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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
8  二重螺旋攻略
710/999

8-59 魔王との戦い・中

―1―


 漆黒の鎧が人の背の高さの3倍はあろうかという巨大な剣を振るう。そして、それをジョアンが光る盾で受けとめる。大きな剣が、何度も何度も振るわれる。


「むふー、私たちを忘れていますよー」

 シロネが光輝く真銀の短剣を投げ放つ。


 紫炎の魔女が破壊の象徴とも言える紫の獄炎を叩き込む。


 ミカンが巨大な剣の波をくぐり抜け、漆黒の鎧の、その剣を持った握り手を斬り払う。


 そして、俺がッ!


――[エルアイスランス・ダブル]――


 二重に絡みつく鋭い氷の槍を叩き込む。


――[アイスランス]――


 分身体も使い氷の槍を次々と叩き込む。


 それでも剣の動きは止まらない。爆炎が、氷片が舞い落ちる中、漆黒の鎧が巨大な剣を振るう。


 何でだよ!


 さっき、ミカンが、その手を切り落としていたよな! 何で、何事も無かったかのように剣を握って振るっているんだよ! おかしいだろ!


 ジョアンが光る盾で巨大な剣を受け止める。しかし、その剣の勢いに押され、じりじりと後方へと下がってくる。

 俺たちも魔法を放ち援護するが、漆黒の鎧はそれをものともしない。効いていないのか? いや、違う。赤い瞳で見ると、少しずつだが、ヤツが纏っているオーラが薄くなっている。効果は薄いがゼロじゃない! これを削りきれば復活しないはず!

 俺は、この赤い瞳で相手のSPを見ることが出来るからな。言うなれば、ゲームで敵の残りHPを見ながら戦えるようなもんだ。少しでも効果があると分かっているなら、絶望はしない! ホント、この赤い瞳がなかったら無効化されていると勘違いして絶望していたかもしれないぜ。


 漆黒の鎧が大きく剣を振りかぶり、ジョアンへと叩き付ける。その重い一撃にジョアンが片膝をつく。そして、手にしている王者の盾を覆っていた光が明滅する。


「見れば、この御劔の一撃に耐えられるのは、お前だけのようだ。しかし、それも終わりのようだ」

 漆黒の鎧が更に大きく剣を振りかぶり、ジョアンへと振り下ろす。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 ジョアンが叫ぶ。


 手にした盾で、光が消えようとしている盾で、必死の一撃を受け止め、耐える。その間も俺たちは魔法を使い続けるが、纏っているオーラは殆ど変わらない。くそ、これ、相手のSPが10,000くらいだと想定すると一撃で10とかしか削れていない感じだぞ。


「僕は負けない!」

 ジョアンの叫びと共に盾の光が増し、漆黒の鎧の剣を押し返していく。

「なんだ、と!」

 そして、漆黒の鎧の剣を跳ね返す。


「僕の心が折れることは、ない!」

 ジョアンの言葉と共に盾の光が増していく。


「なかなかに厄介なヤツだ。ならば、後ろを、奥を、お前の仲間から、あの娘から、殺して、壊してくれる!」

 漆黒の鎧の姿が一瞬にして消える。


 そして、俺たちの前に現れ、


 剣を……、


「僕が守る!」

 しかし、俺たちの前には、いつの間にか光る盾を構えたジョアンの姿があった。


 光る盾が剣を受け止める。

「僕が全てを護る! 僕がいる限り、お前の剣が届くことはない!」


 そのジョアンの叫びに、漆黒の鎧が気圧されるように踏鞴を踏んで後ずさる。

「悪魔と戦う前に、お前のような障害が! あっては!」

 漆黒の鎧が叫ぶ。それをジョアンが強い瞳で見返す。


 ジョアン、格好いいぜ。




―2―


 戦いは続く。


 ジョアンが漆黒の鎧の攻撃を受け止めきれず、その左腕が斬り裂け、宙を舞う。


――《魔法糸》――


 俺はとっさに《魔法糸》を飛ばし、ジョアンの腕を回収する。そして、すぐに片手で盾を持ち漆黒の鎧の攻撃を受け止めていたジョアンの、その血が流れ落ちている左腕にはめる。そこにはすでにシトリが待っており、回復魔法を唱え続けていた。


 癒やしの力によって流れていた血は止まり、千切れ飛んだ腕が元の姿へと戻っていく。


 俺たちは戦い続ける。


 これ、回復魔法があるから、少々の傷や欠損でも治るからさ、結構、無茶な戦いをしているけどさ、本当なら入院したり、命に関わったりするような負傷だよな? 改めて思うけど回復魔法、凄すぎる。


 ジョアンは肩で息をしているが、その瞳は死んでいない。


 しかし、これはジリ貧だぞ。火力をアテにしていた紫炎の魔女もMPチャージ中でへたっているしさ……。俺の魔法だって無限じゃないからな、ヤバいな。


 さっきのゲーム的な感覚で言うと、俺のエルアイスランス・ダブルで16くらい削れるのか? 紫炎の魔女の魔法で80くらい? ミカンの刀が8の連続くらい? 14型の殴りで2くらいかなぁ。エミリオのブレスでも4くらいだろう。ああ、気が遠くなる。疲れ切ってるからか、ゲーム的な思考感覚に落ちてきてる。ヤバいな。


 何か、現状を大きく打破するような強力な一撃を叩き込まないと……。


 その時、俺が手にしていた真紅妃が震えた。そして、それに応えるように足下の黄金妃も震える。


 ……。


 わかったぜ。


「ジョアン!」

 俺がジョアンに呼びかけると、ジョアンがこちらへと強い瞳を返し、頷く。

「ラン! 分かった!」

 いや、今の俺はノアルジだって言ったはずなんだが……。ジョアンも疲れて頭がまわらなくなっているのかな。


 ジョアンの光る盾へと漆黒の鎧が振るう巨大な剣の連撃が続く。ジョアンが、それらを受け止め、跳ね返す。


 そして、巨大な鎧から大きな水平斬りが、放たれる。

「ラン!」

 だから、今はノアルジだろう?


――[エルハイスピード・ダブル]――


 俺と分身体が風の衣に包まれる。


――[アイスウェポン]――


 分身体の魔法によって槍形態のスターダストが凍りに覆われていく。そして、俺は分身体と手を繋ぐ。俺の右手には真紅妃を、分身体の左手には槍形態のスターダストを。


 ジョアンが巨大な剣を受け止め、そして、そのまま押さえ込む。


――《飛翔》――


 分身体と手を繋いだまま、《飛翔》スキルを使い、巨大な剣の上を駆けていく。何で、飛ばずに剣の上を駆けるかって? そりゃ、もちろん、その方が格好いいからだよ!


――[エルエアバースト]――


 更に途中で風を爆発させ、加速する。


 俺は右手に持った真紅妃を!


 分身体は左手に持った氷に覆われたスターダストを!


 俺が最初に覚えた攻撃スキル、《スパイラルチャージ》を!


 全ての勢いを乗せて、相手を貫く力を!


【《スパイラルチャージ》スキルが成長限界に達しました】

【《スパイラルチャージ》スキルが《インフィニティスラスト》に進化しました】


 ここに来て《スパイラルチャージ》が進化しただと。なんて狙ったかのようなタイミング――いや、これは必然か。俺の意志が進化を引き起こしたのだ……多分。


――《インフィニティスラスト》――


 手を繋いだ分身体のスターダストが、俺の真紅妃が、2つの槍が無限の螺旋を描いていく。螺旋が混じり、1つの槍となり、漆黒の鎧を――魔王を貫く。

 鎧が砕け、大きな風穴を開け、更に、その振動が、俺と分身体の足下の剣まで走る。


 巨大な剣にヒビが入り、そして砕けた。


 やったか!?




―3―


「ラン!」

 振り返れば、ジョアンがこちらに手を振っていた。そして、気が抜けたのか、倒れそうになるが、それをステラとセシリアが支えていた。

「まったく無茶をするのじゃ」

 なんだかんだでセシリアも面倒見がいいよなぁ。そんなセシリアも俺の方を見て笑っている。


 しかし、そのセシリアたちの笑顔が凍る。


「無駄だ」

 風穴を開けていた漆黒鎧が再生していく。こんちくしょー、まだ足りないのかよ!


「はーはっはっはっは、ヒトモドキどもがよー、粋がっても俺様たちに敵うものかよ!」

 その場に、散々、聞いた奴の声も響く。まさか、レッドカノン!?


 見れば、砕けた御劔の破片の1つが赤い炎を纏い女性の姿へと変わりつつあった。


「クヒヒヒヒ、僕たちを倒したと思った?」


 破片の1つが白い風を纏う。ホワイトディザスター!


「ええ、すぐの再会でしたね」


 ブルーアイオーン!


「主を守り、お前たちと戦うだけだ」


 ブラックプリズム!


「お前たち、生きていたのか!」

 俺の叫びに、人の姿のブルーアイオーンが、こちらへ笑いかける。

「この姿は御劔に記憶された情報を再生しただけのもの。私たちはすでに死んでいます。ですが、それ故に不死。主が滅びぬ限り、私たちは何度でも復活し、何度でも主を護るでしょう」

 何だよ、それ。あの剣がなくなったのは助かるけどさ、それで、この4人が増えたら、洒落にならない。


 こっちは、もうボロボロなんだぞ。


 盾として頑張ったジョアンは言うまでもなく、紫炎の魔女はMP切れ、シトリもだ。ミカンはヤツの攻撃を避けるのに神経を使いすぎたのか、肩で息をしているような状況だ。元気なのって俺と分身体、それに14型とエミリオくらいか?

 ジョアンのチーム、セシリアとステラ、それにシロネはちょっとヤバいな。


 そんな状況で無限に復活する4魔将と戦いながら、魔王を倒す、か。


 えーい、こんちきしょー、やってやらいでかー。


「ランの旦那、これはどういう状況なんだぜ?」

 そこへ、頼もしい声が聞こえた。キョウのおっちゃん!

「キョウ、ジジジ、どうやら最後の戦いには間に合ったようだ」

 ソード・アハトさんも!

「あー、結局、魔王と戦うことになるんだー」

「斧が鳴りますね!」

「ウーラ、斧は鳴らねえよ」

 ウーラさん、イーラさん、エクシディオン少年!


 助かったぜ。


「見ての通りだ。復活した4魔将と魔王相手の最終決戦だ。ジョアンたちが回復する時間を稼いで欲しい」

 俺の言葉にキョウのおっちゃんが頷く。

「ラン! 僕は!」

 しかし、ジョアンは疲れた体を押し、立ち上がる。


「小僧、いや、勇者ジョアン。俺たちを信用して任せて欲しいんだぜ。早く回復させるんだぜ!」

 キョウのおっちゃんがジョアンの肩を優しく叩く。


 さあ、第二回戦、頑張りますか!

2021年5月5日修正

分身体は左手に持った凍りに → 分身体は左手に持った氷に

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