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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
8  二重螺旋攻略
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8-56 大罪を統べる欲望

―1―


 甲板に出て、そこから飛び降りるように船を下りる。

「ラン!」

 ジョアンが同じように船から飛び降り、こちらを見て頷く。

『ステラ、ルートは?』

 もしかしたらと思いステラに確認してみる。しかし、ステラは首を横に振る。えーっと、ならば!

『ソフィア?』

 俺の天啓を受けた紫炎の魔女は大きなため息を吐いている。そして、それを見ていた羽猫が何故か空中で腹を抱えて笑い転げていた。こいつ、猫の姿で何をぅ!

「マスター、そろそろ、この者に立場というものを教え込むべきだと思うのです」

 14型が羽猫を捕まえようとする。しかし、羽猫はそれをするりと回避する。えーっと、14型さん? 14型と羽猫が騒がしく喧嘩をしている。争いは同レベルのものでしか起こらない! じゃなくて、だな。ここ、一応、敵の本拠地だからな。騒がしくしない! ホント、緊張感がないなぁ。


「ラン、前に進むだけなのじゃ」

 セシリア姫が船の甲板からこちらへ――城の中へと飛び降りて来る。ああ、そうだな。迷うコトなんてないよなぁ。羽猫と14型は無視して進もう。


 と、そうだ。


――《分身》――


 再使用が可能になった《分身》スキルを使い分身体を呼び出しておく。分身体には槍形態のスターダストを、俺自身は真紅妃を持つ。


『自分は伏兵的な扱いで、隠れて進む』

 俺の天啓にジョアンが頷く。まぁ、俺の代わりとしてちゃんと分身体を置いているからな!


――《隠形》――


 《隠形》スキルを使い、俺自身は隠れる。敵の本拠地だからな、用心するに越したことはないだろう。


 さあ、進むか。




―2―


 恐ろしいほど静かな城内を奥へ、上へと皆で駆けていく。その途中、シロネが罠を発見し、それを解除する。

「シロネ、落とし穴じゃなくて良かったな」

「むふー! そのノアルジーさんの顔と声で言われると腹が立つのですよー!」

 分身体でからかうと、何だか、シロネがぷんぷんと怒っていた。あー、学院で、この分身体を使って、散々、からかったからなぁ。


 にしても、魔族の姿どころか、魔獣の姿も見えないな。

「他の魔族の姿を見ないな」

「はい……。他の方々は地下だと、思います」

 俺の疑問にステラが答えてくれる。

「そうなのか?」

 ステラが頷く。

「はい。あの……魔族の方々が言っていた幻影体……それを持てない方々は地下で機械人形に助けられながら……ただ、生きるだけの生活をしています。今は、戦える人は……殆どいないはずです」

 俺は、その話を聞いて、アイスパレスに拘束され、ただの電池代わりに生かされていたフミコンの本体を思い出していた。


 な、何だろう。魔族のコトを知れば知るほど、脅威、恐ろしい敵、憎むべき相手――そんなイメージから、哀れな、可哀相な生物にしか思えなくなってくる。これは、ヤバいなぁ。これから、魔族の王と戦うってのに、同情で戦う意志が鈍りそうだ。うーむ。


 悪は悪で、同情の余地がない、叩き潰すべき存在であって欲しいってのは、俺の我が儘なんだろうか。


 更に進む。


 俺たちが通路を進み続けると、やがて、観音開きの大きな扉が見えてきた。お、ラストかな?

「ラン!」

 ジョアンの呼びかけに、俺は分身体の首を動かし頷いて応える。

「皆、準備はいいな?」

 分身体で皆を見回す。


 ジョアンは王者の盾を構え、気合充分だ。

 ステラは緊張しているようだが、決意を秘めた強い瞳をこちらに向けている。

 紫炎の魔女ソフィアはステラを心配そうに見ていた。

 セシリア女王は腕を組み、胸を張り、気合充分だ。

 シトリはチロチロと舌を覗かせながら責任感の強い瞳で皆を見ている。

 シロネは短剣を構え、油断無く周囲を警戒している。


 ミカンは自然体で立っていた。

 14型と羽猫は……普段と変わらないな。


 皆、大丈夫そうだな。


「にしても重そうな扉だな」

 開けるのでも一苦労って感じだよな。

「マスター、わた……」

「主殿、では自分が開けよう」

 ミカンがすぐに行動へと移り、大きな扉に手をかけ、押し開けていく。その後を追うように14型も手伝い、扉を開けていく。

 怪力コンビでやっと開くとか、どんだけ重い扉なんだって話だよな。これ、出入りするの大変なんじゃないか? それとも本来はスイッチとかで開く扉なのかな?




―3―


 開かれた部屋の中は緩やかなすり鉢状になっていた。外周部分の上には通路が見える。まるで闘技場の舞台みたいだな。


 そして、その中心部には一人の男が立っていた。


 こちらを待ち構えていた男は歪んだ笑顔を見せ、手を叩く。

「ようこそ、パンデモニウムへ」

「お前が魔王か?」

 分身体の言葉を聞いた男は大きなため息を吐き、肩を竦める。

「お得意の鑑定とやらで確認してみればいいだろう? ここまで来るような連中だ、まさか使えないとは言わないよな?」

 魔族って鑑定出来ないんじゃないか? ま、まぁ、一応、鑑定しておくか。


【名前:デザイア】

【種族:魔人族】


 へ? 魔人族?

「魔人族か」

 分身体の言葉に男が口笛を吹いて応える。

「正解だ。やはり鑑定持ちがいたか」

「お前がここを守る番人か!」

 ジョアンが叫ぶ。

「いいや、俺は魔族との約定によって駆けつけただけだ。俺たち魔人族は義理堅いからな」

「何を! 裏切り、騙す、それが魔人族だ!」

 ミカンが叫ぶ。

「馬鹿が! どうして、敵対する相手に義理を通す必要がある。勝つためなら何でもするのが常套だろう」

 た、確かに。そう言われてしまうと、そうだよなぁって思ってしまうな。

「ならば、斬る」

 ミカンが腰の刀に手を乗せる。ミカンちゃんは脳筋だからなぁ。敵か味方か、それくらいでしか、判断してなさそうだ。


「おいおい、待ってくれ、待ってくれ」

 男が慌てて手を振る。しかし、その表情は油断ならないものだ。


 男の正面は分身体に任せ、俺自身は《軽業》スキルを使い外周の上へと駆け上がる。そして、そのまま男の動向を観察する。向こうは《隠形》で隠れている俺に気付いていないようだな。

「何を考えている?」

「戦う意志はない。今更、俺みたいなチンケな魔人族が、俺たちが、魔族を打ち倒してきた歴戦の勇者に敵う訳がないだろう?」

「何が目的だ?」

 分身体の問いに男がニヤリと笑う。

「話をしよう。そう昔話だ」


「ラン、聞く必要は無い!」

「おいおい、待てよ。旧人類と同じ姿だが、俺たちはお仲間じゃないか」

 問答無用と駆け出そうとしていたジョアンを手で制する。

「いや、聞くだけ聞こう」

こんな場所で一人で待っていて、しかも、ただ話をしようとか、怪しすぎるよなぁ。




―4―


「そう昔話だ」

 男がにが虫を噛み潰したかのような顔で語り出す。

「六代目だか、それくらいの時の話だ。魔族のご先祖様と俺たちの先祖は、女神をあと一歩で倒せるというところまで追い詰めたらしい」

「嘘だ!」

 その言葉にジョアンが反応し、叫んでいた。

「まぁ、聞けよ。結局は負けたんだよ。じゃないと今の俺たちがないからなぁ」

 男は自嘲気味に肩を竦めている。

「その時、女神は俺たちを造り替えた。魔族は、女神と戦うほどの力を持っていたから、逃げることが出来た。人として生きてきた、何の力も持っていない俺たちは、そう皮肉にも人として、人の姿で生きることを望んだがために――力を持っていないがために女神から逃げることが出来なかった」

 人を造り替える?


「女神は、俺たちを、お前たちのような新人類と同じように造り替えなかった。ああ、多分、刃向かった罰とか、そういう感じだったのかもな」

 旧人類? 新人類?

「旧人類と同じ魔素の扱えない『成長』しない種族、新人類と敵対する敵役としての種族――魔人族として造り替えたんだよ」

 え? つまり、どういうことだ? 魔人族は魔族とかと違い、本当に魔人族という種族なのか?

 男が、何処かで見たことがあるようなペンダントを取り出す。

「これ、魔族に作って貰ったんだがな。いいよなぁ、お前らは、成長出来て。俺たちは、これを使って、これに魔素をため込んで、ある程度は成長と同じことが出来るようになった。それでも限界はある」

 成長って、レベルアップとかのことか?


「主殿――」

 ミカンが分身体に耳打ちする。ああ、気付いている。


「お前たち、魔人族の目的は何なんだ?」

 分身体の言葉を聞いた男は大きなため息を吐いた。

「目的? お前たち新人類に敵対することだ。そう女神に造られているからな」

 男の言葉を聞きながらも『俺』は動く。

「信じられないでス。女神様がそんナ……」

「信じなくてもいいさ」

 男は自嘲気味に笑う。


「お前は何者だ?」

 分身体の言葉に男は答える。

「鑑定で読んだんだろう? 俺は魔人族の長デザイア。そう、あの女神が作った馬鹿らしい名前の7つの氏族をまとめる長だ!」

 男が叫び、ニヤリと笑う。


 しかし、何も起こらない。俺が起こさせない。


「長話は伏兵を呼び寄せるための時間稼ぎか?」

 そう、外周の上に他の魔人族が現れたからな。多分、こいつは自身に注目させて、その間に他の兵を集める算段だったんだろうな。が、そこには俺がいるんだぜ!


「下の連中は陽動隊。いや、城の防衛装置を止められたから、な、本隊でもあるのか。が、いや、だからこそお前たちが本命なんだろうな」

「それが?」

「いいや、その所為で俺の仲間の到着が遅れたわけだ」

「その為の時間稼ぎだったのか?」

「ああ、そうだな」

「なら、その仲間は現れないぞ」

「殺したのか?」

「いや、上でのびているだけだ」

「そうか、お前たちの側にも伏兵がいたのか。しかし、俺たちを殺さないとは、女神に意志を強制させられている割には随分とお優しいんだな」

 俺は女神に強制された覚えはないからな。


「時間稼ぎをして、兵を集め、周囲から一斉に攻撃するつもりだったんだろうが、その策は敗れたぞ」

 しかし、男は分身体の言葉に肩を竦めるだけだった。


「策、策、策かぁ」

 男は未だニヤニヤと笑っている。


 うん? ちょっと待て。こいつは、何で、こんなに余裕なんだ?


「そう、俺の目的は時間を稼ぐこと。そして、言ったよな? 俺たちがお前たちに敵うはずが無いってな!」

 うん? 兵を集めても勝てるとは思っていなかった?


「策ってのは、な! どんな場合でも、どういう場合でも目的を達成出来るように仕組むものなんだよ!」

 男が叫ぶ。

「まさか!」

 目的は本当に時間稼ぎ?


「お前たちが会話に応じない場合でも、命懸けで、それこそ、捨て駒として戦い時間を稼ぐつもりだった。その時の策も用意していたんだがな! 仲間の命を取らなかったことには感謝する」

「お前は、まさか。魔人族は、そこまでして魔族に味方するのか!」

 分身体の言葉に男は大きなため息で応える。

「それも言ったろ? 俺たち魔人族は義理堅いってな」


 そして、そのすり鉢状の部屋の更に上から大きな音が弾ける。

「間に合ったようだな。魔族の王、その覚醒だ」

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