8-63 学院でのやり残し
―1―
――[アクアポンド]――
俺はいつものように水を作る。これは王の役目だからね、仕方ないね。と言うわけで、俺が、いつものように日課をこなしていると通信機に連絡が入った。えーっと、誰だろう?
「ラン、わらわなのじゃ」
あー、セシリア女王か。
『何の用だ?』
俺が天啓を飛ばす。しかし向こうからの反応がない。
……。
あー、通信機はちゃんと喋らないと駄目なんだった!
もきゅもきゅ。
「むむ、ランが何を言っているかわからないのじゃ」
とりあえず返事をしてみたけどさ、鳴き声で分かるわけが無いか。仕方ない、分身体を作るか。
――《分身》――
《分身》スキルを使い、分身体を作り出す。あー、よく考えたら、通常時のスキルや魔法は分身体でも使えるんだからさ、分身体を使って、朝から晩までずーっと水を作り続けていたらいいんじゃないか? 分身体のオート行動にして、延々と水作成。なかなか、良い考えな気がする。いや、でもMPの関係で難しいか。むむむ。
「ラン? おるのじゃな? 聞いて欲しいのじゃ」
あ、ごめん。ちょっと考え事を……。
「セシリア女王、何の用だろうか?」
「おお、ランなのじゃ」
そうなのじゃ。
「実はなのじゃ。紫炎の魔女様の強い希望で、急遽、魔法学院の卒業試験が行われることになったのじゃ」
へ? あー、そうなんだ。って、何というか、紫炎の魔女さんが我が儘を言ったわけですな。
「ステラ姫を誘って、ノアルジーにも参加して欲しいのじゃ」
なるほどー。って、ステラ、今、『永久凍土』の魔族の城、パンデモニウムにいるんだよ。
「セシリア女王、試験は何時行われる予定だ?」
「一週間後の予定なのじゃ!」
8日後かよ! ファット船長のネウシス号で動くとしても、まずは『永久凍土』の魔族の城に行って、それから魔族領側から神国入りして――結構、キツい日程だな。まぁ、魔族領側から神国入りするから、飛竜がうじゃうじゃいて面倒な『刹那の断崖』を通らなくていいってメリットはあるけどさ。
「分かった。場所は学院で良かっただろうか?」
「うむ、なのじゃ」
『永久凍土』内だと《転移》スキルが発動しないからなぁ。一瞬で移動できないのは不便だよな。よし、まずはファット船長を捕まえるか。
ファット船長の予定は全てキャンセルだな!
にしても、卒業試験か。
これは《変身》したノアルジ形態で、紫炎の魔女をも唸らせた強力な魔法をガンガン使って、学院のみんなを驚かせないと、ダメだな!
いやぁ、超目立っちゃうだろうし、大変なことになりそうだなぁ。
―2―
「たくよぉ! うちの王様は俺様の扱いが酷すぎると思うんだよなー」
頼りにしてます、ファット船長。
「いつも、すまない」
分身体で返事をするとファット船長は豹のような頭を掻き毟った。
「たくよぉ! 俺は、そっちのランに聞かせるように愚痴っているのに、そちらから話しかけられると調子狂うぜ」
分身体で話した方がMPを消費しないし、何より、楽だもんな、仕方ないぜ!
「待遇改善を要求するぜ。俺様だけが扱き使われているからよー」
ま、ファット船長が空を飛ぶ船なんていう便利な物を持っているのが悪いんだぜ。今のところ、空を飛んで交易が出来るのはファット船長だけだもんなぁ。仕方ない、仕方ない。
「嫁の方から、いい給料を貰っているんじゃないのか?」
「何だよ、ランは知らないのか。あいつは仕事に私情は持ち込まねえ。働いた分しかお金はくれねえよ」
「そうか、なら、お金の為だ、働いてくれ」
「ホント、俺の国の王様は俺様の扱いが酷いぜ」
はいはい、ファット船長、頼りにしているから、お願いな。
ステラが弱めてくれている『世界の壁』上空にある結界の穴を通り、『永久凍土』に入る。そのまま猛吹雪の中をパンデモニウムまで飛ぶ。
「たく、ここは相変わらず酷い土地だぜ。こうも前が見えないとよ、いつ墜落してもおかしく無いな!」
そう言いながらもファット船長は吹雪の中、ネウシス号を安定させたまま飛び続ける。ホント、慣れたものだな。さすがはファット船長だぜ!
ファット船長が時々休憩しながら、ネウシス号を操作し、吹雪の中を飛び続ける。そして、吹雪の中、結界によって守られた魔族の本拠地、パンデモニウムが見えてきた。
「向こうも俺様たちの到着を分かっていたようだな。そのままつけるぜ」
ファット船長がネウシス号を動かし、天守に備え付けられた舷梯と接続する。これ、前回、俺らが突っ込んだ場所だよな。そのまま発着場に造り替えているんだから、ちゃっかりしているというか、何というか。
「俺様はここでポンの作った弁当でも食べているからよ、行ってきな」
はいはい。
俺が分身体と共にネウシス号から降りると、そこにはステラが待っていた。何だ、待ってくれているじゃん。俺もポンちゃんの弁当にありつけそうだな。
「ステラ、聞いていると思うが、学院の卒業試験がある。魔族のこと、忙しいと思うが、紫炎の魔女も待っている、よろしく頼む」
分身体の言葉にステラが頷く。
「はい、それはもちろんです……。ただ、その前に少しだけお時間を貰えないでしょうか?」
うん?
「ノアルジーさんは優れた回復魔法が使えると、シロネ先生とジョアンから聞いています」
回復魔法は……どうだろうなぁ。
「最古の魔族と言われる、大叔母さまが体調を崩されているのです……。見ていただけないでしょうか?」
うーむ。
「分かった。自分の力で助けになるかどうか、分からないが見るだけ見てみよう」
これ、《変身》して、本当のノアルジ形態で赤い瞳を使って確認しないと駄目なパターンだろうか。そうなると、日数的に試験は分身体で受けないと駄目になってしまうなぁ。
うーん。
まぁ、しょうがない。人命優先だな。
2018年2月27日修正
永遠と水作成。 → 延々と水作成。