8-73 14型は悪く無い
―1―
島が近寄るにつれ、その姿が見えてくる。何だろう、森が多いというか、密林って感じだな。こっちの世界の北の方だからさ、温暖な気候だしなぁ、どんどん、がんがん、木々が増えていったのかもしれないな。
「にゃ!」
羽猫が気合を入れるかのように、一声、鳴く。
そして、大きく羽ばたき、島へと突撃する。なんで気合を入れる必要があるんですかねー。
ぎゅんぎゅんと島が迫っていく。巨大な高く剃り立つ崖に囲まれ、確かに通常では辿り……うひっ!?
突如、周囲に衝撃が走り、空間に透明な壁があるかのように羽猫の勢いを押さえつける。な、何だ?
空間にヒビが入り、それを抜かんとエミリオが、その爪を、その牙を、全身を使い、食い破る。まさか、結界か?
羽猫がもう一度大きく羽ばたき、見えない壁を突破し、激しい衝撃と爆発音を後方へと置き去りにして、島へと侵入する。
「にゃうぅ」
羽猫が弱々しい鳴き声を上げ、そのまま動きを止める。浮力を失った羽猫の体が地上へと落ちていく。うおおお、くるくると目が回る、振り落とされるぅ。目まぐるしい展開過ぎてついて行けないー。
そして、その途中で羽猫の体が光輝き、元の小さな体へと戻っていく。ああ、またも空へと投げ出されるのか。しかも、今回はどっちが上でどっちが下か、ぐるんぐるん、あーうー。
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使い、空中で静止する。そのまま、ゆっくりと上下を確認し、視界を戻し、地上へと降りていく。
俺が降りた地上、そこにはちゃっかりと着地していた14型が、エミリオの首を掴み、その羽猫の体をぶらーんとぶら下げて持っていた。ま、まぁ、14型なら余裕で着地しているだろうと、全然、心配してなかったんだからな! にしても、羽猫は気絶しているようだけどさ、結界を越えるのに無理しすぎたんだろうか。うーむ、結界があるとは思わなかったからなぁ。
そんな考え事をしている俺の方へと14型が優雅に歩き、そして、俺の頭の上に羽猫を乗せた。
「今回だけは特別なのです」
いやいや、意味が分からないからな! 何で、俺の頭の上に乗せた!? 特別って、何が!? それに今回って、昨日も、こいつ俺の頭の上でくつろいでいたよな? こいつらの謎行動は考えるだけ無駄か……。
ま、まぁ、何にせよ、これで八大迷宮『二重螺旋』のある島に到着だな。ホント、今回はエミリオのお陰だな。
―2―
とりあえず《転移チェック》をしておくか。
【転移チェックは不思議な力によってかき消されました】
はい、出ました、このシステムメッセージ。結界があった時点で、もしかして、そうなるんじゃないかなぁ、って、予想していたけどさ、予想していたけどもさ!
とりあえず進むか。どうせ、迷宮は、この島の中央とかだろうから、そこまで進めば大丈夫だな。いやぁ、でもさ、この生い茂った、茂りすぎた密林を歩いて進むのか。木々は複雑に絡み合ってよく分からないことになっているし、足下も木の幹でぼこぼこだし、至るところに苔は生えているし、よく分からないキノコは胞子をまき散らしているし、何だか、この島自体が迷宮みたいだよ。あんまり進みたくないなぁ。
木々によってデコボコとした地面を這うように進んでいく。すると前方に魔獣という線が見えた。ついに出たか。
ん?
しかし、その魔獣は少し様子がおかしかった。
姿形は殆ど人と変わらない。蝶のような羽に愛くるしい少女の姿、そして葉っぱで作ったような服を着ている。そんな妖精のような魔獣が、まるで機械であるかのように、まったく身動きをせずに静止している。
何だ? この島の村人か何かか?
俺たちが近寄ると、こちらに気付いたのか、妖精の少女が動き出した。こちらを見て、一瞬、人がなしえない不可解な表情を浮かべる。そして、それが見間違いだったかのように、すぐに笑顔を浮かべた。
「やあ、旅人さん。良かったら、僕たちのむら……」
妖精のような少女が笑顔のまま、こちらへと話しかける。しかし、その言葉は最後まで発せられなかった。
一瞬で妖精のような少女の元へと間合いを詰めた14型が、いつの間にか装備した凶悪な篭手で、その少女を殴りつけ、叩き潰していた。妖精の少女だったものが内臓をまき散らしながら、無残に吹き飛ぶ。
へ?
そして、14型は拳を引き抜き、その手に握っていた物を俺に見せる。
「マスター、魔素の塊です」
いや、ああ、確かに、そうだな。うん、魔石だ。
いや、そうじゃないだろう。
『14型、お前、何をした』
14型は俺の天啓が理解出来なかったようだ。
「マスターがいつもやられているように、フィ……魔獣を倒し、魔素の塊を取り出しました」
確かにそうだな。
『14型、人と魔獣の違いは分かるか?』
「マスター、定義が曖昧です。私はマスターの行動から学習し、そうであるものと、そうでないものを分けています」
『なら、自分は魔獣か?』
俺の天啓に14型が首を傾げる。こういう所は、ホント、人間みたいなんだよなぁ。
「マスター、理解出来ないのです」
でもさ、こういう時にさ、14型は機械なんだなぁ、って思ってしまうな。
『14型、先程の者は、こちらへ友好的に話しかけているように見えた。戦うにしても、会話をしてからでも遅くは無かったのでは?』
14型はさ、危険を感知して行動してくれたのかもしれない。それでもさ、俺はさ、会話が出来る相手なら、会話してから行動を起こしたいワケよ。
「マスター、あれは魔獣です」
『それなら、俺も喋る魔獣だ』
何の基準で14型が動いたか分からない。帝都に居た頃はさ、それこそ、周囲に人と同じように暮らすオークやゴブリンもいたわけだ。その時は、こんな反応をしなかったのにさ、急に何でだ?
「マスター。マスターと同じと言うことであれば、先程から、その物陰でこちらを観察している者がそうだと思うのです」
ん?
14型が指差した方へと振り返るが、そこには木々があるばかりで何も無かった。線も見えないじゃん。
いや、待てよ。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》を使うと、14型が指差した方向に青い反応があった。誰か居る? って、俺、さっきの時に、このスキルを使っていれば、そうだよ、何で忘れていたんだ。そうすれば、14型の反応が正しかったかどうかも分かったのにさ。
『そこにいるのは誰だ!?』
俺が天啓を飛ばすと、それに反応するかのように大きな白い蛇が現れた。うお、大きい。俺なんか一飲みにされそうだぞ。
って、こんな大きいのがどうやって隠れていたんだ?