8-48 魔族の王その討伐
―1―
「マスター、フミコンが呼んでいます」
どうしたんだろう? 俺を呼ぶなら、それこそ通信機で呼べばいいのにな。
俺は、先導する14型の後をてとてととついて歩く。すると俺の後をちっこい2つの毛玉がついてきた。
「おうちゃま」
「むしー」
まるでカルガモの親子だ。って、おいおい、もう喋るのかよ。ホント、猫人族の子どもの成長は早いな。
『二人とも、危ないからついてくるんじゃない。その辺で遊んでるんだ』
俺がちっこい2つの毛玉に天啓を飛ばすと、毛玉たちはうわーっと楽しそうに叫んで転がっていた。あー、あー、服が汚れるぞ。
すると、なぜかゼンラ少年がこちらへと駆けてきた。そして、急ぎ二人を立たせ、服の汚れを振り払っていた。
――[クリーン]――
「わぁ」
「すごい」
俺が発動させたクリーンの魔法で服が綺麗になったことが楽しいようだ。
「ラン王、すまない」
ゼンラ少年が俺に頭を下げる。いやいや、あなた、帝国の皇帝だった人じゃん。いや、そういう態度を取られると、あの、その、ちょっともにょります。
「にいたま、すまにゃい」
「にいたまー」
ちっこいのは随分とゼンラ少年になついているようだな。何だか、ゼンラ少年も眩しいものでも見るかのように凄い笑顔だしさ。うん、生き生きとしているな。ここに来た時は心を失ったかのように能面のような顔だったのにさ。そう、まるで魂のない14型のような無表情さ具合だったのに!
「マスター、呼びましたか?」
『いや、呼んではいない』
14型さんの反応速度、怖いなぁ。前を歩いていたはずなのに、これだもん。
「そうです、か」
そうです。にしても、ゼンラ少年は、これで良かったんだろうな。
―2―
ポンちゃんの野菜農場と化している裏庭の先に異質なモノが置かれていた。ステルス機の先端を引き延ばしたかのような形状の大きな船――もしかして、ファットのネウシス号か? にしては形状が変わっているな。それに、何で陸にあるんだ? まさか、海上から、ここまで引っ張ってきたのか?
「マスター、フミコンはあの中で待っているようです」
う、うむ。
俺が船の中に入ると、そこには皆の姿があった。
一番奥にフミコン。
そして、グルコン、クワトロのおっさん二人にイーラ、ウーラ、エクシディオン君たちアクスフィーバーの面々といった冒険者たち。
ユエ、ファット夫婦にフルール、スカイの犬頭、ポンちゃん、クニエさんなどの幹部連中。ああ、ここにユエとファットが居るってコトは、さっきの子どもたちはゼンラ少年にお守りを頼んでいたのかな。
ミカン、キョウのおっちゃんにソード・アハトさんなど荒事専門の顔も見える。
何というか、うちの主要メンバーが集まっているな。まぁ、大工の棟梁などの技術さんたちやタクワンなどの料理人たちは居ないけどさ。
「おお、ラン王、待っていたのじゃよ」
フミコンが俺を呼ぶ。呼ばれるままに俺はフミコンの隣に立つ。何だ、いったい、何が始まるんだ?
「まずは、これを見て欲しいのじゃ」
フミコンが何かを操作すると空中に巨大なスクリーンが現れた。映し出されているのは、何処かの地図と、巨大な城か? 城の造りはこのアイスパレスと似ているな。
「この地図は――魔族の住む地『永久凍土』の地図じゃよ。そして、その本拠地の城じゃよ」
へ? いや、何で、そんなものが写し出されて……まさか、これ、リアルタイムの映像か?
『フミコン、まさか、これは今の映像か?』
「さすがはラン王、するどいのう。そのまさか、じゃよ」
次に城から場面が変わり、ジョアンたちが映し出された。ジョアンたちは何か巨大な化け物と戦っている。
「『永久凍土』……人が住める環境ではないからのう、彼らも苦戦しているようじゃのう」
確かに寒いってのはキツいよな。それに雪で足が取られるし、大変だよな。お、何とかジョアンたちが勝ったみたいだな。にしても、こんな映像が映し出せるってことは、これを使えば……?
「ラン王、映し出せるのは『永久凍土』の中のみじゃよ」
ちぇ、見透かされてら。
「もう一度、これを見て欲しいのじゃ」
場面が変わり、また先程の城が映し出される。よく見れば城の頂上が黄色く光っている。
「まもなく、この城から核の光が放たれる。残された時間は短いのじゃよ」
核? 核と言ったか?
「そうなると、どうなるんだぜ?」
キョウのおっちゃんの質問にフミコンが頷く。
「核の炎が周囲を破壊し尽くし、『永久凍土』は人の踏み込めぬ地になるじゃろうのう。そして、その毒が抜けきるにはどれくらいの年数がかかるか、分からない位の年数がかかるじゃろうのう」
「おいおい、魔族は自爆しようとしているのか?」
スキンヘッドのグルコンがフミコンに問いかける。ポンちゃんと二人で並ぶと相互に反射しそうだな。
「そうなるのう」
「なら、放っておけばいいじゃねえか」
確かにグルコンの言うことはもっともだよな。でもなぁ。
そこでフミコンが頭を下げた。
「難しいお願いなのはわかっておるのじゃ。それでも、『わしら』魔族を救ってはくれぬか?」
「ま、まさか、フミコンさんは魔族なのですか?」
ウーラさんが驚き、よろよろと倒れそうになっていた。
「そうじゃ」
フミコンのその言葉に、場が静かになる。皆、驚きで声が出ないようだ。
フミコンが顔を上げる。
「魔族の全てが戦いを望んでいるわけではないのじゃ。いや、むしろ、戦いに疲れ安息の地を求めている者の方が多いはずじゃ。そして、そういった者達はステラ姫に救いを見ているはずじゃ」
「いや、しかしよー」
トンガリ、お前、空気読めないなぁ。
「おい、トンガリ、良いじゃねえか。面白いじゃねえか」
グルコンが拳と拳をたたき合わせ不敵に笑う。
「そうだな。魔族に斧の良さを広めるのも良いかもしれん」
「ですね」
「えー」
アクスフィーバーの三人も乗り気だ。いや、エクシディオンくんは微妙か?
そんな中、ミカンが口を開く。
「私はレッドカノンという魔族に姉と両親を殺された」
皆がミカンを見る。
「私は魔族を憎んでいた、そう憎み続けてきたのだ」
そうだな、ミカンが強くなろうとしたのも復讐のためだもんな。
「それは……」
「よいのです、フミコン老。今では魔族を憎んでいません。人にも色々な人がいるように、魔族にも色々な者がいる。私が憎むべきはレッドカノンという者であって、魔族では無かったのです」
何だろう、ミカンちゃんも色々とこじれているけど、それでも踏ん切りがついた形だなぁ。やはり、一度、仇を討てたのが大きいのかもしれないな。
「それで、ジジジ、フミコン、我々はどうすれば良いのだろうか?」
「かたじけない! 城の奥には魔族の王を詐称する哀れな……そう、大馬鹿もんがおるのじゃ。その者を止めて欲しい」
アレか? あのホワイトディザスターと最初に戦った時に現れた漆黒の鎧に身を包んだヤツか?
『スカイ、ユエ』
俺は2人に天啓を飛ばす。
「はい、ラン様」
「ランの旦那ー、なんですか」
そうだよなぁ。
『グレイシア国からの依頼として冒険者ギルドにクエストを頼みたい。内容は、偽りの魔族の王の暴走を止めろ、だ!』
俺の天啓に2人が頷く。
「わかりました。冒険者ギルドに依頼を出します」
「ランの旦那、凄いクエストだ。俺、震えてくるよー」
「こいつは楽しくなってきたぜ」
スキンヘッドのグルコンがにやりと笑う。
「俺は皆に元気を、これからの戦いに赴く皆のために美味しい料理を作ってくるじゃんかよー」
頭をそり上げたポンちゃんも続く。
「えーっと、フルールは、フルールは、すんごい装備品を作って協力しますわぁ」
はいはい。
さあ、忙しくなるぜ。