しっぷうけんファングのものがたり
ファングが城門をくぐれば、そこはもう懐かしの故郷だ。
「やっぱり故郷が一番だな」
そして、ファングは自分が住んでいた時よりも発展している故郷に感嘆の声を漏らす。
「ああ、新しい店だ」
ファングは町並みを見ながら、歩いて行く。
そんな中、顔馴染みを見つける。
「ちぃーにぃ、こそこそと、どうしたんだい?」
ファングが気軽に声をかけると、声をかけられた相手は、驚き振り返り、そして、その姿を確認して喜びの声を上げる。
「おお、戻ってきていたのか、確か、今はファングだったよな」
「ああ、疾風剣のファングって名乗っているよ」
「ファング、実家に帰らなくていいのか?」
ファングは首を横に振る。
「どうせ、帰っても誰も居ないだろうからさ、後だよ後。それよりも、ちぃーにぃ、何をやっているんだ?」
「いや、これは、な……」
ちぃーにぃと呼ばれた男が手に持っていた何かを後ろに隠す。
「それは?」
が、ファングはそれをすぐに見つける。さっと後ろに回り込み、それを掴み取る。
「チケット? 何々、ホーシア女王の種族を越えた愛? 劇のチケットじゃん」
「おい、馬鹿、ファング、それは」
「はぁ、ちぃーにぃ、もしかして」
「そうだよ! ちょっとユエを誘おうと思って手に入れてきたんだよ!」
その言葉にファングは大きなため息を吐いていた。
「ちぃーにぃ、情けねぇ」
「ファング、俺の方はいいんだよ。後で工房の方に来いよ、武器の手入れ、必要だろう」
慌てた男は話題を変える。
「助かる。親方は元気?」
「ああ、相変わらず理不尽なコトばかり言っている。けど、腕は確かだからなぁ」
「そっか。後で顔を出すよ」
ファングはちぃーにぃと別れ、更に町の中を歩いて行く。そして、通りに面した魔法具店に入る。
「馬鹿猫」
入ってすぐ、奥から声がかかる。
「ソフィアちゃん師匠、その呼び方は勘弁してください」
「ふん、馬鹿猫」
ファングはソフィアの言葉に苦笑しながらも魔法具店の奥へと進む。
「短剣、助かりました。出来れば、また魔法を補充して貰えると助かります」
ファングがカウンターの上に短剣を置く。ソフィアが短剣を取り、その状態を確認してニヤリと笑う。
「ふん、また明日来るといい」
「師匠、ありがとう!」
ファングは魔法具店も後にする。
次に向かったのは宿屋だ。宿屋に入ってすぐの壁には豪華な装飾の施された数多の戦を勝ち抜いたであろう盾が飾られている。ファングが憧れと共に、その盾を見ていると、奥からふくよかな女将が現れた。
「あら、――ちゃん。戻ったの?」
「いやいや、ステラおばさん、その呼び方は止めてー。今は、ファング、疾風剣のファングって名乗ってるから!」
「はいはい、ファングね。家には帰らないの? 今日はこちらで泊まっていくの?」
女将の言葉にファングは首を横に振る。
「お腹が空いたからさ、ポンじいのタレの味が恋しくて、来ちゃったんだよ。家に帰るのはその後」
「ふふ、ファングは、あの味、大好きだったものね……」
「ああ、後は温泉! 外には温泉もポンじいのタレもないんだから、ホント、恋しくてたまらなかったよ」
「それは急いで作らないとね。ああ、そうそう、ファングのお姉さん……」
その言葉を聞いた瞬間にファングは顔をしかめる。
「姉貴……ですか」
「そう、お姉さん。この国の冒険者ギルドのギルドマスターになったわよ」
「うへぇ」
「スカイさん、凄く悔しがっていたから。お姉さん、お母さんに似てやり手よね」
「そっすねー」
「ファング、後で冒険者ギルドにも顔を出してあげてね」
ファングはその言葉にうんざりとしながらも、渋々、頷いていた。
「ポンじいのタレに、温泉! やはり、この国は平和でいいなぁ」
ファングは平和を噛み締めていた。