8-86 二重螺旋謎八設問
―1―
『14型、今、何部屋目だ?』
「記憶力が虫並みのマスターの為に補足すると36部屋目なのです」
誰の記憶力が虫並みだ。俺は、ただ、数えるのが面倒だっただけだってば。にしても、もう36部屋目かよ……。これさ、もしかしたら性格診断か、何かなんじゃないか? だってさ、どちらとも取れるような質問ばかりじゃないか。100部屋くらい終わると、あなたの性格は何々です、とかさ。あなたに向いたクラスは何々です、とか、真面目にありそうだよな。
それか、もしくは突破方法が謎解き以外って可能性もあるよな。そうだよ、もしかしたら、何か思いきった行動を取ることで解放されるとか、ありそうじゃないか?
例えば、第三の選択として来た道を戻るとか。
謎解きなんて付き合ってられるかって、スフィンクスの像を壊すとか。
こういうのも良くあるパターンだよな。うーむ、試してみるか?
性格診断みたいな形で終わるってのも考えられるんだけどさ、一つの区分の距離が距離だからなぁ。すぐに次の質問ってワケじゃなくてさ、そこそこ長めの螺旋階段を挟んで、だもん、ちょっと考えにくいよな。
……。
一度、来た道を戻ってみるか。
スフィンクスの部屋から来た道を戻る為に振り返る。あれ? 今更だけどさ、扉が閉まっているな。
『14型、扉を閉めたのか?』
14型はわざとらしく蔑むような顔を作り、首を横に振る。音もせずに扉が閉まっているとか怖いな。にしても、36部屋目で、やっと気付くとか、俺も耄碌したものだぜ。でもさ、これで確定じゃないか。
来た道を戻る、第三の選択をする、が正解だな。
サイドアーム・アマラを使い扉を開ける。普通に開くんだな。閉じ込められたー的な展開も考えていたが、うーむ。
そして、扉の先は転送の台座が置かれた部屋になっていた。先程まで降りてきていた螺旋階段じゃなくなっているだと? 進んだのか、戻ったのか、どっちだ?
うーむ。
とりあえず転送の台座を触れば分かるか。転送の台座に手を触れると、三つの画像が浮かび上がった。
……。
三つ、三つだと!?
更に扉を開け待合室のような部屋を抜け、更に次の部屋へと進む。そこは透明なカプセルが並ぶ部屋だった。
は、は、はは。戻ってきてるじゃん。36部屋も進んでいたつもりだったのに、まったく進んでいなかったのか?
やはり、スフィンクスの像を壊すとかが正解か。ただ、さすがに時間がキツいな。一度、休憩を挟もう。
『14型、転送の部屋に戻り、一時、休憩だ』
「にゃ」
そうだな、エミリオ、お前にも頑張って貰っていたからな、休憩は必要だ。
―2―
14型の用意した謎肉を食べ、一息吐きながら考える。そろそろ、俺1人で考えるのは無理があるか。でもさ、だからといって、14型は脳筋だし、エミリオは何を言っているかわからないし、頼るのは無理だよなぁ。頼れるのは俺1人ってワケか。
……。
俺は、ふと首から提げたステータスプレート(螺旋)を見る。
そうだよ、よく考えたら俺1人で考える必要なんてないじゃないかッ! 俺には相談出来る仲間がいるッ!
――《分身》――
俺は《分身》スキルを使い分身体を作り出す。俺自身だとフミコン通信機を使って会話することが出来ないからな。
さて、誰に相談するかな。キョウのおっちゃんか、フミコンかなぁ。でもさ、キョウのおっちゃんは通信機を持っていないしなぁ。となると、フミコンか。
「申し上げる、申し上げる。フミコン、良いか?」
ステータスプレート(螺旋)に取り付けられたスイッチを押さえ、フミコンを呼び出す。
「おお、ラン王ですか。しかし、今は立て込んでおりましてのう」
あー、魔族問題をフミコンに放り投げたもんなぁ。忙しいか。
「そうか、忙しいのか」
「いや、しかし、のう、うーむ。ラン王、どうなされたのかのう?」
うーむ、困ったな。
「八大迷宮『二重螺旋』の謎で困っていたのだが、忙しいのなら仕方ない」
「謎、謎だと!?」
と、そこでフミコン以外の声が聞こえてきた。だ、誰だ? フミコンと一緒に誰かいるのか?
「あ、ああ、謎だが、誰だ?」
「ふむ。私のことはいいだろう。先程、謎と言っていたが確かかね」
いや、確かだけどさ。誰だよ。
「ああ、謎だ」
「分かった。任せ給え」
えーっと。
「フミコン?」
「ラン王、彼女に任せてみるのじゃ」
まぁ、誰か分からないけどさ、フミコンがそう言うなら大丈夫か。
扉を抜け、スフィンクス像のある部屋に入る。
「では、問題です」
さあ、ここからだぞ。
「最初は4本足、やがて2本足になり、最後は3本足になるものは?」
ステータスプレート(螺旋)のスイッチを押しっぱなしだから、問題は向こうにも聞こえているはずだ。にしても、また、この問題なんだな。
「答え、普人族はこちら」
スフィンクスが左足を上げる。俺から見ると右だな。
「答え、犬人族はこちら」
スフィンクスが右足を上げる。俺から見ると左だな。
最初の時と答えが違うな。
「最初の答えが右側、次の答えが左側だ」
「ふむ。ちなみにこれは間違えると何かペナルティがあるのかね?」
フミコン通信機の向こう側の声は落ち着いたものだ。
「いや、無いと思う」
にしても、普人族と犬人族か。
あ!
もしかして尻尾か! 尻尾のあるなしじゃないか? この問題の原典を聞いた時にさ、3本足が杖ってさ、すげぇこじつけだよなぁって思っていたんだけどさ、尻尾が垂れるようになって3本の足のようになるって思えば、うん、そうだよ。
「では、右の道を進んで貰えないか?」
へ、右なの。俺は左だと思うんだけどなぁ。
ま、まぁ、助言してくれている人を信じて右を進んでみるか。
右の扉を開き、螺旋階段を降りていると騎士鎧が現れた。
「どうしたのかね?」
「いや、魔獣が現れたので対応している」
フミコン通信機からの返事はない。向こうで考え込んでいるのだろうか?
―3―
「さて、問題です」
はいはい、二問目だな。
「侍のクラスが得意とする武器は?」
刀だろ。
「答え、刀はこちら」
スフィンクスが左足を上げる。俺から見ると右だな。
「答え、槍はこちら」
スフィンクスが右足を上げる。俺から見ると左だな。
これは簡単だなぁ。
「先程と同じように右を選んで貰えないかね」
ああ、俺も右に賛成だぜ。
右の扉を開け、螺旋階段を降りていく。騎士鎧は現れない。これ、正解だと騎士鎧が出てこないんじゃないか?
扉を開け、予想通りスフィンクスのいる部屋へと入る。
スフィンクスもどきに近付くと、その口が開いた。
「では、問題です」
正解でも普通に続くんだもんなぁ。これで三問目、と。
「すまないが、先程は魔獣が現れなかったのだろうか?」
フミコン通信機から声が聞こえてきた。ん? あ、ああ、そうか。声や音は聞こえても映像がみえるわけじゃないもんな。
「ああ、魔獣は現れなかった」
「ふむ……」
フミコン通信機の向こうで考え込んでいるようだ。
「答え、オーガキングはこちら」
スフィンクスが左足を上げる。へ?
「答え、ゴブリンキングはこちら」
スフィンクスが右足を上げる。あ、あー、フミコン通信機で会話をしていて、問題を聞いていなかったぁぁぁッ! 字幕も消えているし、もう分かんないじゃん!
「ふむ。苦労をかけるが、次も右側を進んで貰えないかな?」
苦労をかける? ま、まぁ、右を進むか。
右の扉を開け、螺旋階段を降りていく。すると、その途中に騎士鎧が居た。ホント、苦労だよ!
俺たちが騎士鎧と戦っているとフミコン通信機から声が聞こえてきた。
「そこに魔獣は居たのだね?」
「ああ」
居たよ、居ましたよ。今、倒しましたよ!
「そういう、ことか。私の言うとおりに進んでくれたまえ」
いやいや、今までも言うとおりに進んでたじゃん!
まぁ、藁にもすがる思いで言うとおりにするけどさ!