8-46 なつかしい旅路と
―1―
皆が俺の為に準備をしてくれる。
「海路は無理そうです。本国から船が動かせないと連絡が来ました」
海路? ああ、そうか、ファットの船でグレイシアと行き来できるようにしていたもんな。そうか、海路の方が早かったのか……。
「マスターの為に準備をするのです」
14型の言葉はおおざっぱで適当だ。ファリンに任せっきりだし良く分かっていないのか?
まぁ、陸路でも何でも急いで行くべきか。
そして、次の日、準備が出来たのか14型が俺を背負い砂竜船乗り場へと運んでいく。
そこには……、
「おう、待ってたぜ」
「回復の温泉、期待しているからよ」
スキンヘッドとモヒカンのおっさん二人、さらに……、
「ランさん、お久しぶりです」
腰にハンドアックスを差し青いバンダナを巻いた山賊のような青年がこちらへとお辞儀をする。
「初めて会った、あの時よりも酷い有様じゃないか」
赤いバンダナをつけた大きな両刃の斧を背負った熟練の冒険者。
「せっかく迷宮都市についたのに、すぐに戻るなんてさー」
不満そうに口を尖らせている斧を持った少年。
「今回、僕たち、アクスフィーバーの三人がランさんを護衛することになりました」
そこに居たのは、ウーラさん、イーラさん、エクシディオン少年の三人だった。
な、懐かしいなぁ。三人も迷宮都市に来ていたのか。
「僕ら、迷宮都市に来たばかりだったんだよ。それがさー、これから行くグレイシアって国は帝都の方なんでしょ、また逆戻りだよ」
エクシディオン少年は不満そうだなぁ。そんな少年の頭にイーラさんの拳が落ちる。
「アーラの姐御の言葉を忘れたのか? 俺たちは、この斧に見合った、斧の素晴らしさを体現する存在にならないとダメだろう?」
イーラさんが背負っていた大きな両刃の斧を構える。
「ちぇ、仕方ないなぁ。ということでランさん、よろしくー」
エクシディオン少年が、こちらを見て片目を閉じる。ホント、調子のいい少年だな。
「何だ、お前らもランの知り合いかよ。だから、護衛に選ばれたのか?」
スキンヘッドのおっさんが拳と拳を叩き付ける。
「アクスフィーバーってアレだろ? 眼鏡って魔法具をつけた、怖ぇけど色ぽい姉ちゃんのクランだよな」
モヒカンがアクスフィーバーの三人に、な? な? とうざい調子で聞いている。こいつは、ホントになぁ。
「おい! トンガリ、ランは、こんな状態だ。急ぐぞ」
「ち、そうだったぜ」
「ええ! 急ぎましょう!」
「そうだな」
「そうだよー」
「分かったら良いのです。さあ、進むのです」
って、14型がまとめるのかよ!
―2―
「お、痛むのか? 回復魔法かけとくぜ」
モヒカン頭の回復魔法で痛みがひいていく。
「ラン王さま、俺の回復魔法はどうかな? ご機嫌如何かなー」
モヒカンはからかうような言葉をかけてくる。うるせぇよ、でも、お前の回復魔法でじくじくと続く痛みが和らいだぜ。
「おい、魔獣だぜ。トンガリも遊んでないで戦え!」
「うるせー、俺はラン王様のお守りって大事な役目があるんだよ」
「あー、それなら仕方ねぇわー」
「トンガリさん、ランさんを頼みます」
「だから、俺はトンガリじゃねえよ!」
ホント、こいつらは……!
そんな旅を続け、そして、ついにアイスパレスが見えてきた。
「おー、アレが城かー……。お、おい、何だか、思っていたよりも、しっかりした城じゃないか?」
まっさきに反応したのはモヒカンだった。
「おうよ。俺も、もっとこぢんまりとした……商会の件といい、もしかして、この芋虫凄いヤツなのか?」
グルコン……お前。
「やっとマスターの凄さが理解出来たのですか? さすがに知能が低い原住民でも偉業を知れば理解出来るようですね」
14型さんは相変わらずだなぁ。
「はは、確かにこいつは驚いた」
イーラさん、顔が引きつってるぜ。
「ランさん、知らないうちに……僕の想像を超えています」
ウーラさんも顔が引きつっているな。
「えーっと、僕の理解が追いつかないんだけどー、このランさんが、あの城の王様なの? え? え? どういうこと?」
エクシディオン少年は、どういうこと、どういうことと繰り返し呟いていた。
「ま、行けば分かるか」
「おうよー、回復の温泉楽しみだぜー」
おっさん二人は脳天気だなぁ。
門に近付くと、そこには皆が待っていた。
ポンちゃん、ミカン、フルール、ユエ、ファット、その子どもたち、フミコン、スカイ、クニエさん、タクワン、キョウのおっちゃん、ソード・アハトさんたち蟻人族のみんな、大工の棟梁とハウ少年、その他、多くのみんなが俺を待ってくれていた。
「ラン様、ファリンから聞いてお待ちしていました」
ユエ、ただいま。
「ランの旦那……。元気になったら、俺が美味しい飯を作るじゃん、だから、な?」
ポンちゃん、楽しみにしているよ。
「ランさまがいなくなったら、誰がフルールに素材をくれるんですのぉ!」
「そうだよー。俺の冒険者ギルドが傾くって」
ホント、この犬頭たちは……。
「ランの旦那。待っていたんだぜ」
キョウのおっちゃん……。
皆が俺を取り囲む。
「慕われてますね、ランさん」
それを見たウーラさんが嬉しそうに笑っていた。
「おう、この芋虫は幸せ者だよなー」
トンガリ、うっせぇよ。
「わかるがよ、まずは急ぎ、その回復の温泉とやらに行くべきじゃねえのかよ」
グルコンが皆を掻き分けて進む。
「はい、準備は出来ています。こちらへ!」
ユエの案内で地下にある俺が作った回復の温泉施設へと案内される。
「ひょー、これがそうか!」
「すげぇ、豪華じゃねえか!」
大工の棟梁に頼んで本格的に作ったからな。
「まずはラン様の治療が優先です。当分はラン様専用です」
ユエが皆を仕切っている。ホント、頼りになるなぁ。
そして、14型によって俺は温泉に投げ入れられた。おい、扱い、酷くないか。
「マスター、お早いお帰りをお待ちしております」
俺の体からしゅわしゅわと泡が吹き出てくる。そして何か力がみなぎってきた。ああ、これなら治るかもしれないな……。
みんな、ありがとうだぜ。