8-61 魔王の戦い終えて
―1―
魔王だった光が弱まっていく。
「まさか、私が敗れるとは……。私の思いよりもお前たちの思いの方が強かったという訳か……」
光輝いていたジョアンから角が消え、それに合わせるように纏っていた光も消える。全力を出し切り、疲れ切ったジョアンが倒れそうになる。しかし、すぐに、それをステラが支えていた。
「僕たちも人だ!」
ステラに支えられたままジョアンが叫ぶ。
「そうだ……な。それに気づけなかった私の思いが……負けるのは必然か」
魔族の王が、ジョアンたちを人として認めたのか。それだけジョアンの思いが強かったってことかな。
「闇の……姫、残された我が同胞、頼みたい」
「もちろんです」
ステラが力強く頷く。
「ああ……、全て、私が……、私の罪だ。同胞に罪はない……頼む」
「もちろんなのじゃ」
セシリア女王が頷く。
「ステラのお父さんがそうだったように、手を取り合う道があったはずだ!」
ジョアンの言葉に光が弱まる。
「そうだ……な。その……通り……だ」
光が薄れていく。
「名前を……聞きたい……」
「ジョアンだ。ジョアン・ジョスティン・ドーラだ」
ジョアンの言葉を聞いた光が満足そうに明滅し、そして消えた。
これで終わりか。
何だか、俺、最後まで外野だったなぁ。ま、まぁ、ジョアンの手助けが出来たってことで良しとするか。
「疲れたのでス」
シトリが杖を持ったままぺたんと座り込む。
「むふー、私、完全に巻き込まれただけでしたよ!?」
シロネも座り込む。
「おいおい、嬢ちゃん、それを言ったら俺らの方が完全に巻き込まれだぜ」
「そうだぜ、俺たちゃ、完全にあの芋虫に騙された。これで温泉とやらがつまんないものだったら、許さないぜー。しかも、肝心のヤツの姿が見えないじゃないかよ」
このおっさん二人は……。まぁ、助かったけどさ。ホント、嬉しかったし、有り難かったけどさ。
「さあ、後は帰るだけですね」
「だな」
「僕、もうお腹空いたよー」
エクシディオン少年も活躍したからな。後でポンちゃんが美味い料理を作ってくれるはずだぜ。
「残った魔族はどうするんだぜ」
「私が……導きます」
キョウのおっちゃんの疑問にステラが答えていた。ステラ、魔族との混血だもんなぁ。
「あんたみたいな、お嬢ちゃんが、なんだぜ」
「ジジジ、キョウ、この者なら大丈夫だろう。強い瞳だ」
確かに、ステラならやりきるだろうな。
で、だ。
俺から提案だぜ。
「この『永久凍土』に来てみて思ったんだが、ここは人の住むような――住めるような場所じゃない」
《魔素操作》スキルを使って環境を変えるにしても限界があるしなぁ。それに魔族って、望んでこの地に住んでいる訳じゃないんだろう? だから、さ。
「もし、可能なら、魔族の人たちを結界の外にだしたいんだが、ダメだろうか?」
俺の言葉を聞いた周囲の反応はさまざまだ。
「……いいと思います!」
ステラは嬉しそうだ。
「わらわも、先程、頼まれたところじゃから、賛成なのじゃ」
セシリア女王もとびっきりの笑顔だ。
「マスター、私は反対なのです」
おや? 14型が反対するなんて珍しいな。
「14型、その理由は?」
14型は手を広げ、手のひらを見つめ、握っては開くを繰り返す。
「言葉に出来ないのです」
勘とか、そういう感じなのか? ますます機械ぽくなくなってきたな。
「14型の不安も分かる」
「不安……? そう不安なのです」
不安がる機械か。
「それでも、俺は魔族を救いたいんだ。フミコンが、そうだったように、俺は魔族とも仲良く出来ると思っている。14型、ダメだろうか?」
14型が首を振る。そして、そのまま綺麗なお辞儀をする。
「マスターの御心のままに」
「ラン、どうするつもりなのじゃ?」
いや、だから、セシリアさん、セシリアさんもね、この姿の時はノアルジで頼みます。
「魔族を俺の国で受け入れる。まぁ、すぐにとはいかないだろうが、そういう形で話を進めたい。俺の国にはすでに魔族のフミコンも暮らしているしな」
「さすが、ランなのじゃ」
「ラン? ジジジ、私もノアルジーの意見に賛成だ」
ソード・アハトさんはちゃんとノアルジって呼んでくれるんだな!
「ま、旦那の決めたことなら、俺はいいと思うんだぜ」
「ランなら、大丈夫だ!」
ジョアンまでラン呼びかよ……。何だろう、ノアルジ=ランが当たり前になっているのか? それとも、俺、何かバレるような行動、とっていたかなぁ。
「話、終わったんだろ? じゃ、帰ろうぜ」
モヒカン頭がうきうきとした様子で話しかけてくる。お前、早く温泉に入りたいだけだろ。
「こういうダンジョンは、親玉を倒すと崩れるとか多いからな。急いで出たいとこだぜ」
おい、グルコン、不吉なことを言うなよ。崩れないよな?
「じゃ、船に、フミコンとファットが待っている船に戻ろう」
その言葉を聞いたキョウのおっちゃんが青い顔になっていた。
「げぇ、アレか、アレなんだぜ」
あー、キョウのおっちゃん、乗り物、苦手だもんな。
「アレってなあに?」
「おい、エクシディオン、人には、な。聞いちゃ、駄目なことがあるんだ」
「そうですよ」
皆が笑いながら歩いて行く。
「皆さん……待ってください!」
そんな、決戦場から出ようとしていた俺たちをステラが呼び止める。
「私は……残ります。残って、地下で何も知らずにいる魔族の方々に、今回のことを説明します!」
あ、ああー、そうか。そうだよな。それ、重要だよな。
となれば……。
「ジョアン、ジョアンもステラと一緒に残ってやれよ。俺たちは、また後で迎えにくるから」
俺の言葉に、ジョアンは何だろうって感じで首を傾げるが、すぐに頷いた。
さて、と。
魔族の受け入れ準備か。
これからも忙しくなりそうだぜ。