8-53 戦いの結末そして
―1―
【スキル制限の解除を促します】
【成功】
【系統上の獲得可能スキルから取得可能スキルを検索します】
【一部成功】
【スキル《ダークブレス》を獲得しました】
【スキル《ポイズンブレス》を獲得しました】
【スキル《ヘルチャージ》を獲得しました】
【スキル《エターナルブレス》を獲得しました】
【オーバースキル《蝶の誘い》を獲得しました】
【究極スキル《真・超再生》を獲得しました】
スキルが次々と取得されていく。
そして右目――視界に赤い縦長のメーターが表示される。これは、アレか?
「何か危険な匂いがするよ!」
「何か奥の手をだすつもりかもしれません」
どう考えても、この赤いメーターは制限時間だよなぁ。《変身》スキルを使った時と同じという訳か。
そして、大きな蝶の羽が開かれる。
足下に広がる氷雪に鈍く写し出された俺の姿は、元の芋虫の体に蝶の羽が生えただけのものだった。ああ、遠目に見れば大きな蝶に見えるかもしれないな。いや、よく見れば頭の上に鱗粉を纏う丸まった長い触覚が伸びている。それ以外は、余り元の芋虫形態と変わった気がしない。
これも時間が切れたら、元の芋虫状態に戻るのかなぁ。まぁ、この巨大な羽が邪魔で通常生活を送るのは困難になりそうだし、戻った方が楽か。
と、鱗粉をまき散らし空を飛んでいる俺の前に触手蠢く青い球体が現れる。周囲の――14型、ミカンが反応している様子はない。まるで世界が凍ったかのように――そうか、いつもの時間凍結魔法か。こちらが危険と判断しての速やかな反応、敵ながら恐ろしいヤツだぜ。
青い触手が手にした光を放つ御劔によって、俺の体がバラバラに斬り裂かれる。生まれたばかりの羽も、体内の魔石すら、全てが粉々になる。
そして、時が動き出した。
俺は、空中でバラバラになり、そのまま、ただの肉の破片となって地上に降り注――がなかった。
まるで時間が戻るかのように、元の姿のまま空を羽ばたいている。何だろう? 何故、再生している? 魔石まで砕けたはずなのに、いくら再生能力があっても魔石が砕かれたら終わりのはずなのに、元に戻ったぞ?
……。
そこで俺は理解する。これが《真・超再生》スキルか。このスキルが発動している間は、どんな状態でも、どこからでも元に再生する、のか。究極って名前が付いていたもんな。神業と究極、どっちが凄いんだろうなぁ。
まぁ、つまりだ。俺はスターをとった髭のおっさんのような状態の訳だ。それとも混沌の宝玉を手に入れたハリネズミかもしれないな。
「何故、何故です。確かにバラバラにしたはず」
青い触手から驚きが発せられる。まぁ、そりゃ、な。
「何にせよ、叩くだけだね」
黒い針金からこちらを飲み込まんとする黒い重力球が生まれ、放たれる。そして、ただ空を羽ばたいているだけの俺を飲み込む。俺は小さくたたまれ、ぐちゃぐちゃになり、斬り裂かれ、そして、元の姿のまま空中を羽ばたいていた。
俺の足下から驚きの気配が漂う。それとともに混乱も感じた。
「く、何だい、何だか頭が……」
「鱗粉、鱗粉だよ! ヤツからの鱗粉が僕たちの、ああ」
そして、《蝶の誘い》スキルがやつらの思考能力を奪う。
――《エターナルブレス》――
俺の口元から青白く、青銀に輝く息が吐き出され続ける。えーっと、えたーなるって何だろうって思ったけど、もしかして、永遠に吐き続けられるブレス攻撃? 無茶苦茶だな。
4魔将は物理を通さぬ風の障壁を、攻撃としても使える炎の障壁を、魔法を跳ね返す水鏡を、見る者を惑わす光の障壁を張るが、それらをしても永遠に続くブレスは回避しきれないようだ。
4魔将は俺のブレスによって体の一部が凍り砕ける。
「くっ! 俺様の永遠の炎で」
赤から放たれた再生の炎によって、4魔将の傷が、欠損が治っていく。あちらも再生回復持ちか。でもなぁ。
……。
うん、歯ごたえがなさ過ぎる。
この《変異》スキルは恐ろしい力だ。このスキルを使えば、どのような敵でも、どのような相手でも、そう、この力を持ってしても勝てない相手でも、それでも負けることはないだろう。絶対に負けないスキルだ。
だが、そのスキルを抜きにしても、そう《変異》スキルが無かったとしても負けただろうか? そう、確かに苦戦はしたかもしれない。それでも負けなかっただろうと言える。
4魔将は強敵だ。
そう、今まで戦った、どの相手よりも強敵――のはずだ。
なのに、その強さが伝わってこない。強さの次元が違っている。俺が強くなりすぎたのか、相手の脅威が、強さが伝わってこないッ!
――《ヘルチャージ》――
強大な翼を羽ばたかせ、鱗粉をまき散らしながら地上へと突撃する。
「かわせぇーーー!」
4魔将が突撃を必死にかわす。
そして、ミカンは、そのばらけた隙を見逃さない。
空へと逃げた巨大な黒い翼を追う。14型を踏み台にして、その空へと舞い、その不意をつき、その必殺の一撃が、全てを切断する死に神の刃が、黒い針金を切断する。
「がっ、そんな、あたいが、こんな簡単に! くっ」
黒い針金から生まれた枝が、その体に刺さり何かを取り出す。
「王よ、あたいの王様、後は頼み……ま……」
そして、黒い針金が萎れ、そのまま氷雪に舞う風に運ばれて消えた。
「ブラックプリズムウゥゥゥゥ!」
レッドカノンが叫ぶ。
そして、そのレッドカノンの前に、俺は居た。巨大な蝶の羽を広げたまま、その上空から、燃え盛る蜘蛛の姿に変えたレッドカノンを見下ろす。
俺の影になったレッドカノンが、小さな悲鳴を漏らし、一歩さがる。
「お前は、お前は、お前は、何なんだ!」
レッドカノン……、俺が初めて会った魔族だよな。そして、俺に魔族は敵だという認識を強烈に植え付けた存在。
「まさか、まさか、俺を、俺様を殺すというのか! 俺を殺すつもりなのか! 死んだら、終わりなんだぞ。幻影体ではない、この体は、俺様の生身の体なんだぞ。死ぬんだぞ、殺すのか! お前は人を殺すのか!」
レッドカノンが叫ぶ。
『お前は、お前の、その前で同じように命乞いをした人を助けたか?』
俺の天啓を受け、レッドカノンが更に一歩下がる。
「何を言っている。アレは、悪魔の作った人形なんだぞ。人の形をしているだけだ。同じように喋るだけだ。人は俺様たちしかいない!」
『そうか』
俺はさらに巨大な蝶の羽を広げる。レッドカノンを覆う黒い影がそれを飲みつくさんと伸びる。そこへ白い獣が叫ぶ。
「何でだ、何で、あんな悪魔の味方をするんだよ! 後悔するぞ! 僕たちの方が正しかったと、後で後悔するぞ! 何も知らないくせに、何で、ヒヒヒ」
お前らの言う、悪魔とやらの味方をしたつもりはない。俺は俺の意志で、ここにいるんだよ。
「待ちなさい!」
青い触手が叫ぶ。
「水、助けてくれ。化け物だ」
「ええ、助けます」
青い触手が動き、そして、伸びた御劔が燃え盛る赤い蜘蛛を貫いた。
「へ、え? あああああ! 俺の、俺様がぁぁぁ。何で、死ぬ、あああああ!」
燃え盛る赤い蜘蛛は醜く喚き、呪いの言葉を吐きながら――死んだ。
そう、あっさりと死んだ。
仲間割れか?
「青! お前、なんでだよ!」
白い獣が叫ぶ。そして、そこに青い触手が投げ放った御劔が刺さる。白い獣は突然の事態に、何が起きたかも分からないまま――そのまま絶命した。
『お前は何をやっている。味方を殺して命乞いでもするつもりか?』
俺の天啓を受けた青い触手の塊から顔が生まれ、そして、疲れたようにため息を吐いていた。
「いいえ、違いますよ。そのあなたの力、恐ろしい力ですね。我らが王でも勝てないかもしれません」
青い触手が伸び、白い獣の死体から御劔を回収する。ああ、そうか。まだ、魔王がいるんだよな。
「あなたたちとの戦いは私たちが勝手にやったこと」
青い触手の塊に生まれた、その顔は酷く疲れ切っていた。
「この戦いが、どのような結末に終わったとしても、他の人は、何も知らない静かに暮らしたいだけの、私たちの民は罪に問わないでくれませんか?」
えーっと、いや、それは……。客観的に見れば、虫の良いことをって話だろうな。でも、俺は、お前たちが戦いを仕掛けてきたから振り払っているだけで、それこそ魔族を殲滅したいって思いがあるわけでもないし……。
「芋虫の星獣、名前を聞いても?」
『ランだ。氷嵐の主、ランだ』
俺の天啓に満足したのか、青い触手に生まれた顔は小さく笑っていた。
「ラン、お前を、死にかけていたお前を戯れに生かしたのが、私の、私たちの失敗でした」
そして、青い触手は、その持っていた御劔で、生まれた顔ごと体を貫いた。
そして叫ぶ。
「王よ! 我らの王よ、我らの力、お受け取りを!」
青い触手が最後の力を使い、御劔を空へと飛ばす。そして、それは空中に吸い込まれ、見えなくなった。
終わった。
終わってしまった。
こいつらは強かった。恐ろしく強かった。でも、その力の使い方を間違っていた。
何だろうな、何度も殺されかけたし、何度も戦った。でも、俺は、何だろう、こいつらが憎めなかった――憎みきれなかった。
何だろうな、この気持ち。