8-37 むいむい検知薬だ
―1―
槍形態のスターダストを引き抜く。
――《魔石精製》――
出来たてほやほやの魔石をッ!
――《リインカーネーション》――
その体にぶち込む。そして、俺の前にいる中年の女性が、そのまま倒れ込んだ。俺の魔石は……ちゃんと馴染んでいるよな?
中年の女性は倒れ込んでいるが、安らかな寝息を立てていた。
よし、成功。さて、と次に――と、そこで俺の手に持っていた真紅妃が震えた。まるで、何故、自分を使わないのかとでも言っているかのようだ。いやいや、下手に真紅妃を使うと相手の体内の魔石を喰らって、その後に変な影響が出るかもしれないじゃないか。
とりあえず周囲の魔素を吸収してMPを回復、回復っと。そのままステータスプレート(螺旋)に取り付けたスイッチを押し通話する。
「フミコン、終わったぞ」
「ひょひょひょ、ラン王も、その姿にならねば、会話も出来ぬとは……不便ですのう。まぁ、その姿を見せられた時は、わしも驚かされたものですがのう」
はいはい。そうなんだよなぁ。天啓では通話出来ないから、結局、この通信機を使うには《変身》スキルを使って自分の口で喋らないとダメだもんなぁ。便利なのか、不便なのか……。
「後、どれくらいだ?」
「後、3というところですかのう。神国の方は、ラン王の考えているとおり情報紙を配ったり、食料の炊き出しを行ったり、探索範囲を広げていますでのう。そちらは調べ終えた大森林を頼みますぞ」
《変身》スキルを使った、今のうちに全部、終えてしまうか。
「エミリオ!」
「にゃ!」
エミリオが神獣化する。
さあ、羽ばたけ。よし、このまま大森林の魔石を入れ替えられた人々の解放に向かうぜ!
―2―
『フミコン、魔族も体内には魔石があるのか?』
俺の天啓にフミコンが首を横に振る。
「それを知っているとは驚きじゃのう」
ああ、そういえば、この世界の人々は自分の体の中に魔石があることを知らないんだったな。
「わしら、魔族の体内にあるのは、普通に人としての心臓じゃよ。いや、長くこの姿を続けるうちに魔素が体に馴染み、体内に魔石を持っておるがのう。しかしのう、それはあくまで、この世界で魔法を使い、力を使い、技を使うための補助だからのう。お主らのようになくなったら、こわ……死ぬといったものではないのじゃよ」
なるほど。あのグロテスクな肉塊の中に心臓があるのか。
「まぁ、この依り代に、精製された体内の魔石を入れておるからのう、それを壊されれば依り代は終わるからのう、そういう意味では、この依り代なら、お主らと同じかもしれんのう」
ほー、そうなのか。
と、本題に入るか。
『フミコン、魔族の中には――魔族のアオは、人の体内にある魔石を入れ替え、意のままに操る力を持っているようなのだが、何か知っていることがあれば教えて欲しい』
そうなんだよなぁ、その問題も解決しないと、なんだよな。
「魔石を入れ替えじゃと……うーむ」
フミコンが腕を組み考え込む。
「入れ替えた魔石を操作すると言うことであれば、じゃのう、その糸をたぐることで、入れ替えられた者は見つけられるかもしれんのう。それと……」
それって出来るのか? それが出来るなら全然違うよな。
『それはどうやるのだ?』
俺の天啓を受けたフミコンは難しい顔をする。
「この世界には、のう、魔素という力の元が流れておるのじゃが、まずはそれが見えねば話にならんのじゃよ」
へ? 俺、それ見えるぜ。
『それが見えれば分かるのだな?』
「そうじゃのう。その中の赤い魔素を集めることで見えてくるんじゃがのう」
へぇ、そうなんだ。ちょっと試してみるか。
――《魔素操作》――
《魔素操作》スキルで周囲の魔素を赤い風の魔素に変えていく。
「む、おぬし、何を」
なるほど、フミコンには、いや、魔族は魔素が見えるってのは本当なんだな。これが見えるのって俺や14型、それに魔族ってことになるのか。
「なるほどのう、ラン王はただ者ではないようじゃのう」
フミコンの説明が続く。
「この世界の属性というものには隠れた力があるのじゃよ。わしが知っているものでは、例えば火は再生、そして風は探求といったようにのう。その力を使って、青へと繋がっている糸をたぐるのじゃよ」
へぇ、そんな力があるのか。
まぁ、やり方はイマイチ分からないが、今、ここにさ、魔族のアオによって魔石を入れ替えられた人が居るわけじゃ無いしな、後で確認しよう。
【シークレットスキル《風の探求者》が開花しました】
へ?
――《風の探求者》――
周囲にただよっていた赤い魔素が俺の周りに隠された情報をひもといていく。俺の体から、魔石があった部分から、今にも消えそうな糸が伸びているのが見えた。まさか、これか?
そのまま俺は赤い風となって繋がった糸を辿っていく。糸の上を進むうちに、周囲に、色々な方向から集まってきている糸が見えてきた。そして、その無数の糸の先、束ねられた糸の先に、魔族のアオの姿があった。無数の糸はアオの指に繋がっている。
ここは何処だ?
何処かの城の一室? 深くローブをかぶったアオの隣に居るのはステラ、か? と、そこで、アオがこちらへと振り返る。
「誰だ、見ているのは!」
その瞬間、繋がっていた俺の糸が切れた。
……。
これは俺への糸が残っていたってことか?
いや、それよりも、だ。あの集まっていた糸が、入れ替えた魔石を操作するための糸ってことか? 何本あった? 思い出せ。
全部で39か? アオの指1本につき4本だったから、間違いないはずだ。いや、でもアオ自身が、その数だとしても、その部下も同じコトをやっていたはずだよな? 39人解放したら終わりって訳じゃないか。
「ラン王、どうしたのじゃ?」
『自分にもアオの糸が残っていたようだ。それを辿りアオの元へと行ってきた』
「なんと!」
フミコンが驚きの声を上げる。まぁ、俺自身も驚きだけどさ。これでアオの魔石を入れ替えた人々を探す手がかりは出来たと思うんだよな。でもさ。
『アオ以外の魔族も、人の魔石を入れ替え、操っている可能性がある。何か入れ替えた人を見つける方法はないだろうか?』
「ふむ。わしもその方法を考えてみたんじゃがのう。入れ替えられた者は普通の魔石とは違う反応を示すはずじゃ。その反応を分かるようにする、何か、そんなものを造ってみようと思うのじゃ」
へ? それが出来るのか? フミコン、万能過ぎないか?
「が、それを、その薬をつけた物を広めるのは、その反応を、先程、青へと辿っていったように探知していくのは、ラン王の役目じゃよ」
な、なるほど。
そして、フミコンが完成させたのが魔石反応検知薬だった。それを染みこませた紙、混ぜた食べ物等を作り、広めていく。その反応を《風の探求者》スキルで地道に追っていく。
うん、なんというか俺の作業が増えただけじゃん!
まぁ、でもさ、人を意のままに操る魔石の入れ替えをそのままにしておくわけにはいかないからな。地道な作業でも頑張るしかないか……。