8-71 二重螺旋へ出発だ
―1―
――[アクアポンド]――
今日も今日とて王の仕事をこなすのです。これが、商売の為の飲み水となり、俺の国の目玉になる予定の回復の温泉の元となり、やがて俺に返ってくるのだから!
いやぁ、大事な役目だなぁ。
まぁ、確かにさ、俺の国の知名度って、ノアルジー商会のある本国ってくらいでさ、神国では、そういう国もあるのかーって、今はその程度だけどさ。回復の温泉を堪能してくれた、アクスフィーバーの面々やスキンヘッドとモヒカンのおっさんたちが宣伝してくれるだろうし、これから観光とかで入国してくる人たちが増えるだろうからな! これが、この俺の仕事が重要な役割を担うこと間違いなしだからな!
うん、頑張ろう、頑張ろう。
「マスター、私を呼んでいる気配がしたのです」
と、そんなことを考えている俺に14型が話しかけてきた。相変わらず気配を感じさせず背後から声をかけてくるなぁ。
呼んでないんだが、あー、でも、どうせだから、謎のパーツを渡しておくか。
『14型、これを』
俺は魔法のリュックから謎のパーツを取り出し、14型に手渡す。
「これは……」
謎のパーツです。ホント、謎だよな。
『それと、近日中に八大迷宮『二重螺旋』に挑戦する予定だ。14型にも協力して貰う』
「了解したのです」
14型が優雅にお辞儀をする。14型さん、ホント、頼んだからな!
「それでは、さっそく、今、強化してしまいましょう」
14型が謎のパーツを飲み込む。あ、やっぱり飲み込むんだな。何で、飲み込んで強化されるのか、ホント、謎だなぁ。
「こ、これは……!? マスター、失礼します」
14型が俺を持ち上げる。何だ、何だ? 凄い力で拘束されて身動きが取れないぞ。
そのまま14型が恐ろしい勢いで駆け出す。
ポンちゃんの畑と化している裏庭まで一気に駆け抜ける。そして、一瞬だけ、間を置き、力を溜め、跳躍した。
俺の視界が目まぐるしく変わる。高い、高いぞ。ど、何処まで飛び上がるつもりだ。
アイスパレスが小さくなるくらいまで、寒さに強いはずの俺が寒いと感じるくらいまで14型は飛翔し、そして、落下が始まった。
落下の途中、14型は何も無い空間を蹴り、飛ぶ。クルクルと回転しながら跳躍し、落下する。こ、こいつ二段ジャンプを――いや、それよりも、目が、目が回る。
クルクルとまわる視界の中、恐ろしい勢いで地上が迫る。
14型が、今度は、空中に魔力を使った風の塊を作り出し、その爆発力で飛ぶ。あー、これ、前にやっていたよなぁって、俺がぐわんぐわんするぅぅぅぅ。
そして、14型はスピンでもするように、くるりと優雅に一回転し、そのまま、ふわりと地面に着地する。あー、ポンちゃんの畑が潰れなくて良かったー、じゃなくて、だな!
『14型、今のは……?』
俺の天啓を受けた14型が、大切なモノで扱うかのようにゆっくりと俺を下ろし、こちらへとお辞儀する。
「増えた新能力をお披露目しました」
あ、そうですか。
謎のパーツで、そんなことが出来るようになったんだね、凄いね。はぁ、ホント、凄いな。でもさ、
『何故、自分を持ち上げたまま行った?』
「芋虫並みの記憶力のマスターでも、私の力を深く覚えておくことが出来るように、実際に体験して貰ったのです」
あ、そうですか。確かに、こんな経験したら忘れないな、うん、忘れないな! 死ぬかと思ったぞ! ま、まぁ、俺は《転移》スキルで慣れてるけどさ、それでも、自分のスキルではなく、何の情報も無く、いきなりやったらびっくりするっての!
あー、《転移》スキルを嫌がる人たちの気持ちが少し分かった気がする……。
にしても、新能力か。跳躍力が上がるとか、二段ジャンプが出来るとか、そんな感じなのか?
もしかして、謎のパーツは14型の機能拡張みたいな感じなのかなぁ。
―2―
『14型、食料の方は?』
俺の天啓に14型がお辞儀をする。
「はい、マスター。ポンに作らせ、1週間分用意しました」
お弁当、一週間分か。水はいくらでも作れるから、最悪、数日はそれだけで何とかなるし、これだけ用意すれば充分過ぎるくらいだろう。まぁ、何が起こるか分からないし、用意出来るだけ用意して損はないな。
『エミリオ、今回はお前の力にかかっている。頼むぞ』
「にゃ!」
羽猫が前足を上げて答える。ホント、頼むからな。
「こちらの準備は問題無いのです」
14型がスカートを掴んだ優雅なお辞儀をする。まぁ、今回の目的は八大迷宮『二重螺旋』のある島への到着までだからな。その後は、いくらでも《転移》スキルで戻って準備を整えることが出来るし、最悪、再度使用可能になったコンパクトを使って、このアイスパレスに戻ってきても良いわけだしな。
うん、大丈夫だろう。
では、出発だな!
――《転移》――
まずは《転移》スキルを使いキャラ港まで飛ぶ。
誰も居ない砂浜に着地だぜ。
さあて、ここからはエミリオの出番だな。
『頼む』
「にゃ!」
羽猫が光輝き、その姿を大きく変えていく。
「にゃう」
大きな羽を持った神獣へと姿を変えたエミリオが早く背中に乗れと言わんばかりにあごをしゃくる。はいはい、遠慮無く乗らせて貰いますよ。
その背に、俺が乗り、そして14型が乗る。14型が乗った時、エミリオは少し嫌そうな顔をしていた。あー、14型さん、機械だけあって、少し重いもんな。
「にゃあああー!」
エミリオが一声鳴き、その大きな翼をはためかせ、飛び立つ。
さあ、八大迷宮『二重螺旋』に向けて出発だぜ!