8-88 カーン
―1―
14型に巨大な扉を押し開けて貰い、その中へと入る。
扉の中は真っ暗闇だった。何だ、何だ? また《暗視》スキルが働かないエリアか。《暗視》スキルも万能じゃないなぁ。
暗闇の中、まずは分身体に先行させる。そして、その後を追うようについていく。まぁ、何らかの気配を感じたら、すぐに行動してくれる14型と安全確認の為に先行させている分身体がいるんだ。何か、あっても、すぐに対処出来るだろう。
少し歩くと、突然、ガタンという何かが外れたかのような音が響き渡った。何だ、何だ?
そして、警報が鳴り響く。
ん? 床が、足下が振動している? 動いている?
部屋に光が灯る。俺たちの足下から、上へ、俺たちを追い越していくように次々と光が通り過ぎていく。
何だ、何だ?
何も無い空間に俺たちが乗っている板が浮いている? 俺たちが来た扉が見えなくなって居るぞ?
これは剥き出しの状態のエレベーターか? 下に降りている? それとも上に上がっている?
俺たちの足下を通り抜けていく光の中、空中に四角い箱が現れた。もしかして、これが、この迷宮のボスか? 箱と俺たち、少し距離があるな。
俺たちが見ている前で四角い金属の箱から、新しい金属の箱が生まれた。箱が分裂するように生まれ、螺旋を描きながら連なっていく。
次々と同じサイズの四角い箱が連なり、まるで蛇のようだ。
長く伸びた無数の四角い箱が動き、形を変えていく。
それは漢字の不と縦棒がくっついたような姿だった。隊列を組んでいる?
そして、四角い金属の箱の正面が開いた。開いた、だと?
金属の箱の中にはまん丸な球体が埋まっている。無数の金属の箱の中央一つだけが橙色で、後の箱は全て黒色の球体だった。
そして全ての球体から橙色の光線が放たれた。こ、攻撃してきた?
俺と14型、分身体は、その並んだ形そのままに金属の箱から放たれる光線を回避する。すると金属の箱が動き、配置を変える。今度は横棒にNがくっついたかのような形状だ。そして、放たれる光線。
こ、これはアレか。この迷宮らしく謎解きボスか? って、まぁ、謎解きってほどじゃないけどさ。
連なった金属の箱は並びを変えながら、こちらへと一方的に攻撃をしてくる。えーっと、多分だけどさ、この光線を回避しながら、金属の箱の中に居る橙色の球体だけを攻撃しろって感じかな。
ならばッ!
――[アイスランス]――
木の枝のように尖った氷の槍を作り出し、橙色の球体目掛けて伸ばす。が、届かない。アレ? 思ったよりも距離がある? ならば!
――[アイスストーム]――
四角い金属の箱たちを中心として氷と風の嵐が巻き起こる。しかし、金属の箱は無傷だ。うーむ、アイスストームだと、攻撃範囲が大雑把過ぎて、橙色の球体を狙えないのか? 橙色の球体以外は攻撃無効とか、そんな感じなんだろうか。いやいや、そんなゲーム的な……でも、それがありえそうなのが、この世界なんだよなぁ。
となれば、一気に近寄るしかないな! 光線をかいくぐって接近戦を行うぜ!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い飛び上がる。その瞬間、俺の体が吹き飛ばされた。へ?
「マスター!」
14型が動き、俺の体を掴む。しかし、俺を吹き飛ばそうとする力は強く、俺の体が床に強く叩き付けられる。うご、が、いてぇ。
そして、視界に赤い線が走る。見れば橙色の光線が眼前へと迫っていた。14型がその篭手に光線と同じ色の靄を集め、光線を打ち払う。
「マスター、動いているモノの上で飛び上がるとは、無茶です」
あ、はい。いや、あの、うん、《飛翔》スキルなら、何とかなると思ったんだよ。にしても、何らかの力が働いているのだろうか? こうなると、飛んだり、跳ねたりは難しいか。
となればッ! 弓で攻撃をするか。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使い水天一碧の弓を取り出す。そして、14型から矢を受け取る。行くぜ!
――《集中》――
しっかりと《集中》して狙いを定めてからのッ!
――《チャージアロー》――
弓に番えた矢へと光が集まっていく。これで、攻撃を――と、そこに赤い線が走る。すぐに、その赤い線を追いかけるように光線が走った。あ、回避、回避ー。チャージを止め、光線を回避する。
あー、これ、悠長にチャージなんて出来ないな。
まぁ、いい。普通に攻撃だ。
矢を射ると、矢は普通に飛び、橙色の球体へと迫る。あれ? この床って、今、動いている状態なんだよな? 相手も、こっちも動いている状態みたいだが、矢は普通に飛ぶんだな。うーむ、考えたら負けなんだろうか。
矢が橙色の球体に当たる直前で、金属の箱たちが動き、配置を変える。矢が四角い箱の中の黒い球体に当たり、そのまま跳ね返されていた。あー、惜しい。
金属の箱たちが動いたすぐ後を狙うか。
光線を回避し、金属の箱の動きを確認し、橙色の球体の場所を確認する。
……。
これ、ダメだ。橙色の球体が動いた先を確認してから、矢を放っていたのでは遅すぎる。どうする、どうする?
俺は光線を回避しながら、考える。
あ、分身体が光線を回避しきれずに真っ二つにされてる。うひぃ、意外と威力が高いなぁ。まぁ、攻撃を食らいそうな時に危険感知スキルが働くくらいだもんな、当然か。
うーむ、コレ、文字というか、絵というか、何か規則的に動いているように見えるんだよな。
『14型、パターンの解析は出来るか?』
「マスター、了解です」
あ、了解しちゃうんだ。
―2―
光線を回避しながら、その時を待つ。
……。
……。
……。
「マスター、次が中央なのです」
やはりパターンがあったかッ!
俺は普通に矢を放つ。
矢が届いた時には、金属の箱の配置が完了し、ちょうど、橙色の球体に刺さった。おー、ばっちりなタイミングじゃん。
スキルも使わず、ただ放っただけの矢だったが、橙色の球体は爆発し、燃えながら、四角い箱ごと空中を転がり落ちていった。あー、当てるだけでいいのか。
抜け落ちた箱の部分を埋めるように隣の箱が動く。そして、再度連結する。
金属の箱の一つの黒い球体が裏返り、橙色に変わる。あー、そういう感じなんですね。
「マスター、残り107体です」
14型、数えていたのか。にしても、107かよ!
これ、矢の数が足りないんじゃないか。