8-77 クロアの目的は?
―1―
『クロア殿、シロネの祖母のクロア殿で間違いないか?』
俺が天啓を飛ばすとクロアは首を傾げ「んんー」と唸っていた。
『クロア殿、ランだ』
そう天啓を飛ばして、俺は頭を下げ――れないので、体をきゅっきゅと動かす。
「んんー。私の知っている、芋虫型の星獣様に同じ名前の方が居ますよー」
『それだ』
同一人物だよ。
「なるほど」
俺の天啓を受けて、やっと得心がいったのか、軽く頷く。
「んんー。それでは、何故、ここに?」
いや、何故って聞きたいのはこっちなんだがなぁ。
『八大迷宮『二重螺旋』の攻略の為だ』
俺の天啓を受けたクロアは、なるほどと言わんばかりに強く頷いていた。
「んんー。なるほど。ということは洞窟の封鎖は解かれたのですねー」
ん? 洞窟の封鎖? 何のことだ?
『洞窟の封鎖? 何のことだ?』
俺が天啓を飛ばすと、クロアは首を傾げていた。何だろう、凄く話に食い違いが出ている気がする。
『クロア殿、一つ聞きたいが、どうやって、この島に来たのだ?』
俺の天啓にクロアはますます首を傾げる。
「んんー。どうやって、とは? 普通に洞窟を通って……ああ! なるほど、そういうことなんですねー。私とは違うルートでこの島に来たんですね」
なんだ、と。別ルートがあるのか?
『そういうことか』
「んんー。そういうことですねー。私が、この島に来る為に使ったのは近くの小島から、この島へと通じている洞窟を通ってきたんですよねー。あそこは小迷宮ではなく、ただの洞窟。なので、途中、崩落してしまいですねー」
『通れなくなった、と』
俺の天啓を受け、クロアが、その通りと言わんばかりに手を叩く。のんきだなぁ。それで、この島に閉じ込められたって感じなのか? 何というか、シロネといい、このクロアといい、この一族は……。
『ちなみに洞窟の場所は?』
「んんー、ここからだと南の崖途中ですねー」
なるほど。場所は分かった。崖の途中でも《飛翔》スキルが使える俺なら余裕だろう。《転移》スキルは封じられても《飛翔》スキルが使えないワケじゃ無い。その洞窟が通れるようになれば、洞窟を抜けた先で《転移》が使えるようになるしな。
『クロア殿の目的も八大迷宮か?』
クロアは俺の天啓を受け、少し悩みながらも頷く。
「んんー。そうですねー、そう、と言えますねー」
何だか、微妙に濁してきたな。まぁ、相手が言いたくないことを無理に聞くのは止めるか。
『クロア殿、シロネが妖精の鐘の件で困っていたぞ』
俺の天啓を受け、クロアは苦笑していた。
「んんー、あの子は、あの家に囚われていただけあって、世間知らずすぎですねー。少しは世間の荒波に揉まれるべきですねー」
このお祖母ちゃん、酷いな。シロネは、シロネで随分と世間の荒波に揉まれていると思うがなぁ。学院の教師をやらされ、紫炎の魔女に扱き使われ、魔王討伐も手伝わされ――うん、シロネはシロネで巻き込まれ系だな。
『クロア殿、良ければ一緒に八大迷宮『二重螺旋』を攻略しないか?』
クロアは俺の天啓に肩を竦める。
「残念ながら、パーティは組まない主義なんですねー」
あー、そういえば、そんなことを言っていたな。
「んんー、情報交換くらいなら協力しますよ」
『なるほど。ちなみにクロア殿は、どの階層まで到達しているのだ?』
俺の天啓を聞いたクロアは薄く笑う。
「階層ですか。んんー、その様子だと、まだ八大迷宮『二重螺旋』には挑戦していないようですねー」
いや、まぁ、そうなんだが。
「3つ目というところですねー」
3つ目? どういった意味か問い質したいところだが、クロアはそれ以上答えるつもりはないようだった。
「では、どちらが先に攻略するか勝負ですねー」
クロアはその言葉と共に密林の中へと消えていった。八大迷宮『二重螺旋』に向かったのか? にしても、勝負って言った割には攻略する気があるようには見えなかったな。んー、イマイチ、クロアの目的が分からんなぁ。孫を質草に入れるような真似をしてまで八大迷宮に行こうとしている、の割には、うーむ。
それにさ、俺から島に来た方法を聞かなかったけど、大丈夫なのか?
―2―
作られた丸太の向こうで待っている白蛇の元へ。そして、その丸太の上にステータスプレート(螺旋)を置く。
『マンイーターを倒して来た』
俺が天啓を飛ばすが白蛇はステータスプレート(螺旋)を確認しようともしない。あれ? えーっと、報酬が欲しいんですが?
『すまない、確認を頼む』
『大丈夫、他の、冒険者ギルド、で確認』
ん? まさか、他の冒険者ギルドで確認してもらってから、って言うのか? いやいや、ここから、他の冒険者ギルドに行くのって凄い大変だぞ。今は無理だぞ。
俺がそう考えていると、白蛇は丸太の下から端が黒くなっている木の枝を咥えて取り出し、丸太の上に置かれたままになっていた手書きの札に×を書いた。クエスト達成ってコトか? 何だろう、蛇だからか、表情が読めないし、反応がワンテンポ遅いから、凄い不安になるぞ!
……。
あー、俺と相対した人間も同じように感じているのかな。俺も表情は余り作れないもんな。
うーむ、俺、もっと気さくに喋った方がいいのかなぁ。
「マスター。マスターが小難しいことを考えてもろくなコトにならないと思うので、今のままで良いと思うのです」
14型が俺の思考を読み取ったかのように喋る。いや、コイツの場合は、俺が考え込んでいるから適当なコトを言っているだけだろう。
俺がそんなことを考えている間に白蛇は報酬を用意してくれていたようだ。丸太の上にキラキラと光るごつごつとした石が置かれている。おー、これが報酬か。とりあえず鑑定してみるか。
【きらきら光る石】
【きらきらと光って綺麗】
……。
いや、まんまだな。
これ、何かの素材になるのかなぁ。うーむ。
まぁ、有り難く貰っておくか。
あ!
今更だけど、この白蛇が最初に言っていた『最近、旅人』ってクロアのコトか。てっきり、最近は旅人も来なくなったって意味かと思ったんだが。逆か。そうか、そういうことだよな。