2-63 世界樹下層
―1―
やって来ました。世界樹。
いつものように隠し通路から上層前に転送する。さあ、坂を登っていきますか。
坂を登っていくと大きく開けた部屋に出る。以前と同じように天井も見えない高さから――いや、遠視の力により思っていたよりも低い天井が見え、そこからぶら下がっている蜂達の巣が見えた。さあ、クィーンは復活しているのかな?
蜂の巣に近づくと巣を守るように5匹ほどのソルジャー・ビーと1匹のエリート・ビーが現れる……クィーンは居ないのか。そして思っていたよりも数が少ないな。さあ、ここはサクサクっと超えるべき所だ。
コンポジットボウに爆裂の矢を番える。お金をばらまくような攻撃を食らえ。あ、もちろんチャージアローは使いません。効果が重複するか分からないしね。
全ての魔獣を上手く巻き込むように爆裂の矢を着弾させる。広がる爆発。
そして爆発に巻き込まれたソルジャー・ビーとエリート・ビーは体の半分が砕けたような状況で散らばっていた。思っていた何倍も凄い威力だ。しかし、外周や床には傷一つ付いていない。世界樹の堅さと丈夫さには驚きだな。これを折ったり、削ったりしていた俺って結構馬鹿なことをやっていたんじゃあ……。
ソルジャー・ビーの内、3匹ほどが魔石も砕けてしまっており、更に全ての魔獣から素材を回収することが出来なかった。爆裂の矢、恐るべし。まぁ、エリート・ビーの魔石と剣は回収出来たのでクエストの達成条件はクリアです。
さ、さあ、登っていきますか。にしても一瞬で終わったなぁ。
―2―
外周を木壁沿いに上がっていくとジャイアントクロウラーの線が遠くに見えた。うーん、同族か……余り戦いたくないなぁ。同族と言うことで会話が出来たりとか見逃して貰えたりとか無いんだろうか。良し、試してみよう。
見えていた線に近づき挨拶をしてみる。
『こんにちは』
念話に気付いたのかジャイアントクロウラーがこちらへ体を向ける。そして上体を起こし、キシャーと叫び声を上げながら糸を吐き付けてきた。うお、問答無用かよ。俺は糸をすぃーっと回避し、魔法糸を使う。
――《魔法糸》――
ジャイアントクロウラーは俺の魔法糸に絡まり動けなくなる。予想していたけれど会話が出来るような知能は……無いのか。ホント、俺は特殊なんだな。俺の存在は――ジャイアントクロウラーに俺の意識が入り込んだのか、転生したのか、前世を思い出したのか……どうなんだろうな。でも卵からやり直したわけじゃないし、転生じゃないのか? いや、でも、魔獣の発生が卵からとは限らないし……。うん、一応、今のところ俺はモンスター転生系ってことで考えておこう。まぁ、考えたところでどうだって話なんだけどな。
魔法糸で縛ったジャイアントクロウラーを殺すのは忍びないので、そのまま放置することにした。同族の経験値とMSPがどれくらいか位は知りたかったけれどな。ま、まぁ、色違いでも同じ姿の魔獣を殺すのは余り気分の良い物でも無いし。
さあ、サクサク進もう。
上層部には魔獣がジャイアントクロウラーしか居なかった。こいつらを食べにフォレストジャイアントが現れる、何てこともなく普通に進むことが出来た。現れるジャイアントクロウラーは全て魔法糸で縛り上げ放置である。
なんというか、凄く雑魚いです……。
―3―
ある程度登ると外周側にも天井が見えてきた。そこが終点である。終点には木の扉があり、それを守るように3メートルくらいの木で出来た巨人が居た。アレがウッドゴーレムか。全てが巨大なこの世界の中では、このウッドゴーレムってヤツは思ったほど大きくないようだ。ウッドゴーレムは丸太のような足と胴体に何も書かれていない球体が載っている姿をしていた。ちゃんと人型である。武器等は持っていないな。
さ、戦闘開始だな。
俺はコンポジットボウに火の矢を番える。まずは先制攻撃ッ!
――《チャージアロー》――
火の矢が紫色に輝いていく。
――《集中》――
集中力が増し、ウッドゴーレムに視界が定まる。
うん? 今、動いたか? ウッドゴーレムが俺の存在に気付いたのか顔をこちらに向けたことに集中力が増したおかけで気付くことが出来た。先制失敗か。
ウッドゴーレムはそのまますぃーっとこちらに向かって動いてくる。ほ、ホバー移動だと!? 確かにあの丸太のような足でどう動くんだろう、のしのしゆっくり動くのかなと思ったけれど、これは予想外だ。しかも早いぞ。やばいチャージアローが間に合わない。仕方なく、俺はすぐに矢を放つ。
それに気付いたウッドゴーレムが矢を回避しようと動くが、間に合わず丸太のような胴体に火の矢を受ける。しかしその程度ではヤツの動きは止まらなかった。近づいてきたウッドゴーレムが丸太の腕を持ち上げる。右上が赤く光る。俺はそれを見てとっさに左後ろへ回避。ウッドゴーレムに一瞬で間合いを詰められ、先程まで俺が居た場所には大きな丸太が叩き付けられていた。サイズと見た目の割に機敏だな。
次は左上が赤く光る。
――《払い突き》――
俺はすぐにサイドアーム・ナラカに風槍レッドアイを持たせ払い突きを発動させる。振り下ろされた丸太のようなもう一つの腕を風槍レッドアイが打ち払おうとし――その力に負け、払いきれず、そのまま丸太の腕を滑らせるに終わる。く、発動失敗か。しかし回避には成功した! 両手を地面に叩き付け動きの止まった今なら確実に攻撃を当てられるはず! 喰らえ!!
――《Wスパイラルチャージ》――
2本の槍が唸りを上げ螺旋を描き、両手を叩き付けた為、頭を下げている木の巨人に突き刺さる。そのまま回転が木を削り抉っていく。球体のような頭が削れ、木くずが舞う。
巨人は叩き付けた姿のまま、後ろへすぃーっとスライドするように移動し逃げる。ちっ、削りきれなかったか。
さあ、どうする?
と、そこで俺は一つ思いついたことがあった。今の俺なら出来そうだという思いがある。これは……これならば確実に発現させられるはず。今ならあの魔法が使えるはずだ。
現代チートの時間だぜ。いくぞ。
【[ウォーターカッター]の魔法が発現しました】
――[ウォーターカッター]――
凝縮された水がウッドゴーレムへ目掛けて放出される。水鉄砲は穴が小さい方がイキオイよく遠くまで飛ぶんだぜ、スカタン! 鉄の刃物すら切断する水の勢いを受けやがれ!
高出力の凝縮された水がウッドゴーレムに当たり、普通に霧散した。
霧散したッ!
え、へ? あ、はい。な、何でだ? 現代チートの敗北……なのか?
4月22日修正
まぁ、色違いで同じ → まぁ、色違いでも同じ
4月28日修正
ジャイアンとクロウラー → ジャイアントクロウラー