2-1 冒険者ギルド
―1―
深い森の中をしばらく進むと森が開け、自分の背の高さの三倍はある複数の柵が見えてきた。
柵はぱっと見、端が見えないくらいの距離を等間隔に並んでいる。柵の高さ、数は、凶暴な魔獣の進入を防ぐ為に必要なのだろう。柵と柵の間、開けているところが入り口かな?
入り口には門番らしき武装をした男性が居た。あー、エルフじゃないのね、普通に人も居るのか。一応鑑定してみよう。
【名前:ハガー・ベイン】
【種族:普人族】
えーっと、普人族ってのが一般的な人類になるのかな?
シロネさんが門番に声をかける。
「久しぶり。里に入れさせてもらっても良いかな? それと……」
「ええ、どうぞ。っと、後ろの魔獣は? もしかしてテイムしたんですか? テイムするにしてももっと良い魔獣がいるでしょうに……」
「むふー、いや、あのテイムしたのではなくて……」
シロネさんがこちらを見る。これは自分から言った方が良いのかな。
『自分は氷嵐の主という。星獣の身ではあるが冒険者になりに来た』
シロネさんが『え?』という顔でこちらを見る。あ、喋っちゃ駄目だったのかな? それとも冒険者になりたいって伝えてなかったことかな?
門番の人もえっという顔を一瞬したが、すぐにキリッとした顔を作った。
「あー、星獣様か。では、普通に門番の仕事をしますか。ステータスプレートの提示をお願いします。ステータスプレートをお持ちで無い方の場合は15360円をいただいています」
え? 里に入るのにお金取るの? って、今、円って言った? ここの通貨って円なの? というか、俺、今、一円も持ってないんだけど。
あ、俺、ステータスプレート持ってたッ!
ステータスプレートを門番に見せる。
「あー、はい、星獣様のステータスプレート、確かに確認しました。ようこそ、スイロウの里へ」
というか、星獣『様』って『様』呼びだけれど敬われている気がしません。多分、叡智のモノクルの言語変換が自分に理解出来る単語を選んでいるだけで『星獣様』で一単語なんでしょうね。
スイロウの里に入ると、シロネさんが足を止めこちらへ振り返る。
「ハガーさんも言っていたけど、私からも。ようこそ、スイロウの里へ」
とびっきりの笑顔だ。
「むふー。さっきは冒険者になりたいって聞いてなかったから、ちょっとびっくりしちゃった」
あー、そっちに驚いていたのね。
「さてと冒険者ギルドは、この大通りをまっすぐ行けば見えてくる白い大きな建物がそうよ」
と、大通りの先に見える大きな白い建物を指さす。通りには木で出来た建物が多い中、ギルドの建物は土と石で出来た建物ぽかった。
『なるほど。ありがとう』
「ええ、これで助けてもらった恩は返せたよね。それじゃあ、私は行くところがあるから、また縁があったらよろしくね」
え? ちょ、ちょっとマジで。こういうお約束って一緒に冒険してくれたりとか、異世界に詳しくない自分をサポートしてくれたり、とか、そういう展開じゃないの?
なんて考えている間にシロネさんは居なくなっていた。
異世界の人里にモンスターの姿の自分が放置された。そう、まだ人型だったなら……ッ!
と、余り悩んでも仕方ないので大通りに目を向ける。エルフの里だから木の上に家でも建っているのかと想像していたが、そういったことも無かった。うーん、がっかり。
木で出来た建物も多いが、ある程度は土壁の建物も見える。木で出来た建物が元からあった建物で土壁で出来た建物の方が新しく見え後から増やされた建物のように見える。大通りには屋台やござの上に果物のような物を広げて商売をしている人たちも見え、そこそこに活気があるようだった。歩いている人たちもエルフばかりでは無く普通の人の姿も多い。
って、今、視界に猫耳が!?
お、おい猫耳が居るぞ。猫耳の人は鑑定する前に何処かに行ってしまった。うわああ、お知り合いになりたかった……って、まずは冒険者ギルドか。にしても、あの猫耳、背中に大きなナギナタぽいの背負っていたけど冒険者だったんだろうか……?
―2―
冒険者ギルドに入る。
ギルドの中は奥にカウンターがあり、何個かの丸テーブルが置かれていた。まるで酒場みたいだ。中には数人の冒険者と思われる者達が居た。と、声が飛んできた。と言っても何を言っているかわからないので右下の字幕を見るしか無いんですけどね。
「おいおい、冒険者ギルドに魔獣が入り込んでいるぞ!」
って、しまったー。最初は、よくあるテンプレ、絡まれ展開かと思ったんですが、今の自分、モンスターじゃん。こ、これは早く自分のことを説明しなければ、か、狩られてしまう。
先程、声を上げたと思われる輩が武器を取る。ま、まずい。
「待てッ!」
強い声がかかる。声は奥の丸テーブルからだった。その声を受け、さっきの男は武器を置く。……どうでも良いけど偉い人ほど奥に座れるとかなのかな。
「魔獣が結界のある、この里の中に入れるわけが無いだろう。よく考えろ」
さっき、武器を持った男は「すいません、兄貴」とか言ってる。これ、ホントの意味での兄貴じゃないよね。っと、俺も何か言わないと。
『自分は氷嵐の主という名前の星獣だ。冒険者になりに来た』
それを聞いてギルド内の全員が驚いた顔をする。
「ああ、この頭に響くのは、念話スキルか。てっきりテイムされた魔獣が紛れ込んだのかと思ったが、こういうこともあるのか……」
驚いている兄貴と呼ばれた人は無視してカウンターまでのしのし歩く。うーん、やはり普通に歩くのは遅い。
『冒険者になりたいのだが……』
「うお、念話スキルか。突然だとびっくりするな」
目の前にいるのは黒い眼帯をした禿げの厳ついおっちゃんだ。いや、あのギルドの職員って、それもカウンターに居る人って美女とかが定番じゃないの……、何コレ。
『念話スキルを知っているのか?』
「ああ、こっちだと使う奴も少ないが、大陸の方だと天竜族なんかが念話で会話してくるからな」
天竜族だと? 人型なのか竜型なのか、それが重要だな。
「っと、冒険者になりたいんだったな。ステータスプレートは持っているか? 持っていないなら試験クエストを受けてもらうことになる」
『ステータスプレートならここに』
俺はステータスプレート(黒)を鞄から取り出し、渡す。
「お、なんじゃこりゃ。黒いステータスプレートなんて初めて見たぞ。って、加入だったな。借りるぞ」
そう言っておっさんは俺のステータスプレート(黒)を持ってカウンター奥の扉に入る。これ、持ち逃げされていないよね。
周りの人たちは、もう俺に興味が無くなったのか丸テーブルに座って色々喋っている。盗賊がどうだとか、蜘蛛がとかそんな文字が見える。
しばらくすると奥の扉からおっさんが出てきた。
「ほら、返すぞ。後、中のデータも更新しておいてやったからな」
更新? PCのアップデートみたいなもんなんでしょうか。
「これで、お前さんもGランクの冒険者だな。じゃあ、後は適当に頑張れよ、っと、それと質問は受け付けてねぇからな」
『へ? あの質問なんですが……』
「質問は受け付けねぇって言っただろ」
いやいやいや、無茶苦茶だろ、それは。冒険者のことが何もわからないし、その他にも色々と聞きたいことが……。
「おいおい、おやっさん、流石にそれは無茶苦茶だ。それに冒険者の支度品も渡していないしさ」
そう言ったのは先程、兄貴と呼ばれた男だった。あら、まだ居たんだ。
2月23日修正
武器がとか→蜘蛛がとか
4月24日修正
誤字修正