9-7 Bランクに昇格する
―1―
――《エターナルブレス》――
アンデッドドラゴンたちの頭上へと羽ばたき、青銀に輝く氷の息を吐き続ける。アンデッドドラゴンも反撃とばかりにこちらを溶かす肉片を飛ばしてくるが、《変異》した俺の体は溶けた側から回復していく。さすがは《真・超再生》スキルだぜ。なんともないぜッ!
反撃を受けながらもブレスを吐き続けると、やがてアンデッドドラゴンたちの動きが鈍り始めた。そのまま動きを止め、凍り、砕け散る。アンデッドドラゴンだった氷像たちが次々と砕け散っていく。
よし、楽勝。回復力にモノを言わせたごり押しだぜ。
しかし、倒した側から――倒した分だけアンデッドドラゴンが飛来してくる。ま、まさか、無限沸きとか言わないよな? こ、これは、冗談抜きで埒があかないな。
この補充の、今のタイミングで逃げるか?
「マスター、アレを!」
身動きの取れない14型が叫ぶ。どうした、また何か増援か?
14型の視線の先――凍り付き砕け散ったアンデッドドラゴンの残骸跡に錆び付いた盾が転がっていた。何だ? 盾? まさか、アンデッドドラゴンが飲み込んでいた盾とか、そんな感じなのか? 凍り付きもせず、そのまま残っているなんて、錆び付いてるのに、ちょっと異常な盾だな。アレだけ持って帰るか?
「にゃ、にゃ、にゃー」
白い球体に包まれた羽猫が悲鳴を上げる。あー、お前の球体バリアも限界が近いって感じか。
とにかく、あの盾だけでも回収して、すぐに帰ろう。
――《ヘルチャージ》――
巨大な翼を羽ばたかせ、鱗粉をまき散らし、衝撃波を伴った突撃を行う。そのままサイドアーム・アマラで錆びた盾を回収し、旋回する。
『14型、エミリオ、逃げるぞ。エミリオ、集まれ!』
巨大な翼をたたみ、14型の元へと降り立つ。
「にゃ!」
そこへ羽猫がやってくる。
帰るぜ!
14型とエミリオを確認し、コンパクトを開ける。その瞬間、周囲の風景が変わった。
そこはグレイシア王城の屋上、いつもの場所だ。はぁ、無事帰還だな。うーむ、俺も随分と強くなったつもりだったけどさ、数の暴力には勝てないなぁ。まぁ、コンパクトが使えるようになったタイミングだったのは幸運か。
『14型、お前は休み体を治すことを優先するのだ』
「マスター、了解です」
14型さ、体の中の金属が見えるくらいにボロボロだもんな。それでも傷一つ無いメイド服がスゴイ! ホント、謎物質の塊だな。汚れない、破れないって最強の服だよなぁ。
―2―
――[アクアポンド]――
翌日、俺はいつものように日課になっている水の作成を行っていた。いやあ、そのままパンデモニウムに向かうつもりだったんだけどさ、フミコンに相談したらさ、どうしても14型の力が必要ってコトだったからさ、そうなると14型が動けない限りはどうしようもないじゃん。14型が動けないって事情をフミコンも理解してくれたし、とまぁ、そういうワケで水を作っているのだ。
というわけで、だ。仕方ない、先にランクを上げてくるか。
俺は、水を作ったその足で、そのままスカイの居る冒険者ギルドへと向かう。
「ランの旦那ー!?」
冒険者ギルドに入ってすぐ、スカイ君が驚きの声が上げる。何だ、何だ、今度はどうした?
「あー、芋虫の王様だ」
「ランさん、どうしたんです?」
「おー、ラン王か」
エクシディオン君にウーラさん、イーラさんじゃん。まだ、グレイシアに残っていたのか。
『いや、Bランクの昇格試験を終えたので、な』
俺の天啓を受けた4人が驚きの声を上げる。何で、スカイ君まで驚いているんだよ。
『スカイ、確認を頼む』
俺はスカイにステータスプレート(螺旋)を渡す。
「は、はい、確認する、します、です、はい」
スカイ君が挙動不審なまま奥へと消える。
「ランさん、今、Bランクって聞こえたのですが」
「あ、ああ、俺も聞こえたぞ」
斧を持った山賊の二人が驚いた顔のまま固まっている。
「ランの旦那……、本当にBランク合格です……」
奥からスカイ君がフラフラとした足取りでやってくる。いやいや、俺がBランクに上がるのがそんなに驚きかよ。
「ランさん、おめでとうございます! 初めて会った時は僕の方が先輩だったのに、いつの間にか抜かされてしまいましたね」
「ああ、驚きだぜ。おめでとう」
「へー、芋虫の王様って凄いんだね。でも、うちの姐御はAランクだし、そこまで凄くないような……」
あれ? アーラさんってAランクの冒険者だったか? うーむ、もう覚えてないぜ。
「いや、あのランの旦那……」
三人が俺の昇格を祝ってくれる中、スカイ君が恐る恐るといった感じで話しかけてくる。
『どうしたのだ?』
「すんません! ランの旦那が達成するとは思っていなかったので昇格の祝い品を用意していません!」
……。
えーっと。
いや、ホント、この犬頭は……。
「いや、あの、そう! グランドマスターには頼んだから! 今、えーっと、多分、さっき頼んだんで、もう少し待ってくだしゃい」
えーっと、これ、多分、まだ頼んでいないよな?
ホント、この犬頭は、なぁ。