8-66 試験の説明なのだ
―1―
「ステラ・ロードです……。紫炎の魔女の弟子をしています。得意な属性は闇です」
ステラの自己紹介は簡単なものだ。俺もこんな感じでいいのかなぁ。
ステラが紫炎の魔女の弟子と名乗ったからか、周囲の観客から驚きの声が上がる。ステラのことを知らないとか、何処かの地方領地の貴族連中かな?
さて、と、次は俺の番か。
もきゅもきゅ。
……。
あー、分身体で喋らないとダメだったか。
「ラ……いや、ノアルジだ。グレイシアという国の主をしている。得意な属性は、まず水、それに風、闇、金だ」
分身体を使って自己紹介をした瞬間、場が静かになる。あれれー? シロネと紫炎の魔女はあちゃーって顔でこちらを見ていし……むむむ。分身体だと全ての属性が使えるわけじゃないからな、仕方ないじゃないか。
「こ、今年は面白いことを言う生徒がいるようだな」
「ご存じないのですか? ノアルジーと言えば辺境伯の秘蔵っ子と聞いておりますぞ」
地方領主となると俺のコトを知らない人もいるのか。
「あのー、ノアルジーさん、グレイシアというのは、最近交流のある、あのグレイシアですか?」
アルテミシアが怖ず怖ずと言った感じで聞いてくる。
「あのが、分からないが、多分、そうだと思うよ」
「国のトップがお忍びで留学!? そんな、でも、そう考えれば、女王の態度も、いえ、でも……」
アルテミシアは頭を抱えてしゃがみ込み何やらぶつぶつと呟いている。そんな彼女に紫炎の魔女とシロネが近寄り肩を叩く。
「考えるだけ、無駄」
「気にしたら、むふー、負けだと思いますよ」
何、俺の、その扱い。それに、俺が国を作ったのは、学院に入ってからだからな。順番が逆だぜ。
「ここより更に西、帝国の南に、お……私の国はある。神国とはノアルジ商会を通して交流もあるので、知っている人も多いと思う。回復の温泉などの名物もあるので、機会があれば寄ってみて欲しい」
とりあえず自国アピールだ。これで観光収入がざっくざっくだね!
「え? ノアルジー商会って、あの?」
「そういえば、ノアルジー、ノアルジー、あ!」
「ノアルジーさまと同じ名前ですわ」
「私、ノアルジー商会のフォークを持ってますわ。ピックより遙かに使いやすいんですよ」
「私は、ノアルジー商会からお弁当を買っています。お弁当って素晴らしいですよね」
「それと、情報紙!」
周囲が騒がしくなる。えーっと、俺のあずかり知らないところでさ、うちの商会、色々と手広くやっているみたいだなぁ。
「静かに、静かに。このままでは試験が進みません」
アルテミシアが頭を抱えながらもヨロヨロとした足取りで立ち上がり、場を鎮めようと手を叩く。
周囲に静寂が戻った後、アルテミシアはこちらへと振り返る。
「ノアルジーさん、あなたが特殊な方だと言うことは分かりました。何らかの事情がある方だとは思っていましたが……いえ、それはいいでしょう。この場では、卒業するまでは、あなたは魔法学院の一生徒です。いいですね?」
はーい。って、俺、権力を振りかざしたことはないんだがなぁ。ま、まぁ、気にしたら負けか。
―2―
「はい、では卒業試験の説明を行います」
ああ、やっとか。
「今回の卒業枠は2名のみとなります」
へ? 枠が決まっているんだ。そんなの俺とステラで終わっちゃうじゃん。マジかよ。ま、まぁ、臨時の卒業試験らしいから、ダンソン、メディア、テスの三人は普通の時に卒業してください。
「まずは、この場での魔法の披露。得意な魔法を使ってアピールをしてください」
ふむふむ、これは月一の試験と一緒だな。
「その後、騎士学校の代表者たちから一人を選び、その者と一緒に、協力して学院裏の森から攻略の証を取ってくる――これが今までの卒業試験でした」
何だか、随分と簡単な試験だな。まぁ、学院の卒業試験って言っても、魔法使いのクラスを得る為の準備段階でしかないし、こんなものなのかもしれないな。
「しかし!」
ん?
「今回だけは今までの卒業試験とは変わります!」
へ?
「最初の魔法の披露は同じです。しかし!」
しかし?
「今回は騎士学校との共同作業はありません」
ふーん。
「えー! そんな、それが楽しみで……」
太っちょのメディアが大きな声をあげていた。
「仕方ないのです。臨時の卒業試験の為、騎士学校側の準備が出来ませんでした」
「ふーん、アルテミシア先生、それなら、どんな試験になるんだい?」
ダンソンさんが、何やら腕を絡ませたポーズで聞いていた。ダンソンさんは、喋る度に、いちいちお洒落なポーズを取るなぁ。
「今回は、セシリア女王の許可を得て、紫炎の魔女さまの協力の下、試練の迷宮を解放します」
紫炎の魔女の協力? 紫炎の魔女の方を見れば、彼女は楽しそうに底意地の悪い笑顔を浮かべていた。性格、悪そうだなぁ。って、ん? 試練の迷宮? 何処かで聞いたことが無いか?
まさか、迷宮都市のアレと同じモノか?
『何を企んでいる?』
俺は紫炎の魔女に限定して天啓を授ける。
『ふん、虫、お前のために、お前でも楽しめるレベルのものを用意した。入る者の実力にあわせて難易度が変わる迷宮だ』
珍しく紫炎の魔女が念話で返してきた。こ、こいつは……。
『虫の実力では、普通の試験では、あっさりと卒業してしまうだろうからな。どうだ、楽しいだろう?』
なんて性格の悪い!
まぁ、いい。やってやろうじゃんかよ!
2017年1月16日修正
闇、土だ → 闇、金だ