8-49 そして勇者の元へ
―1―
一度、解散ということになり、フミコンと冒険者チーム、それにミカン、キョウのおっちゃん、ソード・アハトさんだけが残った。
「えーっと、それじゃあ、僕たちは『世界の壁』を抜けて、『永久凍土』に向かって、それでそれで魔王を倒せばいいのかな?」
エクシディオン君が腕を組んで考え込んでいる。
「いや、俺らの仕事は、その魔王までの道を切り開くことだな」
イーラさんが、それに答えていた。
「そうですね。魔王討伐は、今、頑張っている勇者さんの仕事でしょう」
「えー、それじゃあ、僕たちがクエストを受けても意味ないじゃん」
エクシディオン君は不満そうだ。
「おいおい、ランの旦那はクエストをどう言ったか思い出してみるといいんだぜ」
キョウのおっちゃんが、格好つけているのか、片方の眼を細めて指を振っている。えーっと、俺、なんて言ったかな?
「なるほど、ジジジ、魔族の王の暴走を止めろ、か。魔王の討伐ではないところがミソなのだな」
そうそう、そうなんだよ、俺はそこまで考えて……って、嘘です。別に、そこまで考えていたわけじゃなくてさ、単純に、フミコンの止めて欲しいって思いを優先しただけなんだぜ。
「ふーん。それなら大丈夫だよね? よーし、準備ができたら、僕らは出発だね」
エクシディオン君の言葉にイーラとウーラが頷く。
「ふふ、ジジジ、私も一緒に行こう」
「俺も行くんだぜ」
キョウのおっちゃん、ソード・アハトさんがアクスフィーバーの3人の輪に加わる。
「ランさん、キョウさん、ソード・アハトさん、それに僕たち3人――あの、白い女魔族と戦った時の再現ですね」
ウーラさんが山賊顔でにこりと微笑む。
「おー、確かにそうだな」
イーラさんがそれに釣られるように笑う。
「そうなんだぜ」
「ジジジ、これは面白い巡り合わせだな」
おー、そういえば、そうか。ホワイトディザスターと戦って、その時に魔族の王を名乗る漆黒の鎧とも戦って――その時のメンバーと一緒だな。でも……うん。
「じゃあ、俺らは回復の温泉に浸かろうぜ! ずーっと、そこの王様が入っててよー、楽しめなかったからなぁ」
モヒカンが意味深な顔でこちらを見る。キモイから止めてください。
「おい、トンガリ。俺らも参加だ、参加。回復の温泉は全て終わった後のお楽しみにしておけ」
「いや、だってよ、そこの連中だけで盛り上がってるじゃねえかよ。俺ら、要らないんじゃないか?」
「回復魔法が使えるのはお前と王様くらいだろうが。俺らが行かなくてどうするんだ」
「へぇ、へぇ、仕方ねえなぁ」
あー、そうか。アクスフィーバーの面々は脳筋だし、うん。意外にも、この世紀末なモヒカンが俺らの中では唯一の回復魔法使いなのか。
写し出されていた映像が、魔族の本拠地である城から、ジョアンたちに変わる。神国側から『永久凍土』に入ったからか、城とジョアンたちの場所は、まだ正反対と言えるような位置だ。
ジョアンたちは更に歩みを進め激しい吹雪を抜け、氷原に到着する。その様子を見て、俺は決意を固める。
『すまないが、自分は皆とは一緒に行動できない』
そうなんだよなぁ。
「おいおい、王様よー。ここまで来てそれはないぜ」
グルコンが、そのつるつるな頭をポリポリと掻いている。
『自分は勇者ジョアンたちのサポートに向かう。自分の代わりは、そこのミカンがつとめてくれるだろう』
そうなんだよなぁ、俺はジョアンたちを、俺の友人セシリアを、俺の進む道を開いてくれたシロネを、俺が初めて泊まった宿で助けてくれたステラを、ほっとけない蜥蜴人のシトリを、小憎たらしい紫炎の魔女ソフィアを、俺は助けたい。
「ちっ、それなら仕方ねぇなぁ。勇者連中を助けたら俺らに合流するんだろ?」
スキンヘッドのグルコンがニヤリと笑う。
『もちろんだ』
「わーったぜ、そういうことならよ、そこの侍の嬢ちゃん、頼むぜ」
ミカンは話について来られなかったのか、俺とグルコンの顔を交互に見ていた。
「皆さん、すまんのう」
「いいってことよ。あんたの姿を見て、俺らも魔族も悪い奴ばかりじゃないって信じることにしたんだからな」
「そうですよ。僕たちアクスフィーバーは困っている人の味方です」
「俺もフミコン老にはお世話になっているから気にしなくてもいいんだぜ」
「ジジジ、そうだな」
何というか、みんな、良い奴らだよなぁ。
と、そこで写し出された映像に変化が現れた。
氷原に次々と魔獣が飛来してくる。そう、何かに撃ち出されたかのように次々と魔獣が降ってくる。これは……?
『フミコン、これは?』
「配下の魔獣を全て使い尽くすつもりか!」
フミコンが悔しそうに拳を床にたたきつけていた。その顔は苦渋に満ちている。どういうことだ?
次々と魔獣が現れ、その数は視界全てを覆い尽くすほどになっていた。何百? 何千か?
『大丈夫なのか?』
どう見ても大丈夫じゃないよな? いくら紫炎の魔女の魔法が強力でも、MPには限りがある。いくら予備のMPタンクを持っていても無限じゃないはずだ。ジョアンだって、皆を守ることには長けていても、こんな数では……。
「おい、不味いんじゃないか?」
「そうです。どんなに強い冒険者でも数が多いのは……」
「え? え?」
どうする、どうする?
俺が助けに行けば――いや、俺1人でどれだけ変わるんだ? では、皆で行けば……でも、それは。
フミコンが何かを決意したかのように顔を上げ、俺を見る。
「ラン王、こんなこともあろうかと、ファット船長の船を改造しておいたのじゃよ」
ん?
「この魔導船を再び、空に浮かせることが出来るように改造したのじゃよ!」
んん?
「14型、ファット船長を急ぎ呼んで欲しいのじゃ。この船を使えば、間に合うかもしれん」
「マスター以外が命令するな、です」
なるほど、空を行く、か。
『14型、頼む』
「了解です」
その言葉とともに14型が消える。
「なるほど、この空飛ぶ船? で勇者の助けに行くんですね」
ウーラさんが納得したというように手を叩いていた。
「なるほど。そっちから片付けるってことかよ」
スキンヘッドのグルコンが拳と拳を打ち鳴らす。しかし、そこにキョウのおっちゃんが待ったをかける。
「いや、待って欲しいんだぜ。全ての戦力がそちらに向かっているんだぜ」
「なるほど、ジジジ。本拠地の城は手薄だ、と」
「そうなんだぜ」
「ジジジ、ラン、どうするのだ?」
どうする、どうする?
ジョアンたちの場所が悪い。この船が、空を飛ぶとして、城にまわってからジョアンたちの元へ行ったのでは遠回りになりすぎる。
『自分1人でジョアンの元へ向かう』
これしか、ないか。
「ランの旦那、待って欲しいんだぜ。魔族の城は、こちらからなら、まだ近い。俺らが準備が出来次第、陸路で向かうんだぜ。ランの旦那は、この船で、あの小僧の――いや、勇者たちの救援に向かって欲しいんだぜ」
「ジジジ、それが良いだろう」
「それならよー、王様の方と俺らの方で何人か、分けるか?」
「いや、それには及ばない。主殿には私がつく」
ミカンが刀の鍔を軽く叩く。
「おい、侍の嬢ちゃん、お前一人で……」
「任せて欲しい」
ミカンが、その残った鋭い瞳でグルコンを見る。
しばらくして、グルコンが大きなため息を吐いた。
「お前なら大丈夫だろうよ」
「うむ」
「と言うわけだ。王様よ、二手に別れようぜ。そっちと俺らだ」
う、うむ。
何だか、話が勝手に進んで、勝手に決まってしまった。
えーっと、俺と14型、ミカン、ファットにフミコンがジョアンの救出チームで、
グルコン、クワトロ、イーラ、ウーラ、エクシディオン、キョウのおっちゃん、ソード・アハトさんが魔族の本拠地襲撃チームか。
速攻でジョアンと合流し、空を飛べるようになったネウシス号で魔族の城に向かう、か。
よし、やってやらぁ。