ゆうしゃジョアンのものがたり
ゆうしゃジョアンのものがたり
辿り着いた村の様子は酷いものだった。至る所から苦痛のうめき声が聞こえる。
「これは酷いでス」
傷付き倒れている村人たち。
「むふー、これはわざと苦しむように……」
シロネの言葉にジョアンは頷く。そして、シトリへと振り返る。
「シトリはここに残って村人の回復を頼む」
「分かったでス。ですが、大丈夫でスか?」
ジョアンは再度、力強く頷く。
「僕は、もう負けない!」
「むふー、それに私とソフィアちゃんもいるのですよー」
シロネが得意気に、ソフィアが不満そうに頷く。
そして、ジョアンたちはシトリを村に残し、半壊した村を作った原因である逃げた魔族を追いかける。
「お前が、村を!」
「クヒヒヒ、お前たちは、さっきの村の生き残り……ではないようだ」
鎌を持った白髪の少女がいやらしく笑う。
「なんで、あんなことを!」
「この僕が! 慈悲深くも命だけは助けてあげたのに、それが不満だなんて! クヒヒヒヒ、ヒトモドキは贅沢だなぁ」
「なぜだ!」
ジョアンが盾を構える。
「クヒヒヒ、ヒトモドキが僕に挑むのか? それは勇気じゃない蛮勇だぜ?」
白髪の少女は笑い続ける。
「ジョアン、無駄」
「お前は、お前は! 紫炎の魔女っ!」
ソフィアの姿を見た瞬間、白髪の少女の姿をした魔族は大きく、その体を覆うように風を纏い始める。
「改めて名乗らせて貰う。僕は災厄を運ぶ白い風、ホワイトディザスター! 紫炎の魔女! いくらお前の魔法でも、この風はやぶれまい!」
「む」
ホワイトディザスターが風に覆われ、1つの竜巻と化す。ソフィアはそれを見て、眉根を寄せる。
「喰らえ!」
ホワイトディザスターの叫びとともに無数の風の刃が射出される。
「任せて!」
それを防ぐためにジョアンが王者の盾を構え、皆の前に出る。
「クヒヒヒ、無駄だ、僕の風の刃は防げないよ」
それでもジョアンは王者の盾を構える。
「知っている!」
そしてジョアンが持っている王者の盾が光輝き始めた。
「僕は、僕は! 学院で大切な友人を守り切れなかった! その時に誓った力、何にも負けない、皆を守り切る力!」
光る盾が無数の風の刃を防ぐ。
「ば、馬鹿な!」
「この光は僕の心が折れない限り消えることはないっ!」
ジョアンが手に入れた前に進むための、皆を守るための勇気。
「だからとて!」
ホワイトディザスターが叫ぶ。
「シロネさん、上だ!」
「むふー、任された」
シロネがジョアンの盾を踏み台にして飛び上がる。そして、その上空からエンチャントして強化した真銀の短剣を投げ放つ。
ホワイトディザスターがシロネの放った短剣を受け、纏っていた風の衣が消える。
「燃える」
それを待っていたかのようにソフィアの放った巨大な紫の炎が降り注ぐ。
「があああ!」
ホワイトディザスターが巨大な炎によって包まれ燃える。そして、そこへジョアンが駆け、手に持った剣で貫く。
「馬鹿な、馬鹿な、この僕が、何で、僕の、手の内がぁぁぁ!」
「お前と戦ったのは二度目だ!」
ジョアンが剣を深く差し込んでいく。
「クソが、クソが! ヒトモドキが! だが、あの村にあった石はすでに転送済みだ! クヒヒヒ、無駄だったな!」
そして、ホワイトディザスターの姿が消え、後には小さな人形だけが残った。
ジョアンはそれを拾い、空を見る。
そして、すぐに二人へと振り返る。
「戻ろう、シトリが待っている」
2021年5月5日修正
ジョアンはそれを広い → ジョアンはそれを拾い