8-60 魔王との戦い・後
―1―
――《インフィニティスラスト》――
真紅妃が無限の螺旋を描き、再生したレッドカノンを貫く。レッドカノンがぐぎゃあぁぁと情けない叫び声を上げて消滅する。
「馬鹿め、無限の再生能力を得た俺様に……」
しかし、すぐさまレッドカノンの体が再生される。
――《インフィニティスラスト》――
分身体に持たせたスターダストが無限の螺旋を描き、再生したレッドカノンを貫く。レッドカノンがぎにゃあぁぁと情けない叫び声を上げて消滅する。
「だ、だから、効かねぇって言ってんだろうが!」
しかし、すぐさまレッドカノンが復活する。埒があかないな。
「主殿、こやつは私が相手します」
ミカンが猫之上蜜柑式を構え、再生したレッドカノンの前に立つ。
「お前が、猫モドキが、俺様の相手だと! いいだろう、お前に苦しめられた恨み、晴らしてくれる」
「戯れ言を。主殿は魔族の王を!」
ミカンをフォローするようにエミリオも飛んでくる。ここは、ミカンとエミリオに任せれば大丈夫だろう。
――光あれ――
俺の視界上部が赤く染まる。魔王の魔法かッ!
――[エルウォーターミラー]――
生まれた水の鏡が降り注ぐ光の雨を反射していく。反射した光の雨は収束し、魔王に降り注ぐ。魔王が自身の放った魔法によって砕け、粉々になり、そして再生する。あんまり削れていないなぁ。再生するのはSPが残っているからか?
「むふー、わ、た、し、一人で! 私一人で魔族の相手とか無理ですよー」
シロネがブルーアイオーンの放つ水の魔法を器用に回避していた。再生したブルーアイオーンは時を止める魔法が使えないようだ。シロネ一人でも何とかなっているじゃないか。
「あたいと力比べかい?」
ブラックプリズムと14型が殴り合いの喧嘩をしている。あそこは別次元って感じだなぁ。
そこへ参戦する勇気ある者がいた。
「ジジジ、私も混ぜて欲しいところだ」
14型とブラックプリズムの竜巻のような殴り合いにソード・アハトさんが乱入する。
「マスター以外は邪魔です」
「そう言わないで欲しいんだぜ」
更にキョウのおっちゃんも参戦か。
ブラックプリズムと相対するのは、14型とソード・アハトさん、キョウのおっちゃんか。
「クヒヒヒ、僕の攻撃は防げないぞ。貫通して壊れろ」
「だから、こうやって撃ち落としているんじゃん」
ホワイトディザスターが飛ばす白い風の刃をエクシディオン少年が手に持った斧で器用に撃ち落としていた。何というか、ウーラさんやイーラさんには悪いけどさ、エクシディオン少年の方が一歩上を行っているよな。いやまぁ、山賊顔の二人と違ってという意味ではなく、技量で、だけどさ。バーン君たちAランク冒険者と混ざってもおかしく無いというか……。
「横は任せろ」
「後ろは僕がやりますね」
「えー、正面の僕が一番きついじゃん」
ホワイトディザスターは山賊の三人に任せれば大丈夫そうだな。
となると、シロネのところがヤバそうか。俺と分身体で魔王の相手をしようかと思ったけどさ、分身体を回すか? むむむ。
「おいおい、もう始まってるだろうが!」
「おっさんのせえで遅れたんじゃねえかよ!」
「トンガリ、お前もおっさんだろうが!」
おっさんズ! 今、到着かよ! 何で団体行動してないんだよ!
「ん? 何だ? 例のノアルジーがいるぞ」
スキンヘッドのグルコンがのんきに頭を掻いている。
「グルコン、シロネの――あの森人族の少女? のフォローにまわってくれ」
「むふー、ランさん、少女の後に疑問がついた気がするのですよー。酷いです」
シロネ、随分と余裕そうだなぁ。
「わーったぜ、嬢ちゃん、任せな」
グルコンがシロネの元へと駆ける。
「シトリ、師匠の俺が来たから、もう大丈夫だぜー」
世紀末なモヒカンがシトリの前で師匠面をしていた。
「助かりまス!」
多分、今ではシトリの方が実力は上だと思うぞ。まぁ、何にせよ、回復が1枚増えたのは大きいな。
これで俺と分身体で魔王の相手が出来るな!
―2―
戦いは続く。
何とか、攻撃を通しても、すぐに再生するし、相手のSPはまだまだ残っているし、こう、一気に打破出来るような、そう何か相手の力を収束させて押し潰すような……。
ん?
押し潰す?
そうだよ、アイスコフィンの魔法があるじゃん!
もしかしたら、アレなら、何とかなるんじゃないか?
「虫……」
紫炎の魔女がうんざりとしたような顔でこちらへと歩いてくる。
「もうMPは回復したのか?」
俺の言葉に紫炎の魔女が口の端を上げ、笑う。大丈夫そうか。
……。
俺は銀貨を一枚取り出し、紫炎の魔女に投げ渡す。
「虫?」
「紫炎の魔女ソフィア、いつものだ。それでヤツを足止めするような強力な魔法を頼む」
紫炎の魔女が銀貨を見て、そして、こちらを見る。その顔には、小さな子どもが見たら泣き出しそうな凶悪な笑顔が張り付いていた。
紫炎の魔女が何も無い空間から燃え盛る火炎の杖を取り出す。そして、杖の炎で地面に円を描き、そのまま杖を地面に叩き付ける。魅入ってしまいそうな動作だ。って、ちゃんと魔王を見ていないとヤツの魔法を喰らってしまいそうだ。
紫炎の魔女の杖が炎の蛇と化し、魔王へと襲いかかる。魔王が炎の蛇を振り払おうとするが、炎の蛇をすり抜けるだけだった。炎の蛇が魔王に絡みつき、その鎧で出来た体を締め上げる。
これなら、身動きできまい!
――[エルアイスウォール・ダブル]――
――[エルアイスウォール・ダブル]――
――[エルアイスウォール・ダブル]――
魔王の三方を強力な氷の壁で囲む。これはヤツを逃がさないためじゃない、荒れ狂うであろう力を封じ込めるためだ。
――[エルアイスストーム・ダブル]――
氷の壁の中に氷嵐が巻き起こる。
――[アイスストーム]――
更に分身体でも氷の嵐を巻き起こす。
そして、その中に、もう一つ氷の嵐が発生する。見れば、ジョアンが王者の盾を掲げていた。ジョアンがこちらに気付き、微笑む。
氷の壁の中では3つの氷の嵐が混ざり合い、破壊をまき散らす。魔王の鎧が砕け、その姿を消し飛ばしていく。
そしてッ!
――[エルアイスコフィン・ダブル]――
二重に重ねられた氷の棺が、そのエネルギーを封じ込めていく。それに合わせて、戦っていた4魔将の姿も明滅する。
「馬鹿な、主が!」
「主様が!」
「ああ!」
「なんてことだい!」
そして消える。
「ラン!」
「ノアルジー!」
「虫……」
いや、だから、ここでも虫呼ばわりかよ。
俺は叫ぶ。
「これで終わりだ!」
氷の棺が小さく、小さく、その力を封じ込め、そして……、
止まった。
砕け散った魔王の鎧から、光が溢れ、何かが氷の棺を無理矢理こじ開けていく。な、なんだと!
光が――光が生まれる。
―3―
氷の棺が消滅し、中から光だけが降臨する。
「私は力を得て神となった。もはや、何も効かぬ」
光が喋る。
まさか、精神生命体になったとでも言うのか?
「ここに至り、至れり。もはや敵はあの悪魔のみ」
俺らは眼中にないってか。
「しかし、目障りなお前たちは消していく。まずは一人目」
光から波が伸び、分身体を貫く。分身体は、その一撃で絶命していた。ああ! 貴重な俺の分身体が!
「次だ」
俺の視界が真っ赤に染まる。やべ、次は俺か!?
光から波が伸びる。
――[エルアイスウォール・ダブル]――
光は無慈悲に氷の壁を貫通する。
――[エルウォーターミラー]――
光は無慈悲に水鏡を貫通する。
そして、俺の体を貫いた。あ、これ、死んだ。
死ぬ……。
……。
……。
いや……、
いやだ。
こんな簡単に死んでたまるかッ!
まだ、意識があるうちに……。
――《魔素操作》――
魔素を操作し、
――《魔石精製》――
新しく魔石を作って、
――[リインカーネーション]――
体に取り込む。
――[キュアライト]――
さらに癒やしの光で傷を癒やす。それら全てを、一瞬で、更に周囲の魔素を取り込んでMPを回復させながら行う。
……。
はぁはぁ、死ぬかと思った。
「ラン!」
ジョアンが叫ぶ。いや、だから、この姿の時はノアルジだろう?
「馬鹿な、神の一撃で死なないだと」
俺が耐えきったことに動揺したのか、光が揺らぎ、明滅する。馬鹿野郎、死にかけたっての。にしても、動揺することで弱まるって、本当に精神生命体か何かになったのか?
「精神生命体か……?」
「ラン! どういうことだ?」
俺の呟きをジョアンが拾う。
「精神だけが、意識だけが、思いだけがエネルギーとなって生命体として存在しているのかもしれない」
「ラン、それなら!」
ジョアンが覚悟を決めたような顔でこちらを見る。何か、手があるのか?
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
ジョアンが叫ぶ。
その姿を見た、セシリアとステラが駆け寄る。
「ジョアン、やるのじゃな」
「やるの……ですね……」
ジョアンが叫び、額に光る角が伸びていく。そして、ジョアンの姿が光る鬼へと変わっていく。
「その力、暴走させないために、私が……!」
光る鬼の手をステラが握る。
「では、その片翼、わらわが担うのじゃ!」
もう片方の手をセシリアが、
な、何が起きているんだ?
「ジョアンが、己がうちに秘めた鬼の力を暴走させておるのじゃ。その純粋な思いの力をぶつけてヤツを倒すつもりなのじゃ!」
暴走……?
「私が……暴走させません!」
ステラの言葉を聞いたセシリアが笑う。
「そうなのじゃ、わらわもいるのじゃ!」
光る鬼が周囲を振るわせる咆哮を放つ。
「おいおい、大丈夫なのか?」
スキンヘッドとモヒカンが慌てている。
「ジョアンを信じるんだぜ」
「ジジジ、そうだな」
ああ、後はジョアンを信じるだけか。
たくっ、最後の美味しいトコは持っていくんだな。
ま、そうだな。
魔王を倒すのは勇者の役目だ。ここはジョアンに譲るぜ。
そして、光る鬼が――光を、精神生命体となった魔王を打ち砕いた。