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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
8  二重螺旋攻略
691/999

8-42 ランの最後

―1―


 周囲の動きが緩やかになり、そして世界が凍った。


「ふふふ」

 魔族のアオが笑い、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「まずは、この小憎たらしい星獣から……といきたいのですが、ふふふ、まずは危険な紫炎の魔女から始末しましょう」

 くそ、動け、動け。しかし、俺の体は動かない。


 アオがローブの前を開く。そこには、以前、紫炎の魔女が見せてくれたMPを蓄える筒と同じ形状のものが4本、そして黒く輝く複数の短剣があった。まさか、その筒でMPを底上げしているのか? そういえば、この時間凍結の魔法ってMPの消費が大きいって、紫炎の魔女が言っていたもんな。くそ、準備万端かよ。


「ふふふ、どうせ、今回も体を炎に変えているんでしょう? 前回はそれでやられましたからね」

 アオがローブの裏に刺していた複数の短剣を指に挟むように掴む。

「この短剣は魔鋼で作られているんですよ。ふふふ」

 ヤバイ、ヤバイぞ。くそ、何で体が動かないんだ。分身体の方も動かすことが出来ない。アオが何をしようとしているか見えているだけに絶望感が……。

「さあ、死ね」

 アオが指の間に挟んだ8本の短剣を投げ放つ。それにあわせて時が動き出す。


『ソフィア、しゃがめ!』

 俺の天啓を受け、動き始めた時の中、紫炎の魔女がしゃがみ込む。が、とっさのことに反応が遅れ、その肩に短剣を受ける。

 紫炎の魔女の肩に短剣が刺さった瞬間、その体から紫の炎が舞い上がり短剣を包み込む。しかし、短剣は炎をものともせず紫炎の魔女の体に刺さり続ける。

「燃えない……」

 紫炎の魔女が苦痛に顔をゆがめ、それでも短剣を引き抜き投げ捨てる。


「な! あれを回避する! まるで私の凍れる時の中を見てきたかのような、いえ、そんなはずは……」


――[キュアライト]――


 シトリが癒やしの光を飛ばし、紫炎の魔女の傷を癒やす。

「助かる」

 それでも痛みは消えないのか、紫炎の魔女は苦痛の表情のままだ。


 ええーい、格好良く登場したと思ったのに、これでは――このままでは、どうする、どうする?


『ソフィア、このアオを前回はどうやって倒した?』

 俺は紫炎の魔女に限定して天啓を飛ばす。

『体を炎に変え、包み込み倒したと教えたはずだ。奴め、対策をしてきたと見える』

 紫炎の魔女がこちらへと《念話》を返してくる。ああ、そうだったな。時が止まっていようが、手出しできない状態になれば、MPを減らし続けるだけになるから……ん? 待てよ。

『ソフィア、もう一度、聞くぞ。炎に包み込んで、それは魔法かスキルか?』

 俺の天啓に紫炎の魔女が首を振り、ため息を吐く。

『そんなことを聞いている場合か。魔法とスキル両方だ』

『凍った時の中でも発動していたんだな?』

『虫、お前は凍った時と言うが、私にはそれが見えない。発動していたのか、していないのか分からないが、アレが手出しできなかったのは事実だ』


 もしかして、魔法やスキルは発動出来るのか? いや、でも分身体は動かなかったよな? アレは物質化しているから、別扱いなのか? 紫炎の魔女は凍れる時の中を認識でなかったから、事前発動しか出来なかった? なら、何故か認識出来ている俺なら、そう、俺なら発動出来るんじゃないか?


「何を……、ふふふ、死を前にしてお前たちの崇拝する悪魔にお祈りをする準備でもしているのですか?」

 ああ、完全に勝利を確信した表情だな。


「ふふふ、さあ、今一度動けぬ時の中で死になさい」

 世界が凍り動きが止まる。


 さあ、ここからだ。動けないと思って俺は試していなかった。だが!


――《サイドアーム・ナラカ》――


 予想通り、俺の見えない手は新しく発現した。使える、使えるぞ!


「ふふふ、紫炎の魔女もお終いですね」

 アオは俺が見えない手を作ったことに気付いていない。よし、よし。

「いつでも殺せると分かった紫炎の魔女は後にしましょう。ふふふ、先に! この私の邪魔をしてくれた憎らしい星獣を殺しましょう」

 アオは笑いながら俺の元へと歩いてくる。ほう、俺を優先するのか。好都合だな。


 アオはローブの裏から大きめの短剣を取り出す。そして、それを俺の胸に、魔石のある辺りに突き刺そうと――


――《スイッチ》――


 《スイッチ》スキルを使い分身体に持たせていたスターダストを呼び出す。


――《スパイラルチャージ》――


 そして、そのままアオへと放つ。槍形態のスターダストが螺旋の唸りをあげ、アオを襲う。

「な!」

 完全に油断していたはずのアオだが、俺の行動に気付き、手に持った短剣で螺旋を受け止める。が、螺旋は止まらない。短剣を弾き飛ばし、さらに回転する。アオは身をよじり、大きく後方へと飛ぶ。螺旋は一歩届かず、アオのローブだけを貫いていた。くそ、せっかくのチャンスが……いや、まだだッ!


――[アイスランス]――


 鋭く尖った木の枝のような氷の槍がアオを追いかける。


「くっ」

 そして世界が動き出した。


 アオは自身が着ていたローブを脱ぎ、それを氷の槍に絡みつかせる。ローブが氷の槍を包むように水と化し、その下の氷の槍を砕く。


「お前、なぜ!」

『時を止める魔法は見破ったぞ』

 まぁ、また使われたら厄介だけどさ、これで俺のコトを警戒して使ってはこないだろう。


「虫、良くやった」

 紫炎の魔女が巨大な炎の塊を作り出し、アオへと飛ばす。


「くっ! 我と汝を写す鏡を前に、水鏡」

 アオが生み出した水の壁が巨大な炎の塊を跳ね返す。跳ね返った炎は紫炎の魔女を包み込む。そして、その炎の中で紫炎の魔女は笑っていた。


『お前、何やっているんだよ』

 俺が天啓を飛ばすと、紫炎の魔女は自身の炎の中でふてくされたような顔をした。

『魔法を跳ね返すとは思わなかったのだよ』

 あー、そうだよな。アオって魔法反射の魔法を持っていたよな。となると、魔法特化の紫炎の魔女は……役立たずだッ!


「全ての縁を絶ちし剣を前に、御劔」

 ローブを脱ぎ、水着のような簡単な鎧を着た姿のアオの前に両刃の剣が現れる。剣の放つ光塵がアオの青く長い髪を振るわせる。


「改めて自己紹介をしましょう。魔を導く民の4魔将が一人、水のブルーアイオーン。全てを惑わし飲み込む青き水と知れ」

 ブルーアイオーンが光る剣を取り、水の壁に手を差し入れ、それを盾とする。




―2―


 ブルーアイオーンの剣によって俺の足の1つが消し飛んだ。

「ランさん、回復しまス!」

 すぐにシトリから回復魔法が飛んでくる。こ、こいつ普通に戦っても強えぇじゃねえかよ。


――《百花繚乱》――


 分身体に持たせなおしたスターダストから穂先も見えぬほどの高速の突きが放たれる。しかし、ブルーアイオーンは水の盾を大きくひろげ、それを全て受けきる。

「ふふふ、まずは一人」

 そして、スキルを放ち動けない分身体へと無慈悲な剣が振り下ろされ――ようとして、ブルーアイオーンは転けた。へ?

 見れば、その足に木の枝が絡みついている。そして、ガッツポーズをしているシロネさん。あー、この世界でもガッツポーズするんだ、って、そうじゃなくて。

「くっ!」

 無様に転けたブルーアイオーンはすぐに体勢を立て直し、大きく後方へと飛び、距離を取った。


 魔法が反射されるため、凶悪な攻撃魔法しか使えない役立たずは一人いるが、残りの三人と分身体で戦っていく。


 防ぐことも打ち払うことも出来ない光る剣――真紅妃で受けようとしたら、そのまま切断されてしまい、今は修復中だ――そして、全ての魔法を反射する盾。


 こいつ強い!


 意外と役に立っているのがシロネというのが、もうね。短剣を飛ばして注意をひいたり、さっきみたいに地味な魔法で嫌がらせをしたり……。


 しかし、どれもが時間稼ぎだ。


 俺は玉座の方を見る。


 玉座の方では、何故かジョアンと黒いドレスを纏ったステラが戦っていた。ジョアンはステラの素人同然の剣を盾で受け止め、彼女へ呼びかける。そう、何度も、何度も。


 またも俺にブルーアイオーンの剣が迫る。回復役のシトリをかばっているため、俺はその剣を回避せず受け止める。ぎゃあ、また足を切られた。痛い、痛い、痛いっての。痛いって感覚には慣れない、慣れないんだよぅ。

 それでも、その隙をついて分身体で攻撃する。しかし、これも防がれる。


 と、そこへ鋭い炎の槍が飛んできた。炎の槍は水鏡によって跳ね返され、それを放った術者を燃やしていた。いや、だから、あのね、紫炎の魔女さん、学習しようよ……。


 その間にシトリが回復魔法を使い、俺の傷を癒やす。


 紫炎の魔女は自身の放った炎の中で不満そうに佇んでいた。一番戦力として頼りになると思った人が頼りにならない!


 玉座で剣を振るっていたステラの動きがゆっくりとなり、そして止まった。ステラの瞳から雫がこぼれ落ち、そのまま崩れるように倒れる。それをジョアンが受け止め、優しく寝かしていた。よく分からないけど、何とか決着がついたようだな。


「ラン、待たせた!」

 ジョアンがこちらへと駆けてくる。そして、それと共に何か力が湧いてくる。おう、待ったぜ!

「勝つ!」

 ジョアンの言葉に心の中から勇気が――そうだな、負ける気がしない!


「姫さまを! ふふふ、しかし一人増えたところで!」

 いいや、違うね。ジョアンが戻ってきたことでお前に勝ち目はなくなったんだぜ。


 ブルーアイオーンがジョアンへと迫る。


『ジョアン、そいつの剣は防げない!』

 俺の天啓にジョアンが頷く。


 ジョアンが叫ぶ。


 その叫びに応えるように王者の盾が光に包まれる。光る盾がブルーアイオーンの剣を受け止める。

「な!」

 受け止められるとは思わなかったブルーアイオーンの顔が驚きに染まる。そして、その隙に、ジョアンの持っている剣から伸びた光る刃が、その体を貫いていた。

「終わりだ!」

 光る剣に貫かれたブルーアイオーンが苦痛に顔を歪め、ゆっくりと後退する。

「馬鹿な、馬鹿な。こんな、こんなヒトモドキどもに、この私が、私がぁぁぁ!」


 そして、そこへ追い打ちをかけるように俺の分身体の槍が、シロネの短剣が、紫炎の魔女の魔法が、ジョアンの剣が、その体を貫いた。


「ぐ、が、がぁぁぁ! まさか、まさか、しかし、ただでは負けぬ、負けぬ!」

 しぶとい!

「ふふふ、このニーアの自爆装置を起動しました。この船はお前たちの国への進路を取っています。ふふふ、さあ、逃げなさい。そして、このニーアが、お前たちの国を、悪魔の使いが住む城を吹き飛ばすのを見ているがいいわぁぁぁぁ!」

 ブルーアイオーンの姿が消え、小さな人形が地面に落ちる。ちょっと待て、こいつ最後に……!?


 そのブルーアイオーンの言葉が真実であると裏付けるように地面が揺れ始めた。おいおい、マジかよ。

「ラン!」

 ジョアンがこちらを見る。どうする、どうする?




―3―


 俺はサイドアーム・ナラカでステータスプレート(螺旋)のスイッチを押す。そして分身体の顔をそこに近づけ喋る。

「フミコン、聞こえるか? ブルーアイオーンが、この星渡る船ニーアの自爆スイッチを押したようだ。何か手はないだろうか?」

 そう、魔族のフミコンなら、何か知っているんじゃないか。

「ラン王、そうですか。あやつを……いえ、そういう場合じゃないようですのう」

 そうそう、ヤバいんだって。

「動力室に手動制御装置があるはずですぞ。そこに辿り着ければ、なんとか……」

 そうか。


 俺は皆を見回す。


 俺を見返し頷いているジョアン。

 そして、ジョアンが支えるように抱きかかえたステラ。

 ふてくされた顔をしている紫炎の魔女。

 杖を持っておろおろとしているシトリ。

 何故か、こちらを心配そうに見ているシロネ。


 そうだよなぁ。


『自分は、このノアルジと共に動力室へと向かう。そこに辿り着ければなんとかなるかもしれない』

「ラン! それなら僕も!」

 ジョアンが真っ先に声を上げる。

『ダメだ』

 そうだ、ダメなんだよなぁ。

「むふー、ランさん、どうするつもりですか!」

 シロネ……。


『この中で一番、足が速いのが自分だ』

 そう、《飛翔》スキルが使えるのは俺だけだもんな。

「無謀でス!」

 まぁ、手動制御装置とやらで何とかすれば大丈夫だろう?

「むふー、ランさん、本気で言っているのですか?」


 俺は芋虫の顔だが、それでも笑顔と思えるような顔を作る。

『シロネ、心配するな。知っているか? 主人公は死なないんだぜ?』

「むふー、そんな気持ち悪いジャイアントクロウラーの顔で言われても説得力がないんですよ」

 悪かったな。


『さあ、行け! 時間はないはずだ。外では神獣のエミリオが待っている。皆はエミリオに乗って脱出するんだ』

「ラン、分かった。生きて再会しよう!」

 ジョアンが俺のまん丸お手々に自身の拳を当てる。ああ、もちろんだ。

「待ってまス!」

 シトリも頷く。

「虫、任せた」

 紫炎の魔女はいつもの調子で偉そうに頷く。


 シロネは無言だ。


 ジョアンが気絶したステラを抱え走る。そして、皆が艦橋から去って行く。


 ふぅ。


 何だろうな。


 俺、凄い格好つけちゃったよなぁ。


 まぁ、何とかなるよな!




―4―


 分身体を背中に乗せ、《飛翔》スキルで飛ぶ。

「フミコン、道案内を頼む」

「ラン王、転送の力をアテにしているのですかな?」

 このコンパクトか。

「そこは魔族の力で転送の力を封じた場所ですぞ。今ならまだ、外に……」

 はぁ、やっぱりか。なんとなく、そうなんじゃないかなぁって思ったけどさ、やっぱりか。操作してコンパクトを開いてぴょーんっとって訳にはいかないっと。


 そりゃそうだよなぁ。魔族の本拠地みたいな感じの城だもんなぁ。こういうのは防がれるよなぁ。


 俺はそれでも動力室を目指して飛ぶ。


 ああ、こういう時に14型が居てくれたらなぁ。あいつ、機械には強いしさ。


 フミコンの案内の中、揺れる船内を飛ぶ。


 そして、ついに動力室が見えてきた。

「フミコン、どうすればいい?」

 砂時計のような大きな物体が放電している。

「動力部の横には手動起動のための簡易キーボードがあるはずじゃ。取り付けられたスイッチを」

 俺は放電を避けながら砂時計のような物体を調べる。そして、取り付けられたスイッチを発見する。

「見つけた。今から押す」

 分身体でスイッチを押す。すると――何かの音はするが、何も起こらない。

「何も起こらないぞ!」

「そんなはずは無いですぞ。空中にキーが見えるはずじゃ」

 いや、そんなモノは……。


 ……。


 まさか、俺には見えないのか?


 そういえば、14型が操作している時も、フミコンが操作している時も見えなかったよな?


 俺には見えないのか!


 と、その瞬間、大きな警報が鳴り響いた。


 そして、巨大な丸い球体が2つ現れる。まさか防御装置……だと。こんな時に……。


 どうする、どうする?


 俺は動力装置を見る。

「フミコン、よく聞いてくれ」

「ラン王、何をされるつもりじゃ」

 これしかないか。


「自爆しようとしている、この船だが、今ここで動力部を破壊したら、どうなる?」

「それは……自爆するための力を失い、軌道も変わる……いや、ダメですぞ。それはラン王!」

 そうか。

「しかしな、今から外に出ようにも、もう間に合わないだろう?」

 ああ、もう。


 俺は分身体からスターダストを受け取る。そして、分身体には代わりに金剛鞭を持たせる。


 さあ、俺が持ちうる最高の火力で吹き飛ばすぜ!


 俺は、分身体と共に、ありったけの力を、その、動力部に……!


 動力部は俺の力に耐えきれず、爆発する。


 そして、俺は光に包まれた。

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