8-39 魔族との戦争開始
―1―
「おい、ジャイアントクロウラーが歩いているぞ」
「誰かのテイムした魔獣だろう」
誰がテイムした魔獣だ! って、まぁ、ここでコトを荒立てても良いことがないからな。気にしない、気にしない。
と言うわけで、キュイキュイ鳴いてます。
きゅいきゅい。
「マスターを……」
だから、14型さん、その凶悪な篭手を構えるのは止めなさい。俺がせっかく無害な魔獣のふりをしているのに、それが無駄になるじゃないか。
大規模な魔獣の行軍、その先頭には魔族と魔人族の姿が見えるという。そんな訳で神国の兵士や傭兵を集めて行軍、もうすぐ接敵――それが現在の状況だ。
「おい、そこの! 識別布をつけろ。特にテイムした魔獣には忘れるな。乱戦時に間違えて攻撃されても知らないぞ!」
神国の兵士ではなく、傭兵と思われる、とっぽい兄ちゃんが俺の腕に識別布を巻いてくれた。
とりあえず俺はキュイキュイと鳴いていよう。
きゅいきゅい。
「にしても、上半身を起こして歩き、さらに人のように武装をしているなんて、変わったジャイアントクロウラーだな」
「ヘルクロウラーを騎乗用として育てて使っている騎士もいるくらいだ。こんなのがいてもおかしくないだろう」
「変わったランクアップをした変異種かもしれないな」
きゅいきゅい。
って、だから、14型さん。無表情なまま相手を射殺しそうな視線を送るのをやめてください。これから戦争になるんだからさ。
魔獣の数は地平線を埋め尽くすほど、更に先頭には魔族……だもんな。どう考えても、これが本命、魔族の総力決戦って思うよなぁ。
しかし、これすら陽動。
本命は、この大群を陽動とし、空飛ぶ城で神国中枢へと迫っていた。それに気付いたセシリア女王は足の速い俺に救援要請。俺は、この前線部隊の隊長に伝言、それと、この大軍の相手って訳だ。
この魔獣の大軍をサクッと殲滅して、とって返し、急襲を仕掛けている空飛ぶ城を挟み撃ちって寸法さ。
その空飛ぶ城には勇者ジョアン、紫炎の魔女ソフィア、森のシロネ、聖女シトリが向かっている。まぁ、ジョアンたちなら安心して任せられるからな。にしても、ジョアンが勇者……か。確かにあいつは、どんな時でもさ、何度もで立ち上がる勇敢なヤツだったけどさ、勇者って呼ばれているのを聞いて驚いたよ。
しかし、魔族の目的が読めないな。こんな魔獣の大群を囮にしてまで、神国に攻め入る理由はなんだ? 今更、神国に攻めても、何も得られる物なんて無いと思うんだが……。
―2―
14型が、王宮で見かけたことのある豪華な鎧に身を包んだ若騎士に、セシリア女王からの書簡を渡す。
「確かに受け取った」
この人が、この前線の将軍って感じなのかな。
若騎士が手渡された書簡に目を通す。
「ふむふむ……むむむ」
何やら難しい内容なのか?
「ラン殿」
若騎士が俺の方を向く。
きゅいきゅい。とりあえず鳴いて誤魔化しておく。
「今日はここで陣を張ります。明日には魔族との戦いになるでしょう。そのお力、期待しています」
きゅいきゅい。
「マスターに任せるのです」
そして、何故か14型が得意気だ。
「にゃ、にゃ」
それを見て、何故かエミリオが腹を抱えて笑っていた。こいつら、緊張感がないなぁ。
そして、翌日。
陣形を整えている俺たちの前に、魔獣の群れが現れた。そして、その中から、グリフォンに乗った男が、一人、こちらへと進み出てきた。男はキラキラと銀色に輝く長いマントを纏っている。いかにも大将って感じの目立つヤツだなぁ。
鑑定は……、
【鑑定に失敗しました】
この男が魔族か。
その男が大きな声で叫ぶ。
「ヒトモドキども! 聞こえるか!」
何かの力で声を大きくしているのか、声は俺たちの方まではっきりと通っていた。
「こういう戦場では、名乗りをあげるのが礼儀だからな! それが、いくら蹴散らすだけのヒトモドキが相手だとしてもな!」
いやぁ、あの単騎で突出してきたお馬鹿な魔族に、いきなりアイスコフィンやアイスストームをぶちかましたらダメかなぁ。
ダメかなぁ!
「俺の名前はリフリッジレイター。さあ、恐怖に震えろ!」
男の言葉に合わせて、魔獣の群れの中から手に筒を持った男たちが前に出てくる。何だ? 何をするつもりだ? 沢山、魔獣を揃えたのに、そちらをけしかけてはこないんだな。
男たちは膝をつき手に持った筒を構える。まさか、銃か? そんなモノが、この世界にあったのか?
「魔族の言葉に惑わされるな! 突撃!」
若騎士の言葉に前線が動く。
「撃て」
リフリッジレイターの言葉に合わせて、炸裂音と共に筒から弾が発射される。やはり銃か。
「そのような豆粒を撃ち出す道具で何とかなるとでも!」
兵士たちは銃弾をモノともせずに駆けていく。そりゃそうか。この世界、SPっていう魔力で作る盾に体が覆われているから、生半可な攻撃じゃあ、傷を負わないしさ、ちょっとした攻撃なら回復魔法で治るし、銃なんて、脅威にならないよなぁ。魔族は何がしたいんだ?
すると、前を進んでいた兵士たちが、突然、苦しみだし倒れた。へ?
「クヒヒヒヒ、効果覿面だなぁ、おい!」
何だ? 銃弾に毒でも入っていたのか?
『何をした!』
とりあえず天啓を飛ばし聞いてみる。
「ハハハッハ、お前らがクラスチェンジとやらに使っている石、知っているよなぁ!」
よし、釣られて語り出したぞ。まぁ、秘密を知っていると喋りたくなる気持ち、分かるぜ。が、そんなんじゃあ、小者扱いされるだけだぜ!
「お前ら、ヒトモドキの体を造り替える黒い石だ! そいつを加工して弾にしたのさ! お前らは強制的に体を造り替えられ、死に至るって訳よ!」
何だと? 魔族がクラスモノリスを集めていた理由って、コレかよ!
「お前らの中にはよー、その力を鍛え上げて、恐ろしい力を身につける奴も居るからな! そんなヤツでも、これなら一撃! お前ら、ヒトモドキが必死に鍛え上げたものが無駄になる気持ちはどうだ? 最高だろう!」
魔族でも鍛えた人は脅威――か。
確かに一撃必殺は怖いな。
が、それも俺が居なければ、だな!
ああ、今こそ俺の出番だぜ!
2018年2月7日修正
魔族と魔人族の姿見えるという → 魔族と魔人族の姿が見えるという