8-35 フミコンが仲間に
―1―
「デバイス」
フミコンの言葉に反応して……何も起こらなかった。何も起きないじゃん!
しかし、フミコンには何かが見えているのか、一つ頷くと何も無い空中に指を伸ばし叩き始めた。何だろう、エアーピアノ? もしかして、俺には見えない何かが存在しているのか?
「ほっほっほっ、もう終わるぞい」
その言葉と共に室内に灯りが灯る。うぉ、まぶしい。
「おー、明るくなったのう。これで、やっと……お主、灯りの下で見ると、キモイのう」
いやいや、本体があんな姿のフミコンに言われたくない。と、よく見れば、14型さんが必殺の左を放とうと構えているぞ。いやいや、ここでフミコンの依り代を壊したら大変なことになるからな、やめるんだ。
「これで、この城も灯りに困ることはないじゃろうて。ただしのう、夜の間は消さしてもらうがの」
『何故だ?』
「この城を動かしているのは、わしの魔力でのう。さすがに夜の間くらいは休ませて欲しいのう。年寄りはいたわるべきなんじゃよ」
あ、そうなんだ。そう言えば、電池代わりとか言っていたもんな。なるほどなー。
『それはすまない』
「よいのじゃ、よいのじゃ。じゃから、わしを充分、感謝するのじゃぞ」
はいはい、感謝してます。これで暗くて困ることが無いもんな。
それで、だ。一応、聞いておくか。
『その沢山あるボタン類は何だろうか?』
「浪漫じゃよ」
フミコンは得意気だ。何だろう、押しては駄目なボタンしか無いような、そんな気しかしないぞ。
『なるほど。押したら、この城が巨大ロボに変形するのだな』
「するぞ」
俺の天啓を受けたフミコンが満足そうに頷いていた。へ?
「しかし、お主、ロボを知っているとは、面白い存在じゃのう」
するのか。マジで、するのか。それで何と戦うんだよ。巨大な竜とかか?
「まぁ、嘘なんじゃがな」
嘘かよ! 本当に変形するかと思ったじゃないか。
はぁ、この爺さん、疲れるなぁ。
『と、ところで、フミコン老、あなたはこれからどうするのだ?』
俺の天啓にフミコンが腕を組み考え込む。
「そうじゃのう。この依り代の体で世界を見て回るのも面白そうじゃのう」
そういえば、魔族ってさ、結構、世界各地に現れていたけどさ、あれ、全部、依り代なんだろ? 活動範囲広いなぁ。本体が離れているのにタイムラグ無く、操作出来るのかよ――いや、俺の分身体みたいに考えてはダメか。もしかすると、この依り代の中に、魔族の本質的な何かが入り込んで、こちら側が本体みたいになっているのかもしれないしな……うん、まぁ、考えてもよく分からんな。
「それも考えたんじゃがのう。それよりも、わしは、ここの者達が気に入った。ここの者達に協力しようかと思うのじゃが、どうかのう?」
『いいと思うぞ』
うん、いいんじゃないかな。
「ほっほっほっ。そうか、そうか。なら、ここの一番偉い者のところに案内して欲しいのう。そこで許可をもらうとするかのう。まさか、そういった者がおらぬとは言わんじゃろう?」
えーっと、あ、はい。
「マスター、だから、私が潰そうとしたのです。この者は、マスターのお力が見えぬ愚か者と見えます」
改めて14型さんが凶悪な篭手を、その手にはめ、構え始める。いや、それ洒落にならないから、フミコン、死んじゃうから。
『ここのトップは自分だ』
俺の天啓を受けたフミコンは大きく口を開け、間抜けな顔で驚いていた。
「いやいや、そういう冗談は、のう」
まぁ、そうだよな。何で俺が、って、俺自身が思うもんな。帝国の元トップだった、ゼンラ少年もいるのにさ。何故か、キョウのおっちゃんやソード・アハトさんも俺を推すしさ、それにノアルジ商会の連中も俺がトップで当然って感じで行動しているしさ。あいつら、絶対、面倒ごとが嫌なだけだよな。
ま、俺は俺で、トップらしい面倒なことは何もやってないんだけどな!
「まさか、本当……なのじゃな?」
フミコンがわなわなと一歩、後ろにさがる。
「これは失礼した。わしはフミコン、改めて、ここの……えー、なんじゃ」
『フミコン老、自分はラン・ノアルジ、この姿の時はランで頼む。このような姿をしているが、この国、グレイシアを治めている者だ』
「ひょひょひょ、これでこそ、新しい時代というものじゃ。ラン王、よろしく頼むぞい」
いや、あの、国王では、ないんだがな。何というか、王政でもないし……。
まぁ、何にせよ、フミコン、よろしく頼むぜ。
―2―
新しく俺たちの仲間となった魔族のフミコンはフルールやスカイとつるんで何やら怪しい物を作っている。さらに、だ――フルールの弟子になっていた子どもたちの一人がフミコンの師事を受けているようだ。世間では魔族と敵対して戦争が起きているのに、その敵対してる魔族に教えを受ける者が出てきているんだから、この国は、俺の国は特異だよな。まぁ、俺はいいことだと思ってるけどさ。
親方に頼んでいた俺のお風呂も完成。が、猫人族や犬人族の方々からの評判は余り良くない。ま、まぁ、全身が毛で覆われている人たちの評判が余り良くなくても、それ以外からの評判は悪くないから、このまま継続するけどな!
ファットのネウシス号だけではなく、他の船も建造中。さすがにファットの船だけで交易するのは無理があるからな。いくら遅くても他の船は必要だ。
色々と忙しい毎日が流れていく。
この城での生活も安定して来たので、そろそろ八大迷宮『二重螺旋』に挑もうかと考える。よく考えたらファットの船を使わなくてもさ、神獣化したエミリオに乗れば、挑戦することは出来そうだもんな。
と、そんなことを考えている時だった。
「ラン王、ついに完成したのじゃ!」
得意気なフミコンがやって来た。何というか、ラン王って言われると卵の黄身みたいで微妙です。それに俺を王って呼ぶのフミコンだけだしさー。
で、何が完成したんだよ。
「通信君じゃ!」
通信君? 何というか、絶妙に酷い名前だな。
「これがあれば、離れたところと会話が出来る優れものじゃ! スカイの持っていた通信機を参考にしたのじゃよ!」
へ? マジで? この爺さん、通信機を造ったのかよ! いや、確かにあれば便利だと思ったけどさ。
う、嘘だろ……?