8-65 ゆっくりした歩み
―1―
――《浮遊》――
《浮遊》スキルを使いグラウンドへと降り立つ。続いて、俺の後を追うようにステラも何か黒い雲を浮かべながらゆっくりと降りてくる。何、その魔法。それ闇属性だよな? 俺も習得したいんですけど。
「ノアルジーさまですわ!」
「それにステラさんも!」
グラウンドにはすでに教師陣も生徒の皆さんも待っているようだな。ちょうどいいタイミングでやって来たって感じかな。にしても、学院の中ではなく、このグランドで卒業試験を行うんだな。そういえば、学院の入学試験もここだったよなぁ。何だか、懐かしいぜ。
「むふー、女王様が余裕を持って日程を伝えたはずなのに、何でこんなギリギリに来るんですよ」
シロネが、そんな独り言を呟きながら、顔に手を当て大きなため息を吐いていた。いやいや、大物ぽい登場の仕方で、ナイスなタイミングじゃないですか! 狙っていないのに、この狙っていたかのようなタイミング、最高でしょ?
学生の皆さんが俺らの周りに集まってくる。もしかして、学院の生徒、ほぼ全員が集まっているのか?
「ノアルジーさまも卒業試験を受けるんですの?」
「寂しくなります」
「あら、そのノアルジーさまがライドしているジャイアントクロウラー? 確か、ジャイアントクロウラーという名前の魔獣ですよね? ソフィア先生のテイムした魔獣だと聞いて……」
「私は、ノアルジーさまの魔獣と聞いていましたわ」
いやいや、俺は誰かのテイムした魔獣ではなくてだな……。いや、この場では、そのふりをしていた方がいいのか。
「あの……」
「ほら」
「だから、言ったでしょ」
集団の奥の方では何か気になる会話が行われていた。
「どうしたの?」
分身体を使って話しかけると集団がさっと別れ、その子たちの姿が現れる。何、この訓練したかのような動き。ひそひそと話してた子たちが急に注目されて怯えているじゃん。
「あの、あの」
「この子、ノアルジーさまが、そのライドしているジャイアントクロウラーに姿を変えたのを見たって言っていたんです」
「ノアルジーさまに嫉妬しているからって、そんなあり得ない嘘を吐いて!」
えーっと、アレだ。さっきから出てくるライドって単語が気になるが、それよりも、だ。
見られていた、見られていたのかよー!
「ほら、あの魔獣とノアルジーさまが一緒にいるんだから!」
「う、うん。ノアルジーさま、ごめんなさい」
あ、うん。そ、その子は悪くないんじゃないかなぁ。
見れば、シロネと紫炎の魔女が、あちゃあ、どうすんだって感じの顔でこちらを見ていた。この二人は事情を知っているからな。いやいや、でもさ、俺もさ、見つからないように気をつけていたんだよ。何処で見られたんだろうか。
ま、まぁ、卒業してしまえば、もう関係無いよね!
―2―
教師の一人、アルテミシアがその場をしきり、集まっていた集団が元の場所へ、観客席? へと戻っていく。
「はい、では、試験を受ける生徒は並んでください。これから卒業試験を始めます」
俺は分身体を乗せたままステラたちと共に整列する。
「ノアルジーさん、その、ライドしたまま試験を受けるのですか?」
「問題がありますか?」
分身体で確認をとると、アルテミシアは顔を引きつらせながらも、「問題ありません」と答えた。問題無いんだ……。いや、ダメって言われたら隠れて分身体を操作しようかなぁって思っていたんだけどな。
「では、今回の試験に参加するあなたたちの自己紹介をお願いします。ここには卒業したあなたたちを雇うかもしれない宮廷の方々や、各領地の方もいらっしゃいますからね」
へー、そうなんだ。卒業試験というよりも、ドラフト会議みたいなものなのか? 何だか品定めされているみたいで、微妙だなぁ。俺は別にさ、どこかに就職したいわけでも無いしな。
「ダンソン・グリーンです。光の属性を得意としています」
男前なダンソンさんが髪の毛をふぁさっと掻き分けていた。まずはダンソンさんから自己紹介、か。にしても、この子も卒業試験に参加するんだな。
後は、ダンソンといつも一緒の太っちょなメディアに、お、いつも書庫で眠そうにしているテスもいるな。後は俺に、ステラか。あの学級委員長ぽい、えーっと、確か、フェンだったかな? って、火の個室持ちの子は参加しないんだな。試験では一番優秀って話だったのにな。それにさ、俺と同時期に入った、もうもう言っているエミリアも卒業しないんだな。まぁ、今、卒業だとさ、入ってすぐ卒業って感じになっちゃうから、何の為に入ったか分からなくなるもんな。
……。
ホント、俺もステラも、周りから見たら、何の為に入学したんだって感じだろうな。俺は、まぁ、セシリアのためって目的があったんだけどさ。ステラは単純に紫炎の魔女の付き添いだろうし、途中で魔族に攫われて、その後もジョアンと一緒に旅して――学院に居ない時の方が長かった感じだしなぁ。ステラ、友達とか出来なかっただろうな……。
そういえば、エミリアの姿が見えないな。てっきり、見学に来て、もうもう言っているかと思ったのにさ。何だか、少し寂しいぜ。
「……私は女王様から聞いた主の居る海へ行く為に卒業したいです」
俺がそんなことを思っているうちにテスの自己紹介が終わったようだ。後は俺とステラか。
俺、自己紹介とか考えていないぞ。だってさ、そんなのがあるなんて思ってもなかったしな。
うーむ。