2-65 世界樹中層
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ウッドゴーレムを倒した後、ゆっくりとくつろいでいた為に気付かなかったのだが、奥の閉まっていた木の扉が開いていた。うん? 何時開いたんだろう。
まぁ、コレは入るしか無いよね。
部屋の中はそこそこ広く、12畳くらいの広さはあるように見える。4メートル×6メールくらいって感じでしょうか。入口側から奥側への方が長い長方形の部屋だった。
入ってすぐ、目の前に豪華な装飾を施された光輝く宝箱が有り、そのすぐ後ろに(台座は無いが)転送装置の床に描かれていたのと同じ円が描かれていた。
豪華な宝箱自体はすでに開けられていた。多分、これがちびっ娘の言っていた世界樹の杖が入っていた宝箱なんだろうな。
で、奥の床に書かれた円が地上への転送装置……かな。台座が無いことから予想するに……一方通行なんだろうな。
まぁ、どう考えても終点だよな。ここが終点って思っちゃうよなぁ。ここまでお膳立てされているんだもん、思っちゃうよなぁ。強力なボス、お宝、最初へ戻る装置……狙いすぎだよなぁ。しかし、俺には分かっていた。見えていた。
俺の右目に装着された叡智のモノクルは奥の壁に『隠し扉』と書かれた線を表示していた。
俺は円陣を踏まないように気をつけて奥の壁に近づく。見た目は普通の木壁だ。叩いてみる。普通に木を叩いたコンコンという音がする。うん、叩いてみても向こうが空洞になっているような音はしないな。ホント、完璧な偽装だ。
隠し扉の周りにも線が延びており、その線にはそれぞれ1、2、3、4と書かれていた。はい、これ、どう見ても、その順番に押せってことだよね。
数字の書かれた線の先をよく見てみると少しだけ木壁が膨らんでいるのが分かる。それは、そうだと思って見てみれば気付くレベルの膨らみだった。
試しに1と書かれた線の膨らみを押してみる。膨らんだ部分が少しだけ凹んだ気がする。これもそう思って見て初めて気付くレベルの感覚だな。
そのまま順番に2、3、4の膨らみを押し込んでみる。
4番目を押し込んだ瞬間、ふぁんと言う音ともに『隠し扉』が消えた。
隠し扉の先は短い通路になっており、その通路の先から陽射しが差し込んでいた。
俺は陽射しに誘われるように短い通路を進み、その奥へ。
-2-
通路の奥は世界樹の外に通じていた。外に出てすぐが太い枝になっており、その枝の上を歩いて進むことが出来るようだ。
青々と茂る沢山の世界樹の葉。太くうねった道のような枝。視界の先に開けた木の洞。
俺は、この場所に見覚えがある。
そう、この懐かしい場所は、俺がこの世界で初めて目にした光景だ。
ははは、ここに通じていたのか。こうなっていたのか。
この枝の先がどうなっているのかも、その洞の中がどうなっているのかも、俺は知っている。知っているんだ。
あの時の冒険者達はこの道を通ってきたのか。あの隠し扉に気付いたのか。凄いな。俺のように答えが見えたわけでも無いのに気付いたのか。それにあの冒険者達だけでは無く、大きな穴にはまっていたシロネさんも気付いた一人だってことだよなぁ。
この場所の事が冒険者ギルドに知れ渡っている様子は無かったよな。ウッドゴーレムがラストだって言っていたし、あそこが上層だって言っていたもんな。だが、実際はあそこまでが下層だったわけだ。最後まで登り切った俺にはわかるけど、全体を見れば、ここでも中層ってとこだ。なんつう、長さだ。なんつう、大きさだ。そしてあそこで終わりだって思わせる仕掛けといい、ここからの罠だらけの仕様と言い、なんて意地悪な迷宮だ。俺が最後の部屋にあった叡智のモノクルを持っているからこそ分かることだが、本当の意味で、最後までこの迷宮をクリアした者は居ない、居なかったってことか……。あの冒険者達がどうなったのかは分からないけれど、俺の手に叡智のモノクルがある時点で攻略出来なかったんだろうなってことだけは分かる。
ははは、何て凄い世界だ。何て迷宮だ。
-3-
世界樹の迷宮はここからが本番ってことだよな……。あの仕掛けだらけの中をこれから進むのか。さすがにこのまま進むのは無謀だよな。今日は日帰りの気分だったしなぁ。
さあ、どうしようか。
1、ここから《転移》スキルで帰還する。
2、部屋にあった転送装置を使ってみる。
まぁ、今回は転送装置を使ってみるかな。何処に転送されるかも気になるし、な。ということで来た道を……あ、そうだ、帰る前に懐かしの世界樹の葉を味わってから帰ろう。
葉っぱに乗っかり一口囓ってみる。もしゃ。懐かしい味だなぁ。ほっとする味というか。素材が生きてますねー。もしゃもしゃもしゃ。うん、毎日食べても飽きないくらいだ。
と、そろそろ帰るか。
俺は来た道を引き返し、部屋の中に戻る。
そして、そのまま円陣の中央へ。強制的に円陣が光り輝く。それに併せて視界が変わる。そこは入り口からヴァインの現れる坂を登った先にある大広間だった。てっきり入り口に出るのかと思ったらここに出るのか。
えーっと、ここからヴァインを倒しながら入り口まで戻るのか? うぇ、意外と距離あるんですけどー。めんどいんですけどー。失敗したなぁ、普通に転移で戻っていれば良かった。と言うか、中間地点が無かったから次も下層の上層(ああ、なんだかおかしな言葉だ)から蜂を倒して登らないと駄目なのか……うわ、考えただけで面倒だ。
仕方ない、地道に帰りますか……とぼとぼとぼ。
少し進むとヴァインの線が見えたので試しにウォーターカッターの魔法を使ってみた。
――[ウォーターカッター]――
高出力で放出された水のレーザーがヴァインを切りきざ……まなかった。やはり霧散する。うーん、うーん。
仕方ないので普通にコンポジットボウに火の矢を番えて射ってみた。即死だった。ちゅどーん。……はぁ、何というか、ウォーターカッターの件のショックが未だ抜けきらず頭がおかしくなっているようだ。
そのままヴァインの核から火の矢を引き抜きとぼとぼと帰ることにする。出口までに三匹ほど遭遇したが、どれも危なげなく火の矢の一撃で倒すことが出来た。
何というか使えない魔法ばかりが増えていく気がする。魔法が使えるようになったーっと喜んだのが遙か昔のようだ。
せめてクリーンの魔法くらいは使えるようになりたいなぁ。
2021年5月9日修正
ゆっくりとくつろいでい為 → ゆっくりとくつろいでいた為