8-33 色々と教えて貰う
―1―
「どうしたのじゃ?」
全裸の少年がそんなことを言っている。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし少年をぐるぐる巻きにする。頭だけ出した蓑虫の完成だぜ!
「ほっほっほっ、いきなり酷いのう」
まずは鑑定だ。
【鑑定に失敗しました】
やはり、か。
『お前は何者だ』
俺の天啓を受けた少年は笑うのを止めた。
「もう、分かっていると思うんじゃがのう」
そうだろうさ。それでもあえて聞くんだよ。
『もう一度、聞く。お前は何者だ?』
俺の天啓に蓑虫状態の少年が大きく頷く。
「わしの名前はフミコン。同族からは人形狂いのフミコンと呼ばれておる」
そして、少年が唇の端を上げ、ニヤリと笑う。
「お主たちからは、魔族と呼ばれている者よ」
やはり――そうか。
だから、森人族のクニエさん、犬人族のフルールやスカイが反応していたんだな。蟻人族のソード・アハトさんが反応しなかったのは……もしかして後天的に発生した種族だからか?
ウルスラは女神が実在している――いや、していた、と言っていたよな。もしかすると森人族や犬人族、それに星獣、か、それらは魔族と敵対していたという、その女神が関与した種族なのかもしれないな。
『何故、魔族がここにいる?』
「ここは魔族の城のはずじゃがのう。それなら魔族がいてもおかしくなかろう?」
た、確かに。
「ほっほっほっ、冗談じゃ。お主が知りたいのはそういうことではないのじゃろう?」
へ?
「わしは、こちら側に取り残された最後のに……いや、魔族じゃよ」
取り残された?
「そして、わしの5人の弟子の一人、レッドカノンによって、この城に幽閉された、哀れな老人じゃよ」
魔族のフミコンは少年の姿のまま、そう言った。老人?
『何故、幽閉されたのだ?』
「それは、わしがお主ら、新しい人の味方をしたからじゃのう。それで、この城の電池代わりに幽閉されたのじゃよ」
人の味方をした魔族?
『お前の後ろにある、その醜悪な肉塊は何だ? そして、お前は何処から入ってきたんだ?』
分かってる。俺でも分かるさ、でも、一応、俺の予想通りなのか、本人に聞いておかないとな。
「醜悪とは酷いのう。それが、わしじゃよ」
やはり――そうか。
「この体は、お主たちから譲り受けた依り代を使い、作った仮初めの物に過ぎぬよ。まぁ、傷んでいて少年の姿を作るのがやっとだったんじゃがのう」
これが、魔族か。
「この依り代、レッドカノンの物じゃろう?」
ああ、そうだ。俺が、俺とミカンが倒したよ。でも、依り代ってことは……。
『フミコン、お前が言っていることが確かなら、倒したと思ったレッドカノンは何処かで生きていると言うことだな?』
俺の天啓にフミコンが頷く。この醜悪な肉塊と同じような姿で何処かに生きているというのか。それこそ、八大迷宮『世界の壁』の向こう、永久凍土に。
「そうじゃのう。じゃが、依り代から強制的に追い出されれば、それはかなりの苦痛と激痛を本体にもたらしていることじゃろう」
なるほど。無駄では無かったという訳か。しかし、それでは、次に会った時は怒り狂っているだろうな。まぁ、俺の方が何倍も怒りは強いんだがな!
「しかし、暗いのう。こうも暗いと、殆ど何も見えんのう。お主らは、何故、灯りを点けないのかのう」
そういうや、灯りを持ってきていないな。ここに居るのは、この魔族のフミコン、それに未だ気持ちよさそうに眠ったままの14型と俺だけだもんな。昨日来た時みたいに蟻人族の方々やクニエさんたちが居るわけでもなし、俺だけなら灯りは必要無いからな。
『すまないが、灯りを持ってきていない』
「いや、そうではなくのう……、いや、そういうことか。なるほどのう」
フミコンが一人で納得している。
『何がなるほど、なのだ?』
「ちょっと前に、のう。突然、拘束が解かれ、魔力の吸い上げもなくなったのでのう、おかしいと思ったのじゃよ」
それが?
「お主ら、この城のメインシステムを破壊したのじゃな。いや、お主らにメインシステムと言ってもわからぬか」
あー、もしかして、あの玉座の下のシステムのこと? それなら壊してないぞ。
『いや、エラーが出ていたので初期化しただけだ。しかし、その後、起動しなくなったのだ』
「なんと! 壊すだけのお主らかと思っておったが、わしの知らぬ間にお主らの文明も進んだのじゃな」
いや、あのう、多分、見つけたのがミカンちゃん辺りだったら、よく分からないから、って感じで壊していたと思います。
「わしをメインシステムまで運んでくれれば、何とかしてみせるぞ」
ふむ。この少年の姿をした爺さんな魔族、フミコンの言うことを信じて良いものかどうか。連れて行ったら、何かしでかして大変なことにって、ありそうじゃないか。
『何故、協力する?』
「簡単じゃよ。殺されたくないからじゃ」
なるほど。
「この拘束を解いて貰えんかのう」
『逃げないか?』
「逃げん、逃げん。逃げようにも、依り代が逃げたところで、本体は動けんからのう。本体が殺されてしまえば終わりじゃよ」
な、なるほど。
仕方ないな。
俺は14型のツインテールを引っ張る。
『14型、出番だ。お前に運んで欲しい物がある』
立ったまま寝ていた14型が、飛び跳ねるように跳ね起きる。
「ひゃい! みゃ、みゃすたー? 寝ていません。眠る必要のない私が寝るはずがないのです」
『14型、アレを運んでくれ』
俺は蓑虫状態になっているフミコンにまん丸お手々を向ける。
「マスター、了解です」
14型が軽々とフミコンを持ち上げる。
「ち、力持ちじゃのう」
さあて、と。では玉座の間に行きますか。まずは灯りだ。しかし、これは、その後もフミコンには色々と聞き出さないとダメだなぁ。
「マスター、行きましょう」
はいはい。
と、14型がフミコンを持ち上げたまま、俺の後ろに立った瞬間、そのフミコンから大きな悲鳴が上がった。
「ひっ! ま、まさか、星獣!? わしを殺す気か!」
へ? いやいや、殺さないってば。さっきまで普通に会話してたじゃん。
あ! もしかして、暗くて俺の姿がよく見えていなかったのか?
『殺さぬよ』
「ひっ、殺すよりも酷い目にあわせるというのか! この老人をいたぶるのか!」
いやいや、何で、そうなる。
『そのような真似はしないぞ。自分のようなモノを星獣というらしいが、自分には、その星獣としての記憶がない』
「ほ、本当なのじゃな?」
本当だってばさ。そんなさ、俺以外の他の星獣って、魔族を見つけたら、即殲滅みたいな感じなのか。うーん。俺がフウキョウの里で出会ったファー・マウって星獣は、そんな感じでもなかった気がするんだけどなぁ。
2021年5月10日修正
灯りを付けないと → 灯りを点けないと