8-79 二重螺旋第二選択
―1―
現れた階段へと進む。そして、ゆっくりと折れ曲がった道を降りていく。こう、くるくると、何というか螺旋階段を降りているような感じだな。
階段を降りきると、また、先程と同じような広そうな部屋に出た。いや、先程よりも広そうだ、うん、広そうなんだけどさ、途中に天井まで届きそうな柱が壁のように並んでいて、向こう側まで見通せないんだよなぁ。何というか、巨大迷路の入り口みたいというか。
そして、右手側を見上げると、高い位置に、ここと同じような出入り口があった。もしかして、一番最初のもう一つの入り口から通じているのが、あそこか? 何というか、この距離で階段があるって、何というか絡みつくような感じで……あー、だから二重の螺旋なのか?
まぁ、何で向こう側は高い位置にあるのかは謎だけどさ、うん、そういうものだから、ってコトで気にしないようにしよう。
正面、柱が並ぶ方を見ると、その柱群の手前に赤く光る床と、その奥に取っ手のついた俺と同じくらいのサイズの赤く染まった四角い箱があった。これはアレだな!
俺は赤い箱へと近寄り、体をくっつけるように取っ手を掴む。そして、そのまま力を入れて引っ張る。
……。
……。
う、動かねぇ。
『14型、頼む』
うむ、こういう力仕事は14型さんにお任せなのだった。俺もなー、もう少し筋力補正を上げていればなー、もしかしたらなー。
「マスター、どちらに運べばよろしいのですか?」
『その赤く光る床の上に頼む』
こういうパズルは得意なんだ。いや、まぁ、パズルとも言えないような内容だけどさ。
14型が赤い箱を持ち上げ、赤く光る床の上に置いた。いや、お前、そうじゃないだろ、そうじゃないだろ! 何で引っ張らずに持ち上げているんだよ!
カチリという音とともに赤い箱が沈んでいく。
その瞬間だった。
目の前の柱たちが折れ、崩れ、何かに吸い寄せられていく。見れば、部屋の中央に橙色の球体が浮かんでいた。それが柱や、周囲に漂っている靄のような魔素を吸い集めていく。何だ、何だ? 何が起こっている。いつの間に、あんな球体が? もしかして、さっきのスイッチか?
そして、カランという音と共に真紅妃が床に転がった。うん? ま、まさか。
サイドアーム・ナラカとサイドアーム・アマラが消えている! これは、二つの塔の時と同じスキル使用が制限されたのか!?
……いや、視界が悪くなったりしていないし、動きが鈍ったりもしていない。どういうことだ? まさか、あの橙色の球体にサイドアームが魔素として吸収された?
とりあえず俺は自分の小さな手で真紅妃を拾う。その間にも橙色の球体は周囲の魔素を吸収し続ける。そして、それは一つの形へと変化していく。
何だ、アレは? ゴリラ? 猿?
橙色の球体が姿を変え、大きな両腕を持ち、顔だけは豚のゴリラのような魔獣が生まれる。豚顔のゴリラは、その両拳をたたき合わせ、打ち鳴らし、そして、その拳を地面に叩き付ける。強固なはずの迷宮の床にヒビが入る。ひぇ、あんなのを喰らったらひとたまりも無いよう。
と、とりあえず距離を取ろう。えーっと……。
俺は周囲を見回す。何処か? 何処に?
そして、高台になっている入り口に気付く。そうだ、とりあえず、あそこに避難しよう。
俺は高台を見て、次に14型を見る。
「にゃ!」
「そういうことなのですね」
14型が俺を持ち上げ、高台まで飛ぶ。ひぇ、急に持ち上げるな。
俺たちが高台へと避難すると、豚顔のゴリラはこちらを追うように両手を振り回して突進してきた。そして、高台の壁にぶち当たり、跳ね返され、目を回す。うん?
その後も豚顔のゴリラは、こちらを攻撃しようとクルクルと大きな腕を振り回すが、こちらには攻撃が届かない。うんん?
えーっと、飛び上がることが出来ないのかな?
……。
――《スイッチ》――
俺は《スイッチ》スキルを使い水天一碧の弓を取り出す。あー、普通に《スイッチ》スキルは使えるんだ。
14型が無言でこちらに矢筒を差し出す。
あ、うむ。
―2―
豚顔のゴリラはEXPが3,072、MSP18と非常に美味しかった。
その後、何も無くなった広間を調べるが、本当に何も無かった。通路も何も無い。壁だ。
うーむ、さっきのヤツを倒したら道が開くのかなと思ったんだが、何も無いな。
となると、だ。後、考えられるのは高台の階段だけか。てっきり、こちらは外に繋がっているかと思っていたんだが、もう、ここしか道がないからなぁ。
高台へと上がり、螺旋のように伸びたのぼり階段を上がっていく。
長く続く階段を上がり続け、そして、地上に出た。
へ? え? は?
これ、最初に降りなかった左の方の階段じゃん。お、俺の最初の予想は正しかった!?
も、もう一度降りよう。
そのままとって返し、左側の階段を降りていく。
そして、先程の部屋の高台に出る。そこには先程消えたはずの迷路のように部屋を隔てる大きな柱と赤く光るスイッチ、赤い箱があった。
最初に部屋に入った時と同じ状態じゃないか!
元に戻っている!?
と、とりあえず、あの赤い箱は乗せずに、この部屋を見て回ることにしよう。