2-64 世界樹下層
-1-
な、何で[ウォーターカッター]が効かなかったんだ? 俺が、そう考えていた一瞬の間にウッドゴーレムは目の前に迫っていた。は、早い。
中央に赤い点が灯る。
俺は攻撃を防ごうと、とっさに鉄の槍を正面に構える。そこへ太い丸太の腕が突き刺さった。その勢いを殺すことが出来ず、俺はそのまま吹っ飛ばされる。
ぐはぁ、痛ぇ。こ、この馬鹿力め。握った鉄の槍を見ると攻撃を受けた部分からしっかりと折れていた。俺は仕方なく折れた鉄の槍を投げ捨てる。くそ、判断を間違った。
そして風槍レッドアイを片手に体勢を立て直す。しかし風槍レッドアイを構えた時には、すでに目の前にウッドゴーレムが迫っていた。く、早い。
右上に赤い線が走る。どうする、どうする?
――<払い突き>――
右上から迫ってくる丸太のような腕。それを打ち払うように振るわれる赤槍。しかし、今回もその威力が殺しきれない。くっそ、筋力補正が足りないのか!?
払い突きは発動せず、押し返され、そのまま槍ごと俺の体が後方へ滑る。直撃だけは避けることが出来た。風槍レッドアイの堅さに助けられた形だ。
ウォーターカッターでサクサクと切り刻んでやる予定ががが。どうする? 手持ちが少なすぎる。払い突きは潰されるし、この距離だとコンポジットボウは使えないし、浮いている相手にアクアポンドなんて効かないだろうし……結局、スパイラルチャージしかないんだよな。……奥の手が欲しい。
今度は左上から赤い線が走る。
――<集中>――
集中力が増し、ウッドゴーレムの攻撃をスローモーションに感じる。これなら、今の俺の敏捷補正なら、充分に回避出来る。攻撃を左に回避する……喰らえッ!
――<スパイラルチャージ>――
赤槍が唸りを上げて螺旋を描きウッドゴーレムに突き刺さる。赤槍がウッドゴーレムの体を削っていく。しかし、痛覚を感じないからか、俺の攻撃にお構いなくもう一つの腕を振り上げ叩き付けてくる。迫る右上からの赤い線。集中力の増していた俺はそれをしっかりと視界に捉えていた。すぐさま、体を削っていた赤槍を引き抜き、ヤツの攻撃を右に回避する。ウッドゴーレムの右側に回避したことで、ヤツの腕の付け根部分が見えた。腕の可動範囲を広げるためか付け根自体は小さな球体で出来ていた。これは!?
俺は切断のナイフを取り出し可動部分の小さな球体に突き刺す。喰らえ。俺は突き刺した切断のナイフに赤槍を叩き付ける。切断のナイフが球体に深く刺さる。もう一度だ。再度、力を込めて赤槍を叩き付ける。その衝撃を受け球体にヒビが入る。しかし、その瞬間、左から赤い線が走る。俺はとっさに後方へ大きく飛び退く。赤い線を追いかけるように太い丸太の腕が走り抜ける。攻撃は回避した!
このチャンスは逃さないッ!
終わりだ!
――<スパイラルチャージ>――
振るわれた腕によって切断ナイフの刺さった左腕の球体が隠れてしまっている。それをこじ開けるように下から上に向けて赤槍を突き入れ螺旋を描く。螺旋を描いた赤槍が球体を打ち砕く。その衝撃によって球体によって支えられていた左腕が吹き飛ぶ。
片腕が無くなったからかウッドゴーレムはバランスを崩し倒れる。その後も何度か起き上がろうとするが、バランス調整が上手くいかないのか起き上がろうとしては倒れるを繰り返していた。
俺はなんとか起き上がろうともがいているウッドゴーレムの前に立つ。喰らえ。赤槍を突き刺す。何度も何度も赤槍を突き刺し、体を削っていく。そして体の半分を削り、中の動力と思われる核が見えたところで、やっと動きが止まった。
終わった……。
―2―
さあ、これだけ強かったんだ、経験値とMSPはどれくらいかなぁ……へ? 数値を見て驚いた。な、なんと0だ。両方、0何ですけど……。増えてないんですけどッ! バグってんのかよぅ。これ、おかしいよね、おかしいよ。絶対おかしいよ。
……はぁ、マジないはー。
そういえば、この見えている核が素材だったな。回収しておくか。あー、後、切断のナイフも回収し……って、切断のナイフが折れてるぅぅぅッ! あれだけ強く叩き付けたら、折れるか。二重にショックだよ、こんちきしょー。
くっそ、食事にしよう。食べて気分を入れ替えよう。今日もお弁当は買っておいたグリーンヴァイパーの素焼きです。ふっふっふ。今日は更に魚醤もあるからなッ! 最高に素敵な時間だ。食べながらウォーターカッターのことを考えよう。
グリーンヴァイパーの素焼きに魚醤を一滴垂らす。魚醤は醤油よりも塩味が濃く、(魚の焦げたような?)独特の臭いが強めなので少量で充分なのです。もしゃもしゃ……最高だ。うん、最高だ。やっぱりこの味だよなぁ。和の国の人ですからッ! そういえば小麦粉があったんだから『うどん』が作れるんじゃね? 魚醤を使えば『つゆ』は作れそうだし、うおぉぉ、夢が広がる。後は鰹節とか作れないかなぁ。
と、考えが食の方に……。何でウォーターカッターが効かなかったのかを考えようと思っていたのにな。高出力で放出しているように見えて、実はそうでもなかった? とか。うーん、何か他の物にでも使ってみるか。
俺は折れた鉄の槍を拾ってくる。
――[ウォーターカッター]――
高出力で放出された水のレーザーが鉄の槍を切り刻む。うほ、綺麗に切れた。……うん、アレ? そういえば鉄の槍は切れたけどこの世界樹を形作っている木壁は傷一つ付いていないな。
――[ウォーターカッター]――
木壁目掛けて水のレーザーを当ててみる。水のレーザーが青い光を発し全て霧散する。へ? 何だコレ。良し、もう一回だ。
俺はもう一度ウォーターカッターを発動させようとして目眩が起きた。ま、まさか、MPが枯渇した!? 不味いぞ、こんな場所で気絶したら命に関わる。俺は急ぎ、周りに漂っている色つきの靄を吸収する。
はぁはぁはぁ、危なかった。次は消費MPを確認して発動させよう。ついでに折れた切断のナイフを置いて、これも切断できるか試してみよう。
――[ウォーターカッター]――
水のレーザーは切断のナイフすら綺麗に切断する。が、木壁に当たると先程と同じように青い光を発して霧散した。んんん? 切断のナイフの切り口を見るに威力は申し分無さそうだ。なのに、何で霧散するんだ!?
……もしかして属性か? 属性の相性で効果が無いのか? うーん、現状だとそうとしか思えないな。物理としてでは無く、あくまで水属性として処理されているって事なんだろうか。
うーん。
ちなみにウォーターカッターの消費MPは16だった。意外と多い……。