8-74 その地を守る星獣
―1―
大きな白蛇は丸くなりとぐろを巻く。《剣の瞳》の反応が青だったからさ、そこまで警戒する必要はないのか?
『我、星獣様、なる』
周囲にたどたどしい《念話》が飛ぶ。もしかして、目の前の白蛇が《念話》を使っているのか?
『星獣なのか?』
俺が天啓を飛ばすと白蛇は嬉しそうに大きな口を開きちろちろと舌を動かした。
『星獣、そう、星獣、だ』
白蛇が《念話》を返す。そうか、星獣か。にしても、何で、こんな場所に?
『守護、この地を守護する、星獣、だ』
この地を守護する? だとしたら、先程の村人? 妖精のような少女を殺してしまったのは不味いんじゃあ……。報復とかされるのか?
『拠点、案内、だ』
しかし、白蛇の答えは違っていた。拠点? 案内?
白蛇がとぐろをほどき動く。途中、こちらへと振り返り、まるで着いてこいと言わんばかりに首を動かす。とりあえず着いていくしかないか。
白蛇は巨体をうねらせ、地を這い、絡みつく無数の木の根の上を器用に動いていく。なかなか素早いな。俺も素早さなら負けてないんだけどなぁ、でも、こうも道がでこぼこだとなー。困ったなー。
白蛇は進みながら、何度も、こちらへと振り返る。ちゃんと着いてきているのか心配なのかな? 何だろう、俺がこんな体型だからか、かなり加減して進んでくれているみたいだな。
『もう少し早くても大丈夫だ』
俺が天啓を飛ばすと白蛇は分かったと言うように目を閉じ、頭を下げた。そうさ、心配はご無用なんだぜー。
白蛇が体をくねらせ動く。と、そこへ、木の陰から、先程、14型が惨殺したのと同じ姿をした妖精のような少女が顔を覗かせた。
「大変、大変、助けて欲しい。着いてきて」
妖精のような少女が哀しそうな顔をして手招きする。
しかし、白蛇は一瞥したたけで気にもとめず進んでいく。
『いいのか?』
俺が天啓を飛ばすと白蛇は一瞬だけ動きを止め、こちらに振り返る。
『今は、無視、だ』
そうか、無視か。
白蛇は進んでいく。後を追いかける前に、とりあえず、さっきは出来なかった鑑定を今の内にやっておくか。
――《剣の瞳》――
木の影に隠れている妖精のような少女が赤く光る。反応は赤か。赤かぁ。
次は鑑定だな。
【種族:マンイーター】
名前はないのか。普通に魔獣なんだな。人食いとか、不気味な種族だな。
「マスター、考えている場合ではないと思うのですが、いつものですか?」
いつものって何だよ。って、やべ、白蛇さん、結構、進んでいるぞ。やべ、やべ。まぁ、あの巨体だから見失うことは無いと思うけど、油断は出来ないな。
『14型、追うぞ』
「マスター、了解です」
俺には《軽業》スキルがあるからな、こんなデコボコ道でも余裕だぜ。
俺は、俺のすぐ後ろを走っている14型を見る。こいつは忍者みたいな移動を得意としているからさ、当然、余裕だろうな。
―2―
白蛇を追いかけ続けると、密林を抜け、開けた場所に出た。
『お前、なかなか、早い』
ありがとさん。まぁ、《飛翔》スキルもハイスピードの魔法も使ってない状態だからさ、本当は、まだまだ速度を出せたんだぜ?
その開けた場所に、壊れ、崩れ落ちた家々の姿が見えた――集落の跡地か?
『ここ、だ』
ここか。
しかし、ホント、ここは何だ? 寂れて崩れ落ちて……何だろう、廃村になってから結構な日数が経ているように見えるが、うーむ。
『我、この地、守る星獣様、なる』
ここを守っているって言うのか? いや、でもさ、人影はないし、建物は崩れているし、守る価値があるのか?
『人の姿が見えぬようだが?』
俺が天啓を飛ばすと、白蛇は首を傾げた。
『人、死んだ、消えた。最近、旅人』
死んだか、逃げ出したか、か。最後のは旅人の姿を最近は見なくなったとか、そういう意味かな。
俺が周囲を見回すと、見覚えのあるモノと、少しだけ新しい作りの建物が見えた。
『あれは?』
見覚えのあるモノ――それは、大きな木の板にミミズがのたくったような文字が書かれた木片が、何個もぶら下げられていた。
『ここの、冒険者ギルド』
やはり冒険者ギルドなのか。手作りのクエストボードってワケか。この白蛇が作ったのか? こんな、もう人が来ないかもしれない場所に?
『あれは?』
少しだけ新しい作りの建物――いや、建物と言うのもおこがましい、木材を積み上げ、葉っぱを乗せただけのシロモノだ。
『宿泊施設、だ。人には、必要、だ』
いや、まぁ、そうなんだろうけどさ。これも、この白蛇の手作りか?
その蛇の体で、頑張って作ったんだろうな。
人がいなくなり、それでも、この地を守り、人が来たときのために施設を作って――俺には考えられないな。
星獣って、そういうもんなのか?
もう人もいないのに、この地を守り続ける意味なんて無いだろうにさ。
星獣って何なんだ?