8-34 偽りのヒトとして
―1―
フミコンを連れて玉座の間へと入る。と、魔法のカンテラの明かりの下、ちょうどユエと子どもたちが居たので、フミコンが着られそうな服を見繕って欲しいと頼む。ユエは少し不思議そうな顔でこちらを見ながらも頷き、置いていた魔法のカンテラを持ち、遊んでいた子どもたちを連れて、部屋の外へと歩いて行く。
『さてと、ユエが戻ってくるまでの間、ここには自分とお前しかいない』
「マスター、記憶領域が極小で忘れてしまっているかもしれないのですが、私も居るのです」
はいはい、14型さんは頭数に入っていないからね。
「なんじゃ、やはり、わしをいたぶろうというのか。なんと、酷いヤツじゃ!」
フミコンはこちらを見て、ひょひょひょと気持ち悪く笑っている。おいおい、この爺さん、実はこの状況を楽しんでないか? 絶対、楽しんでるよな?
『教えて欲しい。魔族は何を目的に動いてるのだ? 何故、こちらをヒトモドキと呼ぶのか?』
俺の天啓を受けたフミコンから気持ち悪い笑い声が途絶えた。
「魔族の目的のう……」
そして、フミコンが、射貫くかのような鋭い眼光で俺を見る。
「星獣が、それを言うか、聞くか」
いや、そう言われましても……。
「わしらの目的、その根底にあるのは、生きたい、死にたくない、じゃな」
いや、それは生き物だったら、みんながそうなんじゃないか? そういうことじゃなくて、だな。
「なんじゃ、納得出来ないようじゃのう。暗闇で見えずとも、不満そうな感じがこちらまで伝わっておるぞ」
納得というかだな……。
「まぁ、そうじゃのう。この狂った世界を終わらせてやる、そう信じて行動しておる者もおるじゃろうな」
俺にはさ、最初から、こういう世界だったって感想しかないからなぁ。この世界が、間違っているのか、以前はどうだったかなんて、分からないもん。だから、狂っているから終わらせるって感覚が分からないな。
「そして、ヒトモドキについてかのう。うーむ」
何だか、フミコンは、この話題を口にはしたくなさそうだ。
「この世界、いや、この女神とやらの世界にはのう、人はいないんじゃよ」
人が居ない? いやいや、意味が分からないぞ。
「しいて言えば、わしらが人だったものじゃろう」
人だったもの? いやまぁ、確かに魔族の鑑定の結果は人だったけども……。
「が、経緯はどうあれ、力を求め、人としての姿、考えを捨てたわしらが、今更人を名乗るのもおかしかろうて」
フミコンは暗く、笑う。
「生まれてすぐ――いや、造られてすぐ、そんな時のお主らは、意志を持たぬ、それこそ、女神とやらの命令に従うだけの人形のような存在じゃった」
やはり、ウルスラが言うように、この世界の人って、女神が造った存在なんだな。
「それが、いつしか意志を持つようになり……」
だから、人の形だけを真似しているからヒトモドキ、か。でもさ、俺には、皆が、そんな、魔族が言うような命令に従うだけの人形には見えないよ。
「ラン様、とりあえず適当な服を持ってきました」
と、そこでユエが戻ってきた。
「きまひたー」
「きたー」
おお、ちびたちも一緒だな。にしても、もう喋れるのかよ。成長するの、早いなぁ。
「そうじゃのう、お主らは、もう新しい人じゃよ」
フミコンがちびっこたちをみて独り言のように呟いていた。
『ユエ、助かる。それとフミコンは裸ゆえ、後ろを向いててくれると、さらに助かる』
「は、はい」
ユエが後ろを向き、しゃがみ込む。そして、その背中にちびっこがよじ登り始めた。この子ら、ホント、アクティブだなぁ。
『14型、降ろしてやってくれ』
俺の天啓を受け、14型がフミコンを地面に降ろす。そこで《魔法糸》も解除する。
『早く着替えるといい』
「すまんのう」
フミコンがいそいそと着替え始める。
「ラン様、彼は何者なのですか?」
ユエが後ろを向いたまま、こちらに聞いて来た。まぁ、気になるよな。
『この者はフミコンだ。若く見えるが、実際は結構な歳なので、そのつもりで対応して欲しい』
俺の天啓に、フミコンが「あまり年寄り扱いして欲しくないのう」と呟いていた。わがままだなぁ。
『フミコンは、この城の技術者だ。これから彼の知識を借りるところだったのだ』
「そうだったのですね」
そうだったんですよ……多分。
―2―
着替えたフミコンがスキップをしながら玉座まで進む。
「ここが、下に降りる装置になっておるのじゃ」
そして、玉座をくるくると回す。あ、それ、そんな風にまわるんだ。
「ほれ、充電したから動くぞ。早う、早う」
俺と14型も玉座へと近寄り、そのまま手をかける。
「下へまいります、じゃ!」
床が開き、俺たちを乗せた玉座が下へと降りていく。
……。
『フミコン、この仕掛けを作ったのは誰だ? 何というか無駄ではないか?』
俺の天啓を受けたフミコンが指をふる。
「わかっておらん! ダメじゃのう、こういうのは浪漫じゃよ、浪漫」
さいですか。
フミコンが玉座から飛び降りる。
「完全に落ちてるのう。鍵は……あるはずもなし。手入力かのう」
そして、そのまま室内をせわしくなく動き回る。
「マスター、これを動かすのが目的なのですか? 言ってくださればいくらでも私が動かしたのですが」
はい、そうですか。
「そこなお嬢ちゃん、あんたらには機械の扱いは無理だと思うんじゃがのう」
「何を言うのです。この戦闘メイドである私にかかれば、このような機械お茶の子さいさいなのです」
何故、そこで張り合う。にしても、お茶の子さいさいって、俺、凄い久しぶりに聞いたよ……。
「待て、もしや、お嬢さん、機械人形か!?」
「いまさら、何を言っているのです」
14型さんが偉そうだ。
「こんな精巧な機械人形じゃと……。もしやサーティンナンバーズか。いや、しかし、あれは……」
うん? この爺さん、まさか14型を知っているのか?
『フミコン老、14型を知っているのか?』
俺の天啓を受けたフミコンは首を横に振っていた。
「いや、わしの勘違いじゃ。しかし、優れた機械人形じゃのう。人と区別がつかぬ。わしでもみぬけなんだぞい」
「当然なのです」
だから、14型さんは、何で、そんなにさ、無駄に偉そうなんだ。
2021年5月7日修正
こちらを身ながらも → こちらを見ながらも