8-76 マンイーターたち
―1―
「こっち、こっちだよ」
雑音を無視しながら洞窟の中へと入る。洞窟の中は薄暗かったが、《暗視》スキルを持っている俺には関係が無い。
そして、そこには、俺にまともな嗅覚があれば、むせかえるような血の臭いを感じていたのかもしれない光景があった。
数々の食いちぎられた魔獣の死骸。なるほど、他の魔獣の姿を余り見かけないのは、こいつらの仕業か。まぁ、でも、食べ物を食べるのは生き物として当たり前だから、な。これだけで判断するのは早計か?
『14型は万が一の時の為に外で待機を頼む』
「了解です、マスター」
14型の物わかりが良くて助かるよ。
『これは君たちがやったのかな?』
「やあ、旅人さん」
俺の天啓の返事が、それだった。
『この先にあるのは何だ?』
「良かったら、僕たちの村に来てよ」
妖精のような魔獣は笑顔のまま、そう答える。回答がちぐはぐだな。もしかすると、声、というか、こちらの対応に、ただ木霊のように返しているだけなのかもしれないなぁ。これは、もしかすると、いや、もしかしないでも、だ。
まぁ、進めば分かるか。
血のぬめりで転けないように気をつけながら、(まぁ、黄金妃を履いている以上、ありえないんだけどさ)奥へと進んでいく。
「こっち、こっちだよ」
俺は洞窟の奥へと進みながら、念の為、白と黒の仮面をつけておく。
「にゃぅ」
その際に、頭の上の羽猫が目を覚ましたようだ。そして、どうする、とでも言わんばかりに俺の頭を叩いた。
『ライトなら不要だ。休んでおけ』
「にゃぅ」
俺の天啓が分かったのか、羽猫は再度眠りについたようだった。まぁ、無理させたからな、休ませるべきだろう。
更に進むと大きく開けた場所に出た。ここが目的地かな?
先程までうるさかった妖精型の魔獣の声が聞こえない。なるほど。
そして、天井から、ぼとぼとと黒い体皮の毒々しい巨大な芋虫が何匹も降ってきた。
【種族:ヘルクロウラー】
なるほど、これがヘルクロウラーか。俺の進化先にあった魔獣だな。うーん、余り強そうに見えないな。
俺が退路を確認しようと振り返ると、妖精型の魔獣から黒い靄が発せられていた。スリープクラウドの魔法かな? いやぁ、闇魔法で良かったよ。俺の読みが当たったな。
にしても、こいつら、連携するとか凶悪だなぁ。もしかして、ヘルクロウラーの進化先がマンイーターなのかな? それならさ、あのままランクアップしていても、俺、人型になれたんじゃないか? この芋虫の体から脱出出来たんじゃないか?
って、考えている場合じゃないな。
結局、蹴散らすしかないか。
改めてヘルクロウラーの方を見ると、ヘルクロウラーたちは、黒いブレスを吐き出していた。ダークブレスか。
ブレスなら、俺も習得しているぜ!
――《エターナルブレス》――
俺の口元から青白く、青銀に輝く息が吐き出され続ける。息は部屋内に充満し、目の前のヘルクロウラーたちを凍り付かせる。凍り付いた状態でも、まだ息があるのか、凍ったヘルクロウラーたちが、氷をかち割ろうと、カタカタと動く。
俺は真紅妃をサイドアーム・アマラに持たせ、その氷ごと貫いていく。真紅妃はヘルクロウラーの魔石を的確に貫き吸収しているようだ。まぁ、今の俺の敵じゃないな。
後はマンイーターたち、か。
マンイーターたちは黒い球体を作り出し、こちらへと飛ばしてくる。しかし、その全てが無効化される。うーん、属性無効、強すぎないか? この世界ってさ、属性に縛られているから、それを無効化出来たら無敵だよなぁ。
にしても、だ。このマンイーターだけどさ、可愛らしい姿をしているから、攻撃するのは抵抗があるなぁ。
――[アイスランス]――
氷の槍がマンイーターを貫いていく。しかし、マンイーターは、すぐに氷を砕き起き上がってくる。
――[アイスランス]――
もう一度、貫くが、同じように立ち上がってくる。うーん、氷だと余り効いてない?
――[ファイアランス]――
炎の槍を飛ばす。効果は覿面だ! マンイーターは面白いように燃えて消し炭になった。
いや、ホント、人型で、愛らしい少女の姿をしていると抵抗があるな、うん。
――[ファイアランス]――
マンイーターが燃え上がる。マンイーターは「旅人さん」や「僕たちの村へ」などと訳の分からないことを喋りながら燃えていく。マンイーターは炎の槍で一撃のようだ。
結局、こういうオチか。
と、そこで地面が揺れ始めた。何だ、何だ?
広い部屋内の地面がボコボコと盛り上がり、中からマンイーターが現れる。いや、先端がマンイーターになっている無数の触手だ。
無数の触手が「やあ、旅人さん」と木霊する。
そして、その触手の向こう、その先に、大きな口を開けたタコのような魔獣がくっついていた。これが、本体?
触手の先端にくっついていたマンイーターが千切れ落ちる。落ちたマンイーターが独自に動き始める。そして、その千切れ落ちた触手の先が形状を変え、新たなマンイーターが生まれる。
こうやって増えているのか、ホント、よく分からない魔獣だな。だって、この子マンイーターにも魔石があるんだろ? そう考えると魔石を無限に生み出す装置に見えるなぁ。美味しいって思うのは、うん、随分と、俺もこの世界に毒されたもんだよ。
まぁ、でもさ、白蛇との約束だからな、倒すか。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使いスターダストを呼び出し、サイドアーム・ナラカに持たせる。
――[ファイアウェポン]――
スターダストを振り払い槍形態へと変える。そして、そこに燃え盛る紫の炎が生まれる。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、触手の隙間を抜け、大口を開けたタコまで飛ぶ。
終わりだ。
――《インフィニティスラスト》――
紫の炎を纏ったスターダストが無限の螺旋を描き、タコを貫く。その体内にあるであろう魔石ごと全てを貫き、大きな風穴を開ける。
うん、一撃必殺だな。そりゃあ、魔族の四魔将を一撃で倒す技だからな、こんな雑魚が耐えられるワケがないか。ただ、威力がありすぎて魔石を破壊してしまうのは問題だな。
さあて、後は残ったマンイーターの殲滅か。
―2―
洞窟の外に出ると14型が優雅に立って待っていた。しかし、その篭手は、綺麗なメイド服とは反するように血に塗られていた。あー、そういえば、メイド服は綺麗になる魔法? みたいなモノが付与されているんだったな。篭手は後で俺が渡したモノだもんな。
――[クリーン]――
とりあえずクリーンの魔法で篭手を綺麗にしておく。
「マスター、お帰りなさいませ」
お帰りってのも変な感じだな。
「マスターの言われた内容を、ちゃんと、拡大解釈して、すべて掃除しておきました」
今、ちゃんと、ってところに力を入れていたよな。はいはい、14型が正しかったよ。
戻るか。
人型であったり、タコであったりで、何が素材になるかも分からないし、気味が悪いから何も持ち帰っていないが、討伐は討伐だ。うん、信じて貰えないかもしれないが、一応、伝えておくか。報酬が貰えなくても、別に困らないしな。
密林を抜け集落跡に戻る。
さあ、報告だ。
俺たちが報告をしようと丸太の前に移動しようとしていると、ボロボロで粗末な宿泊施設から、見知った顔が出てきた。
「んんー。何処かでみた星獣様と似た姿ですねー。やはり、複数存在しているのでしょうか」
それはシロネの祖母、クロアだった。いやいや、何で、ここにいるの? 俺、この島に入るの結構、大変だったんだよ!
2017年1月26日修正
8-77 → 8-76