9-6 油断大敵さあ大変だ
―1―
ま、まぁ、悔やんでも仕方ない、次だ、次。えーっと、これでクリスタルドラゴンは倒したんだから、クエストは達成か。これで俺も晴れてBランクだなぁ。長かったぜ、ホント、長かったぜ。
「にゃ!」
空から小さくなった羽猫が降りてくる。おうおう、お前も小さくなればちゃんと降りてくることが出来るんだな。
エミリオも来たし、さあ、帰るか。
……。
えーっと、どうやって帰ろう。
「マスター、こちらを」
14型がえぐり出した魔石を差し出してくる。あ、はい。それは回収です。とりあえず指輪の中に入れてっと。
俺は周囲を見回す。ここは水晶の破片が舞い散る水晶の広間って感じだな。もしかすると、ここが竜の墓場の最奥なんだろうか?
一度、コンパクトを使ってグレイシアに戻って、それからまたパンデモニウムに向かうか? 急がばまわれって言うしな。
いや、せっかくだから、この墓場を探索しながら戻るか。何かレアなモノが手に入るかもしれないしな。いざとなればコンパクトを使えばいいわけだしさ。
よし、進むぜ。
水晶と水晶の隙間を抜け、適当に歩いて行く。ホント、キラキラとして綺麗な場所だな。
幻想的な風景を楽しんでいる俺の視界に赤い線が走る。何かの攻撃か? 俺はとっさに後方へと飛び回避する。そして、そこを狙うようにしなる白い物体が通り過ぎた。何だ? 何だ?
それはまるで蛇のように水晶へと巻き付いた白い竜の骨だった。骨の竜がケタケタと顎を鳴らす。俺を馬鹿にしているのか?
再度、竜の骨が水晶に巻き付けた体を引き延ばし、こちらへと噛みついてくる。しかし、その攻撃は俺の元までは届かなかった。
長さが足りない!
蛇のように伸びた白い骨が、何度も何度も、俺に噛みつこうと体をしならせ動き回る。
しかし、届かない!
巻き付いている水晶と体が同化しているのか、一定の距離までしか動けないようだ。
何コイツ。サクッと倒すか。
俺が真紅妃を握りしめ、その骨の頭を叩き潰そうとした時だった。骨の竜の口に紫の光が溜まり、そこから紫の火の玉が放たれるッ! 油断していた俺は、それをまともに食らってしまったッ!
……。
はいはい、じゃあ、叩き潰そうか。
真紅妃を下から振り上げ骨の頭を打ち上げる。
――《百花繚乱》――
そして、そこへサイドアーム・ナラカに持たせたスターダストによる高速の突きが放たれる。骨の頭は無数の白い骨の華を散らし、砕け散る。雑魚、だな。うん、雑魚だ。
―2―
さらに水晶の森を進み続けると、周囲の雰囲気が変わり始めた。周囲の水晶は黒く濁り、地面からは橙色の煙が噴き上がっている。
「マスター、何らかの毒が発生しているようです」
毒、か。
そのまま進み続けるが、俺は特に何も感じない。うーむ、俺の体はしっかりと毒を無効化しているようだな。俺は大丈夫だが、エミリオと14型はどうだろう?
『14型、エミリオ、大丈夫か?』
「少し、不快です」
14型はわざわざ嫌そうな表情を作っていた。
「にゃーう」
エミリオはうっすらと白く輝く球体に包まれていた。その球体が周囲の毒素を弾いているようだ。何それ。お前、いつの間に、そんな力を手に入れているんだ?
まぁ、とにかく早めにここを抜けた方が良さそうだな。
水晶が黒く変色した毒ガス地帯を駆けていると、何やら大きな咆哮が響き渡った。
「マスター、来ます!」
14型の言葉通り、それがやって来た。
腐れ落ちた翼を震わせ、骨に肉片が張り付いた毒ガスをまき散らす大きな竜。まぁ、大きいと言っても10メートルクラスだから、竜としては小ぶりだな。にしても、ドラゴンのアンデッドかよ。
アンデッドドラゴンが、その腐った口から毒のブレスを吐き出す。俺には毒の耐性があるから――俺の視界が真っ赤に染まる。ヤバイッ!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、アンデッドドラゴンのブレスを回避し、空へと逃げる。ブレスは毒の耐性とは別扱いなのか? まぁ、俺の《危険感知》スキルが働いたってコトは、そういうことなんだろうな。
アンデッドドラゴンが体を震わせる。またも俺の視界に赤い点が灯っていく。
「マスター、危険です」
14型が空中にある俺の前へと飛び上がる。そしてアンデッドドラゴンが飛ばしてきた無数の何かを殴り撃ち落としていく。
何だ? 肉片か?
俺の前に飛んできた何かを撃ち落とした14型が着地後、バランスを崩したかのように倒れる。
『14型?』
俺はすぐに地上へと降り、14型の元に駆け寄る。倒れている14型の手が腐食し、中の金属が見えていた。な、お前!
アンデッドドラゴンがまたも体を震わせる。俺の視界に赤い点が灯っていく。
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
氷の壁を作り、飛ばしてきた何かを防ぐ。
『14型、大丈夫か?』
倒れていた14型が無表情のまま、こちらへと振り返る。
「目が悪くて見えないマスターに説明します。見ての通り大丈夫ではないのです。が、修復可能範囲内なのです」
あ、はい。そうか、直る範囲か。にしても空に逃げたのは失敗だったな。空だと氷の壁を張ることが出来ないからな。
――[アイスウォール]――
いつの間にか氷の壁が破られている。っと、危ない、危ない。
――[アイスコフィン]――
氷の壁越しに魔法を放つ。氷の棺が生まれ、アンデッドドラゴンをその中へと押し込めていく。
しかし、氷の棺はアンデッドドラゴンの力の前に砕かれてしまった。ちぃ、もっと弱らせないとダメか? いや、死んでいるんだから、もう弱まっているよな?
と、そこへ新しい羽音が聞こえてきた。見れば、新しいアンデッドドラゴンがこちらへと飛んできている。いやいや、増援かよッ!
こうなったらッ!
――[アイスストーム]――
氷の壁を隔て風と氷の嵐が巻き起こる。嵐の中を舞う氷の塊が新しく現れたアンデッドドラゴンもろとも斬り刻んでいく。うひぃ、距離が近いから俺も巻き込まれそうだ。
氷の嵐が去った後には斬り刻まれボロボロになった2体のアンデッドドラゴンの姿があった。倒したか?
しかし、アンデッドドラゴンは、まるで逆再生でもしているかのように、体を、骨を、くみ上げていく。くそっ、アンデッドだけあって再生持ちかよ。
いや、今ならッ!
――[アイスコフィン]――
氷の棺が今にも再生しようとしていたアンデッドドラゴンの1体を閉じ込める。そのまま棺が閉じ、小さくその姿を押し込めていく。
そしてアンデッドドラゴンの1体が消滅した。よし、まずは1体ッ!
次を……。
と、その瞬間、俺の右手側が赤く染まった。《危険感知》スキルだとッ! 見れば右手側にもいつの間にかアンデッドドラゴンが現れていた。そして、そいつは体を震わせ、何かを飛ばそうとしている。
――[アイスウォール・ダブル]――
俺はとっさに右手側に氷の壁を張る。しかし、氷の壁は一枚しか生まれない。まさか、正面に張っているから数が……。
俺は14型を見る。こいつ動けそうにないな。ああ、もうッ!
俺は、14型の前に出ていた。
「マスター!」
14型が叫ぶ。いや、俺なら回復魔法で何とかなるからな。
氷の壁が砕かれる。そして、それを抜け、何かが飛んでくる。
飛んできた何かは俺の体を腐食させ、溶かしていく。あ、これ、俺が思っているよりも不味いかも。体がドロドロと溶けていく。ヤバイ、ヤバイ。回復魔法どころじゃない。痛い、痛い。溶け、痛い、激痛が。
――《変異》――
俺はとっさに《変異》スキルを発動させる。俺の背中が弾け飛び4枚の羽が現れる。4枚の羽が俺の溶け始めた体を包み込み、そして体を再生させていく。俺の体が羽に包まれ変異していく。
《変異》スキルを使えば、死ぬことはないからな。奥の手として残して置いて良かったぜ。さあ、蹂躙してやるッ!
しかし、俺の前に絶望的な光景が広がった。
さらに何匹ものアンデッドドラゴンがこちらへと目掛けて飛んできていた。追加とか、おかわりとか。あかん、これはダメだ。《変異》スキルを使っているから死ぬことはないし、負けることはないだろう。でも、戦い続けて《変異》スキルの効果が切れたら?
これは逃げるべきだ。