8-31 こちらでも急展開
―1―
ウルスラはベッドの上に寝転びながら、ごろごろと転がり、床に散らばっていた光る板を取る。そのまま、その板をつついて何かをしている。何しているんだ、こいつ?
「おい」
俺が話しかけても完全に無視だ。くそ、あの紫炎の魔女といい、このウルスラといい、何で天竜族ってヤツらは自分勝手で適当なんだ。まだ2人しか会っていないが、他の天竜族もこんな感じなのか?
……。
仕方ない、このままでは埒があかないからな、一旦、戻るか。
威厳も貫禄もなく、寝転がって遊んでいるウルスラを放置して隠し通路に戻る。そこでは魔法のカンテラを手にセシリア姫が俺を待っていた。
「ラン、大丈夫であるか? 心配したのじゃ」
大丈夫であるよ。セシリア姫は何があったか、聞こうとはしないんだな。まぁ、何かがあったって訳でもないし、何というか、説明するのも難しい内容だからなぁ。
あ、そうだ。
「セシリア姫、ウルスラは起きたみたいだけどさ、済ますべき用件があったんじゃないのか?」
そうそう、起きて貰わないと困る的な、魔族への対応をして欲しそうだった気がするんだけど、大丈夫か?
「女王として立つ許可は貰えたのじゃ。後はわらわたちの仕事なのじゃ」
そ、そうか、まぁ、セシリア姫が納得しているなら、それでいいか。にしても、女王様かぁ。女王様誕生かぁ。うーむ。
「ラン」
はい、何でしょ。
「ランに……ランの国にも、じゃが、わらわを助けてくれると嬉しい」
そう言ってセシリア姫はニカっと笑った。もちろん、助けるさ。国のお偉いさんとしてではなく、普通に、友達同士として助けるさ。
「もちろん。それに俺が困った時には、その時にはセシリア姫が俺を助けてくれるんだろ?」
「もちろんなのじゃ」
姫さまが腕を組み、胸を反らす。神国が信用ならなくても、姫さまは信用できるからな。
俺は俺が出来ることで姫さまを助けるか!
―2―
神国の帰り、迷宮都市でファリンを連れて帰ろうとしたんだが、まだやることがあるということだったので、俺と羽猫、14型の3人? でコンパクトを開き、アイスパレスへと帰還する。
ファリンの才能は信用しているからな。迷宮都市で、以前のノアルジ商会よりも、もっと上手くやってくれるだろう。
俺が屋上から螺旋階段を降り、謁見の間の前まで来たところでフルールが駆け込んできた。うん?
「待ってましたわぁ!」
次にスカイ君が慌てたように駆けてくる。
「ランの旦那、大変ですよー」
次にクニエさんが、
「ラン様、大変です!」
うん? 何やら珍しい組み合わせだな。
『何があった?』
俺が天啓を飛ばすと、3人は顔を見合わせ、タイミングをあわせるかのように、一斉に「大変です!」と叫んだ。いや、だから、何が大変なんだ?
このメンバーだとまともに会話が出来そうなのは……クニエさんか。
『クニエ殿、ゆっくりと落ち着いて説明して欲しい』
「え、ええ、ええ」
クニエさんが大きく息を吸い、吐く。
「ラン様、以前見つけた隠し通路の先に、さらに隠し通路が見つかりました」
な、なんだと。俺がお風呂に造り替えようと頑張っている場所じゃないか。俺のお風呂は無事か!?
「今は蟻人族の方々に見て貰っているんですが、い、いえ、じ、実際に見て貰った方が早いと思います!」
何で蟻人族の方々が? 何か危険なことでもあるのか? ま、まぁ、見に行ってみれば分かるか。
―3―
大分完成に近付いていた地下室の奥に下り階段が現れていた。何だ、コレ? 確かに前はなかった隠し階段だけどさ、何で、こんなものが?
いやだってさ、隠し階段とか、そんな表示は見えなかったんだぞ。線での表示がされない隠し通路とか。ま、まぁ、もとは魔族の城だもんな、そういうこともあり得るのか。
「親方が、ラン様の言われていたとおりに、ここを改造していたところ、あの階段が」
クニエさんが説明してくれる。見つけたの、大工の棟梁かよ。にしても、更に地下、か。まさか、ここからも地下世界に通じているとか、ないよな?
怖がりながらもついてくるフルールとスカイ、慎重に、といった感じのクニエさん、そんな3人を伴い、階段を降りていく。
すると階段の途中で蟻人族の方々がいた。
「ジジジ」
「ジジジ」
「おお、ジジジ、ラン殿」
ソード・アハトさんはこの先か。
階段の先には開かれた扉があった。そして、その扉に寄り添うようにソード・アハトさんがいた。
「ラン、か。ジジジ、見て貰った方が早いだろう」
ソード・アハトさんが後ろ手に扉の先を指差す。
そして、俺は開かれた扉をくぐり、その先へ踏み出す。
そこに『居た』のは、醜悪で嫌悪感をもたらす異形の物体だった。
何だ、これ?
蠢く内臓から虫の足が生えた、謎の生物、それが、その隠し部屋に存在していた。ぐ、グロい。何だ、これ、ホント、何だ、コレ?
「ラン、ジジジ、これが何か私にはわからない」
いや、俺も分からないよ……。
「が、ここまで醜悪なのに、ジジジ、不思議と悪意ある存在にみえぬのだ」
う、うーむ。
いや、でも、これ、何だろう。どうしたら良いのか、本当に困るんですが。紫炎の魔女あたりなら、かまわず燃やせとか言いそうだけどさ。そういうわけにもいかないよな? いかないよな?
うーむ。