8-67 卒業試験開始する
―1―
試験が開始される。
まずは魔法の披露だよな?
ダンソンさんが一歩前に出る。ふむ、自己紹介した順番通りに魔法を披露していくんだな。となると俺らは離れた方がいいか。
俺らが離れると、教師陣がダンソンさんの周囲に集まり、何かの石を置く。
「結界石を置き、結界を張ります」
置かれた石から何か光りが放出され、俺たちを含めた周囲を覆っていく。ああ、観客の皆さんに被害が出ないように、このグラウンドの中心部を覆うのか。
「それでは、まずは僕からだね」
ダンソンさんが呪文を唱え始める。あー、そういえば、普通は呪文を唱えて魔法を発動させるんだったか。ぱぱっと発動させるのが普通だったから、忘れていたよ。
「僕は願う、光の壁を、作り、周囲に……」
何度か同じ文言を繰り返すことでダンソンさんの周囲に小さな光の壁が現れた。
「これが、僕の魔法になります」
おー、アイスウォールやファイアウォールの光属性にあたる魔法か。にしては小さくて弱々しいな。これはダンソンさんの素質によるものだろうか?
「さすがは卒業試験に参加するだけはある」
「学院に通っている段階でウォール系を使うとは」
観客席の反応を拾う。う、うーむ。やっぱり、魔法学院ってレベルが低いよな。まぁ、この学院を卒業してからが本番なんだろうし、この世界にある経験値を得るっていう成長する為の行動が現段階で取れるわけでも無いし、こんなモノなのかなぁ。そう考えると、成長前段階でウォールの魔法が使えるのは凄い……のか?
「次は私の番よねー」
太っちょなメディアも同じように呪文を唱え、周囲に土の壁を作る。今度はアースウォールかな。アースウォールの魔法にしたのはダンソンさんとあわせた、かな。太っちょのドヤ顔が鬱陶しい。
「次……」
テスが呪文を唱え黒いもやもやとした霧を発生させる。スリープクラウドの魔法か。こちらも観客勢は驚いているようだな。今回はレベルが高いとか、そんな言葉も聞こえる。
「私の番ですね……」
次はステラか。周囲からは紫炎の魔女の弟子か、とか、そんな言葉も聞こえるな。随分と注目されているんだな。俺にも注目して欲しいんだけどなぁ。
ステラが黒い鞭のようなモノを生み出し、なぎ払うように振るう。そして、すぐに、その闇の鞭を消し、お辞儀をして下がる。
「何というか、地味……ですな」
「しかし、無詠唱なのは、さすがは紫炎の魔女の弟子というか」
観客席の言葉を拾うと、そんな感じの意見が多かった。そうか、派手な魔法の方が好みなのか。
よし、次は俺の番だな。
「次は、自分の番だな」
では、行くぜ!
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
分身体が魔法を発動させ、グラウンドの中央に三角形を描くように氷の壁を作る。
「何だ、アレは? 見たこともない属性の壁だと!」
「氷に見えるが」
「無詠唱ですよ!」
ふむふむ、なかなか良い反応だな。
そして、これだ!
――[アイスストーム]――
透明な氷の壁の中に氷と風の嵐が吹き荒れる。どうだい? なかなか派手な魔法だろう?
俺は観客席側へと振り返り、俺の上に乗っている分身体にお辞儀をさせる。
「こ、これは!」
「勇者の使っている魔法とそっくりだ!」
「どういうことですか!」
あー、そういえば王者の盾もアイスストームが使えるんだったな。もしかしてさ、結構、ジョアンが使うアイスストームって有名なのかな?
「ノアルジーさん!」
シロネが慌てたように俺の後ろを指差す。うん?
俺が振り返ると氷の壁にヒビが入り、荒れ狂った氷嵐が外へ出ようとしていた。あ、防ぎきれなかったか。やっべ。
――[アイスコフィン]――
氷嵐を包み込むように氷の棺が現れ、その形を縮めていく。三方を覆っていた氷の壁は砕け散り、中の氷嵐は、氷の棺と共に消滅した。
危ない、危ない。
いくら結界が張ってあるとはいえ、中に居る俺らは無事では済まなかっただろうからな。油断した、油断した。
……。
で、皆さんの反応は、どうだろう?
場が静まりかえる。
誰もが驚き、声を出せないようだ。驚いては貰えたようだけどさ、どうかな?
……。
そして、誰が口火を切ったのか、次々に驚きの声が上がる。それはもう、爆発的な勢いだ。
「な、何だ、あの魔法は!」
「まるでAランク冒険者の魔法……いや、それ以上だ!」
「さすが、ノアルジーさまですわ!」
「まさか、こんな良いモノが見えるとは!」
まぁ、分身体での加減した魔法だけどさ、それでも、こう驚き称賛して貰えるのは嬉しいなぁ。
俺が声援に応えるよう、分身体に手を振らせていると、
「虫、調子に乗らない」
紫炎の魔女に釘を刺された。
―2―
「次は試練の迷宮になります」
アルテミシアの案内で『試練の迷宮』へと場所を変える。まさか、グラウンドの地下が『試練の迷宮』とは……。これ、大書庫とぶち当たるんじゃないか? いや、でも、あっちは転送されているからさ、実際の場所は何処か分からないもんな、大丈夫か。
「今回、この試練の迷宮が採用された理由の一つに、あなたたちが、全員、攻撃魔法が得意ということがあります」
あ、そうなの? あー、よく考えたら、学院の生徒って言ってもさ、攻撃魔法が使える人間ばかりじゃないもんな。回復魔法が得意、補助魔法が得意、それなのに攻撃魔法が必須の卒業試験にしてしまっては、卒業出来ない生徒が出てくるか。あー、だから、通常の時は騎士学校と合同なのか。それなら連携や補助適性も見えるもんなぁ。
「杖はこちらで用意した物を使って貰います。それと、迷宮には一人ずつ入って貰います」
ホント、迷宮都市の試練の迷宮とそっくりだな。
「あの……先生、これ、安全は?」
太っちょのメディアがおずおずとした感じで聞く。
「これから、外に出て、命を賭けることがあるかもしれないのに、そんなことを心配するなんて、と言いたいところですが」
ですが?
「この試練の迷宮で命を落とすことはありません。命を落とすような怪我を負ったとしても、何事も無かったかのように迷宮の外へと放り出されるだけです」
アルテミシアの言葉に、太っちょのメディアは安心したように大きく息を吐いていた。見ればダンソンさんも胸元をなで下ろしていた。まぁ、この二人は実戦ていう実戦は経験してないもんなぁ。そりゃ、不安か。
一人ずつ順番に迷宮へと入っていく。ダンソン、メディア、テス、ステラ――そして、俺の番がやってきた。
「ノアルジーさん、この杖を」
「不要だ」
杖とか使ったことないしね。
「そ、そうですか。それと、その、やはりライドしたまま入るんですね」
いや、俺が本体だから! 本体だからね!
何故か明るい、白い壁に囲まれた試練の迷宮の中を進んでいく。通路は、少し先までしか見通せない、ゆるやかな曲がり道になっている。これは、本当に、もしかすると、アレだよな。
ある程度進んだところで、俺の上から分身体を降ろす。
そして、そのまま分身体だけを進ませる。
すると、少し程度進んだところで分身体との接続が切れた。俺がそこまで歩いて行くと、案の定、分身体が眠るように倒れている。
やはり、同じ感じか。