろう。
後は迷宮都市のヤズ卿な。ノアルジ商会と円満な関係を築いているヤズ卿なら快く承認してくれるだろう。
ナリンのカエル姿の王様もいるな。名前は忘れたけど、あの王様なら大丈夫だろう。
うむ、楽勝だな。
「お、こんなところに居やがったな」
承認してくれそうな知人を思い浮かべていた俺の背後から声がかけられる。誰だ?
俺が振り返ると、そこにはファット船長の姿があった。
『ファット船長、冒険者ギルドに顔を出すとは珍しいな』
俺の天啓を受け、ファット船長はニヤリと笑う。
「おう、ちょっと王様に用事が、な」
「ダメダメ、ランの旦那は、今、俺と話しているんだって」
ファット船長が用件を切り出そうとしたところをスカイ君が止める。
「ん? 忙しいのか?」
『いや……、そうだな』
まぁ、まだ昇格試験の話の途中だけどさ、もう終わったようなもんだしなぁ。と、そうだ。
『ファット船長、ここに並べられている短剣を握って、自分が昇格することを承認するように念じてみて貰えないだろうか?』
「はぁ? 何かまた変なコトを始めたのかよ」
これで資格がない人が試した場合の結果が分かるな。
「まぁ、いいぜ」
ファット船長がカウンターの前まで歩き、その上に置かれた赤い短剣を取る。そして、念じると――その色が黄色に変わった。
へ?
「色が変わったぜ」
あ、ああ。変わったな。
って、おい。変わっちゃったよ。
ファット船長が権力者? うんなワケがない。これ、壊れているんじゃないか?
『スカイ、どういうことだ?』
「いやいや、ランの旦那! 何で、そこで俺にふるんすか。俺がわかるわけないじゃないすかないよ」
スカイ君は俺は悪くねぇと言わんばかりに大きく犬頭を横に振っている。
『スカイ、試してみてくれ』
「は、はいぃ」
スカイ君が慌てて赤い短剣を取る。これで色が変わったら――完全に不良品だな。まぁ、俺としては試験が楽勝で終わってラッキーって感じだけどさ。
「ふんぬ」
スカイ君が赤い短剣を握りしめて力を入れる。
「ふん、ふん、ふん」
振り回したりもする。
「ふぬぬぬー、ふぬー」
しかし、色は変わらない。
「ランの旦那を承認するっすよー」
……。
「こ、壊れてない?」
うーむ。
「お前ら、遊んでいるところ悪いけどよ、王様、いいか?」
いや、遊んでないんだけどなぁ。
にしても、何でファット船長は色が変わったんだ? ファット船長って、こう見えて王様の資格がある人とか、そんな感じなのかなぁ。まぁ、海賊の親分をやっていたくらいだもんな。あり得るか。