8-64 最古の魔族に会う
―1―
ステラの案内でパンデモニウムの中を地下へ、地下へと降りていく。そういえば魔族の住人は、この城の地下に住んでいるんだったよな。
地下には無数の部屋があり、トレイを持った機械人形が、その部屋部屋を往復していた。トレイの上に乗っているのは何だろう? よく分からないな。
「こちらです……」
ステラは更に奥へと進む。行き止まりにある、まるで壁にしか見えなかった隠し通路を抜け、更に地下へと降りていく。かなり深く降りていくんだな。
そして、特別に作られた牢のような部屋の中に、それは居た。
部屋一杯に広がったぶよぶよとした肉塊。その肉塊に無数の口が生える。
「痛い、痛い、痛い」
口が叫ぶ。
「何かを叫び、苦しがっているのですが……、その言葉の意味が分からないのです。暴走の兆候かと思うのですが、他の方々と違い大叔母さまの言葉が分からないため、判断がつきません」
うん?
「痛い、痛い、痛いーーーー、痛い」
肉塊が叫び続ける。
「痛がっているようだ」
「ノアルジーさんは大叔母さまの喋っている言葉が分かるのですか?」
分かるのです。これも異能言語理解スキルの効果なんだろうか。そういえば、ステラが、このぶよぶよさんを大叔母って呼んでいるけどさ、これも、このスキルが勝手に変換しているだけかもしれないんだよなぁ。
「痛い、痛いー、痛い」
肉塊に生まれた口が叫び続ける。
【鑑定に失敗しました】
名前は……分からないな。魔族だもんな、仕方ないね。痛がっているけど、何だろう? とりあえず回復魔法を使ってみるか。
――[ヒールレイン]――
ぶよぶよの肉塊に癒やしの雨が降り注ぐ。
「ああ、痛い、痛い、痛い」
癒やしの雨を受けたぶよぶよさんが痛がる。そして、肉塊が裂け、中から血飛沫と共に触手が現れる。うねうねと気持ち悪い。
――[ヒールレイン]――
「ああ、ああ、あっ、あっ」
さらに肉塊が裂け、触手が蠢く。これが痛がっている原因か? 回復魔法で触手が蠢く理由が分からないな。
「痛い、痛い、痛い」
これは、埒があかないな。
《変身》スキルを使うか。
「ステラ、少しの間、部屋の外に出て貰ってもいいかな?」
「分かりました、ノアルジーさんを信じます……」
ステラが部屋の外に出る。
――《変身》――
それを確認して《変身》スキルを使いノアルジ形態に変身する。
さあて、まずは鑑定だな。
【名前:北尾恵美】
【種族:人】
……。
え?
いや、気のせいか。
にしても、またも和名かよ。
過去にこの世界に集団で転移? した人がいたんだろうか。八大迷宮のボスといい、和名が多いもんな。にしても、そんな人たちを改造? した女神ってさ、ホント、何というか、話を聞けば聞くほど、最悪だよなぁ。
まずは赤い瞳で調べるか。
何だ? 何だ、この生物。
体の中に因子? 他の生物が取り込まれている感じだ。それらが混ざり合って一つになっているというか、ホント、何だ、これ。
体内に魔石は見えないけどさ、この因子が邪魔しているのなら《魔素操作》で何とかなるか?
もしかして、回復魔法を使うと触手が生えてくるのって、この体内の因子が回復? 成長してしまうからか? それが体内の因子のバランスを壊して、体を壊して触手として生まれると、そんな感じかもしれないなぁ。
――《魔素操作》――
ぶよぶよの肉塊の魔素を操作し、流れを変え、因子と因子が影響しないように造り替えていく。
ぶよぶよの肉塊に生まれていた口が体内に納まるように消え、動きが緩慢に、静かになっていく。
これで、大丈夫かな?
「ステラ、もう大丈夫だと思うぞ」
外のステラに呼びかける。
中に入ってきたステラが、その様子を見て驚く。
「ノアルジーさんが、二人……!?」
そっちかよ!
「多分、もう大丈夫だろう」
「ありがとうございます……。やはり、暴走だったんですね……。暴走した魔族は、自分自身に食われ、死ぬしかなかったんです……。でも、ノアルジーさんのおかげで助けることが出来ました」
魔族の死因って、そんな感じなの? もしかして、不老とか、そんな感じなのか?
「多くの魔族が、暴走によって亡くなっています。大叔母さまには、暴走が起きなくて安心していたのですが……本当にありがとうございます」
……にしても、まさか、な。
いや、それよりも、だ。
「ステラ、時間も余りない。そろそろ、学院に行こう」
「はい……。ノアルジーさん、ありがとうございました」
たく、とんだ寄り道だったぜ。
―2―
ネウシス号に戻ると、ファット船長が寝ていた。えーっと、あのー、アレだ。
お腹一杯で眠くなったのかなぁ。
「ファット船長、出発だ」
ファット船長がゆっくりと目を覚ます。
「ふぁああ、何だ、ノアルジーが二人に見えるぜ。夢か」
いやいや、違うから。
「ファット船長……、よろしくお願いします」
ステラがファット船長にお辞儀をする。
「お、おう。任せておきな」
ステラの姿を見て、ファット船長が跳ね起きる。ファット船長、やっと目が覚めたか。
「ファット船長、時間も無い、神国に向かってくれ」
「何だよ、何だよ、いつの間にかノアルジーに入れ替わっているしよー」
ぶつくさと何かを言いながらもファット船長はネウシス号を動かす。
で、俺の弁当は?
ポンちゃんが作ってくれた弁当は?
まさか、全部、食べたって言わないよな?
「おう、日持ちしないものは全部食べたからよー。後は適当に積んでいる食料から調理しな」
この豹頭め! 俺の、俺の楽しみを奪いやがって!
そんなこんなで、その後も順調に船旅は続き、魔族領を抜け神国へと入る。
神国に入ったところでは、セシリア女王からの伝言があったのか、飛竜に乗った騎士が待っていた。
騎士の護衛を受け、神国内を進む。途中で、その護衛騎士とも別れ、更に飛び続け、やがて空に浮かぶ魔法学院が見えてきた。
「ついたぜ」
『ああ、助かる』
そのまま学院横に作られた試験会場まで飛ぶ。
「どうする? 降ろすか?」
いやいや、ここでネウシス号を降ろしたら、下で作業をしている人たちが大変なことになるぜ。
「ここまででいい」
俺は分身体を背中に乗せ、ネウシス号の甲板に出る。
「ステラ、降りる手段はあるか?」
俺が分身体を使って確認すると、ステラはゆっくりと頷いた。
じゃ、行きますか!
俺たちは、そのまま地上へと飛び降りる。
さあ、卒業試験開始だぜ。